名探偵・深見剛助(冗談謎解きミステリ掌編シリーズ)

    番外編:深見剛助の挑戦

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     赤塚刑事がメモを読みつついった。

    「容疑者は有島実紀、会社社長の五十五歳男と、矢口壮弥、二十一歳大学生の、このふたりです」

     現場は完全な密室だった。死体は打ちっぱなしのコンクリートでできた地下室に転がっていた。背中には短剣が突き刺さっており、その角度は自殺では不可能なものだった。

    「殺されたのは滝沢鉄斎……滝沢グループの元会長で、美食とヒスイのコレクションをなでることだけが趣味のような爺さんです。八十七ですから、わざわざ殺さなくったって死ぬのを待てばいいようなものですが、犯人はよほど急いだんでしょう。地下室に誘い込み、殺した」

     名探偵・深見剛助は、頭をかいた。

    「赤塚さん、滝沢老人に自殺するような動機は?」

     赤塚刑事は首を振った。

    「まったくありません。食欲も物欲も、いたって健康。前日は、急に食べたくなった特別製の子羊肉を朝になったら作らせるよう執事に命じていたうえに、ヒスイのコレクションに加える出物を買うため、台湾のオークションに代理人を派遣する手続きをしていました。すぐ死ぬつもりはまったくなかったことはたしかです」

    「ふうむ」

     深見剛助は帽子を脱いで頭をかいた。

    「赤塚さんがおっしゃっていましたが、犯行が可能だったのはこのふたりだけなんですね?」

    「はい。犯行時刻と思われる時間には、この屋敷は食事会の真っ最中でした。コックが料理を実演する、という趣向があったため、屋敷内の全員がこの部屋に集まっていたんです。部屋から出たのは被害者と容疑者ふたり、この三人だけです」

    「部屋から出た時間は?」

    「まず、有島が十九時の鐘が鳴ったときに用便をもよおして部屋を出ています。その直後、十九時三分ごろに滝沢老人が、やることを思い出した、と部屋を出ました。十九時八分、そろそろ料理の一番いいところが出来上がる、といわれ、矢口壮弥が滝沢老人を探しに部屋を飛び出しました。執事さんはなにをしていたかですが、コックの作業を手伝っていたのです。入れ違いに有島が部屋に戻ってきました。十九時三十分、矢口が大声を出しながら部屋に飛び込んできました。地下室で老人が死んでいる、と」

    「ふたりが共犯だった可能性はありませんか?」

    「犬猿の仲……というか、利害が完全に対立しています。事の起こりは滝沢グループの大学での、学長をめぐる教授会の選挙問題で、矢口は学生会長として、有島が推す教授とは対立する教授を推していたのです」

    「いくら学生会長とはいっても社長に比べれば」

    「矢口はアジテイター兼オルガナイザーとしては天才的な腕を持っていました。講師や学生たちを説き伏せ、大学における『総意』というか、圧倒的多数派を形成してしまったのです。最近では教授たちも、学生の人気を取らなくてはならない時代ですから、その影響は無視しえない。かたや有島のほうもかなりの策謀家で、癒着関係にあった教授を学長に据えるためならあくどいことなどためらわない、という人間でした。選挙は教授会を離れてこのふたりの間で戦われていたようなものです。今も取調室で、異口同音に、やったのはあいつだ、といってますよ。ここで相手をゲーム盤から除去さえすれば、後は自分の天下ですから。有島はより癒着を深めてかなりの利権を獲得できるのに対し、矢口は卒業後政界へ打って出るのに、大学からの積極的なサポート、という強い武器を手に入れられます」

    「滝沢老人はなんでそんなふたりを招いたんですか」

     赤塚刑事はメモのページを繰った。

    「教授のことは教授に任せるべきだ、と、ふたりの過激な運動の仲裁をはかったんですな。食事会は手打ち会、というわけです。どうやら間に挟まれて身動きも取れずにつらい立場にいる教授が、泣きついたらしい」

    「選挙の情勢は?」

    「五分五分というところです」

    「なるほど」

     深見剛助の目が、きらりと光った。

    「赤塚さん、挑戦しますよ。犯人を指摘できますか?」



     深見剛助よりの挑戦

     深見剛助は赤塚刑事に挑戦した。あなたも赤塚刑事や深見剛助と同等の立場に立って、見事犯人を指摘できるか?




     赤塚刑事は頭を抱えた。目をつぶり、一心に考えた。

     やがて、苦悶のうめきをひとつもらすと、首を振った。

    「降参です。殺人者は、有島か矢口のどちらかだと思うのですが、決め手どころか、決め手に至る道、手がかりになるものひとつすらもわたしにはまったく見えません」

     深見剛助はうなずいた。

    「それでいいんです」

    「え?」

    「完全なデータがなにひとつ揃っていない段階で犯人を指摘するなんて、それは無理です。もし、勘だけに頼って犯人を指摘したら、それは推理でもなんでもない、ただの博打です。無理なことを認めることから名探偵への道は始まるのです。わからないうちはわからないままでいいんです。昨日買った漫画雑誌の医学漫画でも、主人公はそういうセリフを吐いていました。赤塚さん、あなたは刑事としての、名探偵としての道を踏み外してはいない。さあ、さっそく、捜査にとりかかりましょう」



    ボゴッ(怒り狂った読者により作者撲殺)

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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    このショートショートは30年前のコロコロのマンガ「とどろけ! 一番」の「答えなしもまた答えなり」という名言からヒントを得て……(そうか?(^^;))

    NoTitle

    挑戦のタイミングも大切ですね(笑)
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