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    名探偵・深見剛助(冗談謎解きミステリ掌編シリーズ)

    いらいら殺人事件

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    「急ぎましょう。犯人は自殺するつもりです」

     崖の上へと続く狭くて急な坂道を、名探偵・深見剛助とワトスン役の赤塚刑事は走っていた。赤塚刑事は警察署に携帯で電話をかけていたが、電波のつながりが悪く、なかなか意志の疎通ができないらしい。深見剛助は、警官たちの応援をあおぐのは無理だな、と肚を固めていた。

     赤塚刑事と二人で取り押さえなければなるまい。

    「鵜川さん!」

     崖の上でひとりぽつんと立っている鵜川教授は、海から視線を二人のほうへと向けた。

     教授は内ポケットから懐中時計を取り出した。

    「二時間三十三分遅刻」

     深見剛助はあっけにとられた。

    「え?」

     教授はいらいらしているようだった。

    「二時間三十三分遅刻、といったんだ。平凡な読者の洞察力さえあれば、二時間三十三分前に、わたしはここできみと対決していただろう。念のため三十分前に来てみたら、きみたちが来る気配もなにもない。おかげで、見るものとしたら海しかないこの場所で、三時間も立っているはめになったんだ。年長者を待たせる探偵がどこにいる

    「そんなこといわれたって、あなたの弄したトリックはなかなかの難問で」

    「夜の闇の中におびき出して鈍器で殴る、それのどこがトリックなんだ。それに比べたら、交通事故なんて、自動車という文明の利器を使っているぶんよほどトリッキーじゃないか」

     鵜川教授は出来の悪い学生を指導するかのようにびしびしといった。

    「でも、あなたのアリバイトリックは」

    「アリバイなんか作っておらん。殺人現場から自分の車で交通ルールを守って東京の自宅へ帰っただけじゃないか。あれがアリバイになるのなら、わたしの生徒が代返をしようと策を練るほうがよほどアリバイトリックだ」

    「あなたの隠された動機をつかむのには」

    「きみはほんとうに名探偵のつもりなのか、深見くん。一ページ目からわたしは金がない金がないとうるさいくらいにいっていただろう。きみの耳はどこについているんだ」

    「足取りを追うには苦労して」

    「きみがやったことはそれだけだよ、深見くん。きみは謎解きもなにもせず、わたしの東京の住まいと、出張先の大学と、能登にある実家とをうんざりするくらい歩き回っただけじゃないか。もうちょっと合理的に動けんのか、合理的に」

     鵜川教授はふたたび時計を見た。その顔がしかめられた。

    「もうこんな時間だ。きみの成績はCマイナスだ。やり直しが利く歳だろう。別の職を探したまえ、別の職を」

    「…………」

     深見剛助はなにか反論しようとした。だが、なにも言葉が出てこなかった。

     鵜川教授は時計をしまうと、名探偵に最後の言葉を投げかけた。

    「それじゃ、さらばだ! まったくつまらんミステリだ!」

     鵜川教授は崖下へと身を投げた。パトカーのサイレンが、ようやく聞こえてきた。

     赤塚刑事は、無言で深見剛助の肩に手をおいた。

     名探偵・深見剛助に、事件を解決に導いた勝者としての喜びはなかった。ただ虚しさがあるだけだった。

     深見剛助は、赤塚刑事が、必死で笑いをこらえていたのに気づかないような男ではなかったのである。

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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    ゲームにしたら面白いかもしれませんな。最後に犯人から行動ミスをビシビシ指摘されて、「あなたのスコアは100点満点中何点です」って出るの。

    ……よく考えたら二見書房から昔出ていたゲームブック「シャーロック・ホームズ10の怪事件」ってまさにこれじゃん。クリアするためにはシャーロック・ホームズ並みの知識と推理能力を持っていなくてはならんゲームブックでもありましたが(^^;)

    NoTitle

    殺人とトリックに彩られた事件の果てに、採点が待っていた……!
    犯人自らに採点される名探偵って、このシリーズでないと見ることは出来ませんね(笑)
    そして結局飛び降りるのか! 良く三時間も待ってたなこの人!

    Re: ダメ子さん

    環境汚染はいけません。トイレの汚物入れに捨てましょう(^^;)

    とはいっても、トリックを考えられないミステリ作家が、ご都合主義に走るのもわかるような気がします。「プロットで犯人を追う」という書きかたを「本格ミステリ・フラッシュバック」ではよくしていましたが……。

    Re: LandMさん

    二時間サスペンスドラマのラストシーンのよくあるパターンから思いつきました。

    こういう展開と結末の作品で、何十万部も売れているベストセラー、とか聞くと、こんちくしょう、という気分になります。

    ひがみですとほほ。

    NoTitle

    二時間半分のページの引き伸ばしもあったとすると、読者も教授と同じ気持ちになって、本を崖から投げ捨ててるかもです

    NoTitle

    ちょっと吹いた。
    そりゃそうだ。
    崖の上でぼ~~と待っていて、
    率直に「来るのが遅え:::」
    って思うこともありますわな。
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