名探偵・深見剛助(冗談謎解きミステリ掌編シリーズ・完結)
番外編:ランゲルハンス島殺人事件
名探偵・深見剛助は、鑑識が殺人現場となったホテルの部屋の隅々まで調べている間、外の自販機の前で赤塚刑事とコーヒーを飲んでいた。鑑識が証拠物件をすべて拾い集めるまでは、刑事は現場に入ることもできない。いわんや素人探偵をや。
「あの女を刺殺した犯人は、すでに国外へ高飛びしたものと思われます。だいたいの顔と、日本人の男だということはわかっていますが、名前と行き先が……いますぐ手配し、重点的に探せばなんとかなると思うのですが、どうも変装していたらしくて、税関をくぐってしまった後らしいんです」
赤塚刑事はくやしそうにいった。
「ダイイング・メッセージはないんですか?」
「らしきものはありますが、これまた難解で。『H.E.ランゲルハンス島』とだけ書かれたメモが一枚。被害者の自筆です」
「ランゲルハンス島……聞いたことがあるような」
赤塚刑事はさらに悔しそうにいった。
「膵臓内にある、膵液を分泌する細胞群です。ほら、数年前にベストセラーになったでしょう、村上春樹のエッセイ集のタイトルに使われていましたよ」
「ぼくは村上春樹は読みません。だいたいあんなやつがチャンドラーを改訳するなんて……」
深見剛助はうなったが、すぐに事態はそれどころではないことを思い出し、コーヒーを飲んだ。
「でも、どこかで聞いた覚えがあるんですよ……村上春樹のではなく。H.E.……」
深見剛助ははっとした表情を浮かべると、スマートホンを片手に調べ始めた。
「赤塚さん、よく聞いてください。犯人の向かった先は、北緯三十八度五十四分、西経七十七度零分十三秒です」
「なんですって?」
「アメリカのSF作家にハーラン・エリスンという人がいます。代表作だらけの人ですが、その中に、ヒューゴー賞を獲った『北緯三十八度五十四分、西経七十七度零分十三秒、ランゲルハンス島沖を漂流中』という作品があります。HとEはハーラン・エリスンのイニシャルに間違いありません」
赤塚刑事もスマートホンを操作した。
「どうやら深見さんの、いや、日本の警察の手に負える問題ではなさそうですね……」
地図ソフトには、その座標がどこを示しているのか明瞭に表れていた。
「見てください、ワシントンDC、ホワイトハウスの目と鼻の先ですよ……」
「限界ですね」
ふたりは苦笑いを浮かべるしかなかった。この事件は公安に回され、ふたりの出る幕はなくなるだろう。
なぜなら作者のわたしはアメリカのその界隈がどのような様子なのかまるで知らないからだ。スパイ小説や冒険小説をも書けるようにぜひ十万の取材費を……。
「あの女を刺殺した犯人は、すでに国外へ高飛びしたものと思われます。だいたいの顔と、日本人の男だということはわかっていますが、名前と行き先が……いますぐ手配し、重点的に探せばなんとかなると思うのですが、どうも変装していたらしくて、税関をくぐってしまった後らしいんです」
赤塚刑事はくやしそうにいった。
「ダイイング・メッセージはないんですか?」
「らしきものはありますが、これまた難解で。『H.E.ランゲルハンス島』とだけ書かれたメモが一枚。被害者の自筆です」
「ランゲルハンス島……聞いたことがあるような」
赤塚刑事はさらに悔しそうにいった。
「膵臓内にある、膵液を分泌する細胞群です。ほら、数年前にベストセラーになったでしょう、村上春樹のエッセイ集のタイトルに使われていましたよ」
「ぼくは村上春樹は読みません。だいたいあんなやつがチャンドラーを改訳するなんて……」
深見剛助はうなったが、すぐに事態はそれどころではないことを思い出し、コーヒーを飲んだ。
「でも、どこかで聞いた覚えがあるんですよ……村上春樹のではなく。H.E.……」
深見剛助ははっとした表情を浮かべると、スマートホンを片手に調べ始めた。
「赤塚さん、よく聞いてください。犯人の向かった先は、北緯三十八度五十四分、西経七十七度零分十三秒です」
「なんですって?」
「アメリカのSF作家にハーラン・エリスンという人がいます。代表作だらけの人ですが、その中に、ヒューゴー賞を獲った『北緯三十八度五十四分、西経七十七度零分十三秒、ランゲルハンス島沖を漂流中』という作品があります。HとEはハーラン・エリスンのイニシャルに間違いありません」
赤塚刑事もスマートホンを操作した。
「どうやら深見さんの、いや、日本の警察の手に負える問題ではなさそうですね……」
地図ソフトには、その座標がどこを示しているのか明瞭に表れていた。
「見てください、ワシントンDC、ホワイトハウスの目と鼻の先ですよ……」
「限界ですね」
ふたりは苦笑いを浮かべるしかなかった。この事件は公安に回され、ふたりの出る幕はなくなるだろう。
なぜなら作者のわたしはアメリカのその界隈がどのような様子なのかまるで知らないからだ。スパイ小説や冒険小説をも書けるようにぜひ十万の取材費を……。
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Re: ダメ子さん
でもこちらからのアクションがなにもできないのもなんだな。
間をとってグランドセフトオートでも……(やめんか)