名探偵・深見剛助(冗談謎解きミステリ掌編シリーズ・完結)
変形合体スーパーロボット殺人事件
「赤塚さん」
名探偵・深見剛助は、目の前にそそり立つ巨大な金属のかたまりを見上げ、ぼそりといった。
「今は西暦何年なんですか」
赤塚刑事は、ハンカチで汗をぬぐいながら答えた。
「『現代』ですよ、この小説は肩のこらないノベルズなんですから」
「じゃあ、あれはなんなんですか」
深見剛助は金属のかたまりに人差し指をつきつけた。赤塚刑事は悪びれる様子もなかった。
「わたしには、地球防衛軍の最新兵器、三体合体の変形スーパーロボット『LDG』に見えますけれど」
「LDG? またそんな危険な名前を……もういいです。殺されたのは、誰ですか?」
赤塚刑事は手帳を繰った。「二号機パイロットの、速野音太郎ですね。完全に密室状態の操縦席で、頭を鈍器のようなもので殴られて死んでます」
「容疑者は?」
「一号機パイロットの新免一刀と、三号機パイロットの深堀愛作です」
「どちらも操縦席に?」
「いた、と証言しています。なぜなら、これは合体分裂システムの検証のためのテストで、まさに合体したそのときに速野は死んでいたからです」
深見剛助は頭を抱えた。まるで奥泉光氏の「グランド・ミステリー」のような状況ではないか。まさか作者が純文学づいて、あのようなわけのわからんややこしい文学的トリックを仕掛けてくることはないだろう。そうすると作者が自分の無知をさらけ出すことになるからだ。そこまで作者も恥知らずではあるまい。
だから、今、この段階で、犯人を指摘するための目印となるなにかがあるに違いないのだ。
深見剛助はもう一度巨大ロボットを見上げて考えた。
そうか。
敬愛する名探偵、矢吹駆のごとく、単純なまでの現象学的本質直観が、はっきりと犯人を指定していた。
「赤塚さん」
深見剛助ははっきりといった。
「この事件は、手こずるでしょうが、一本道のようなものです。犯人はわかりきっていますよ」
読者への挑戦
ノベルスとしては、ここから、名探偵・深見剛助の執拗な捜査活動と推理と訊問などが執拗に描かれるわけだが、そういうところはミステリとしてあまり面白くないところなので飛ばすことにする。むしろ作者のわたしとしては、セイヤーズ大先生の某長編のように、冒頭部分で、名探偵であるピーター卿が探していた証拠品の「あるもの」の内容を伏せることで、ミステリを成立させた機知を評価するものである。
ということで、わたしは読者に挑戦する。
深見剛助が気づいた、単純なまでの事実とはなにか?
「犯人は深堀愛作です」
困惑する赤塚刑事に、深見剛助は断言した。
「なぜなら、彼にはアリバイがないからです」
「アリバイって、彼は三号機の操縦席に」
「いいえ。座っていたと本人が自称しているだけです。ここで明白なことは、一号機のパイロットである新免は、ひとりでロボットの全操縦をしなければならなかった。それに対し、三号機は、合体してから最後、『やることがなにもない』のです」
深見剛助は頭をかいた。
「事件の真相というものは意外と単純なものなのですよ、赤塚さん」
そう、事件の真相は単純なものなのだ。きみ。なにをする。それは猪木が得意としていたオクトパスホールドではないか。やめたまえ。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い。
名探偵・深見剛助は、目の前にそそり立つ巨大な金属のかたまりを見上げ、ぼそりといった。
「今は西暦何年なんですか」
赤塚刑事は、ハンカチで汗をぬぐいながら答えた。
「『現代』ですよ、この小説は肩のこらないノベルズなんですから」
「じゃあ、あれはなんなんですか」
深見剛助は金属のかたまりに人差し指をつきつけた。赤塚刑事は悪びれる様子もなかった。
「わたしには、地球防衛軍の最新兵器、三体合体の変形スーパーロボット『LDG』に見えますけれど」
「LDG? またそんな危険な名前を……もういいです。殺されたのは、誰ですか?」
赤塚刑事は手帳を繰った。「二号機パイロットの、速野音太郎ですね。完全に密室状態の操縦席で、頭を鈍器のようなもので殴られて死んでます」
「容疑者は?」
「一号機パイロットの新免一刀と、三号機パイロットの深堀愛作です」
「どちらも操縦席に?」
「いた、と証言しています。なぜなら、これは合体分裂システムの検証のためのテストで、まさに合体したそのときに速野は死んでいたからです」
深見剛助は頭を抱えた。まるで奥泉光氏の「グランド・ミステリー」のような状況ではないか。まさか作者が純文学づいて、あのようなわけのわからんややこしい文学的トリックを仕掛けてくることはないだろう。そうすると作者が自分の無知をさらけ出すことになるからだ。そこまで作者も恥知らずではあるまい。
だから、今、この段階で、犯人を指摘するための目印となるなにかがあるに違いないのだ。
深見剛助はもう一度巨大ロボットを見上げて考えた。
そうか。
敬愛する名探偵、矢吹駆のごとく、単純なまでの現象学的本質直観が、はっきりと犯人を指定していた。
「赤塚さん」
深見剛助ははっきりといった。
「この事件は、手こずるでしょうが、一本道のようなものです。犯人はわかりきっていますよ」
読者への挑戦
ノベルスとしては、ここから、名探偵・深見剛助の執拗な捜査活動と推理と訊問などが執拗に描かれるわけだが、そういうところはミステリとしてあまり面白くないところなので飛ばすことにする。むしろ作者のわたしとしては、セイヤーズ大先生の某長編のように、冒頭部分で、名探偵であるピーター卿が探していた証拠品の「あるもの」の内容を伏せることで、ミステリを成立させた機知を評価するものである。
ということで、わたしは読者に挑戦する。
深見剛助が気づいた、単純なまでの事実とはなにか?
「犯人は深堀愛作です」
困惑する赤塚刑事に、深見剛助は断言した。
「なぜなら、彼にはアリバイがないからです」
「アリバイって、彼は三号機の操縦席に」
「いいえ。座っていたと本人が自称しているだけです。ここで明白なことは、一号機のパイロットである新免は、ひとりでロボットの全操縦をしなければならなかった。それに対し、三号機は、合体してから最後、『やることがなにもない』のです」
深見剛助は頭をかいた。
「事件の真相というものは意外と単純なものなのですよ、赤塚さん」
そう、事件の真相は単純なものなのだ。きみ。なにをする。それは猪木が得意としていたオクトパスホールドではないか。やめたまえ。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い。
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NoTitle
確かに合体した後やることが何もない!(笑)
子供の時はあんなに燃えたのに、今思い出すと、「アレ5人で乗る必要ないだろ……」って(笑) 2人、3人はまだしも5人は完全に人材のムダ(^_^;)
しかし駆動中の合体ロボの3号操縦席(おそらく脚部)から2号操縦席(おそらく胴体中心部)までどうやって移動を……。
犯人はロッククライミングの名手なのか! きっとそうだったのだ。
ありがとう深見剛助、謎は全て解けた!(多分)
子供の時はあんなに燃えたのに、今思い出すと、「アレ5人で乗る必要ないだろ……」って(笑) 2人、3人はまだしも5人は完全に人材のムダ(^_^;)
しかし駆動中の合体ロボの3号操縦席(おそらく脚部)から2号操縦席(おそらく胴体中心部)までどうやって移動を……。
犯人はロッククライミングの名手なのか! きっとそうだったのだ。
ありがとう深見剛助、謎は全て解けた!(多分)
Re: 矢端想さん
イデオンもザンボットも容赦ないアニメでしたなあ……。
それにしても、攻撃担当、操縦担当、指揮担当としっかり分かれていたブライガー以外の複数操縦ロボットって、ほかの人間はなにしてるんでしょ(^_^;)
それにしても、攻撃担当、操縦担当、指揮担当としっかり分かれていたブライガー以外の複数操縦ロボットって、ほかの人間はなにしてるんでしょ(^_^;)
NoTitle
そう、合体はしていても各々コクピットで孤独なのがいいのです。
他のコクピットで友がいかに凄惨な死を遂げても、見ているしかない。(例:イデオン)
他のコクピットで友がいかに凄惨な死を遂げても、見ているしかない。(例:イデオン)
Re: LandMさん
最近のスーパー戦隊の合体ロボは全員が同じコクピットに入るから風情というものが……(^^;)
NoTitle
ふうう。
命題はともかく。
私はミステリーは大の苦手なので。
その辺の挑戦は受けません。
・・・とさておき。
確かに合体ロボの操縦者の殺人事件は面白いですね。
誰が何為に・・・という話になりますからね。
命題はともかく。
私はミステリーは大の苦手なので。
その辺の挑戦は受けません。
・・・とさておき。
確かに合体ロボの操縦者の殺人事件は面白いですね。
誰が何為に・・・という話になりますからね。
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Re: 椿さん