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    恩田博士と生まれ変わりの機械たち(児童読物・完結)

    恩田博士と生まれ変わりの機械たち 1

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     それは、いっしゅんのできごとだった。ぼくは、車道をはさんだガードレールにしがみつき、ふるえながらそのありさまを見ていることしかできなかった。

     八木くんは、ぴくりとも動かなかった。そのかわりに赤い血が、たおれて横たわったからだからアスファルトにじわじわとにじみだして、黒い水たまりのようなものを作っていった。

     交差点は人のさけびで耳がいたいほどになっていたが、意味のある言葉は聞こえなかった。ぼくにとっては音がしないも同じことだった。

     救急車とパトカーのサイレンの音で、ぼくはようやくわれにかえり、空を見上げた。

     雲ひとつない青空だった。



     家に帰ってじっとしているのが、いちばんほめられたやりかただ、というのはわかっていた。だけれどぼくは、ほめられることがとてもへたくそな人間なのだ。お兄ちゃんがおふろに入っているすきに、ぼくはそっと家のかぎを開けて抜け出した。夜空には、ぽっかりと月がうかんでいた。思ったよりも、外は明るかった。

     ほめられたことはあまりないけれど、しかられることもあまりなかったぼくにとって、夜の道をひとりで歩くのはとてもどきどきすることだった。ちょっぴりこわかったのもほんとだ。小学四年生ともなれば、ふくろを持った人さらいのおどかしなんかをまじめに聞くような年じゃなかったけれど、ニュースで流れているきょう悪なんとかじけんのうわさにはちょっとたじろぐ気持ちがあったのは、はずかしいけれどもみとめなくちゃいけない。

     明日の朝までには家に帰ること、それだけは決めていた。ぼくにとって必要なのは、ぼくのこの心のもやもやを、いっしょになって分け合ってくれる人だったからだ。友達? だめだ。友達と話し合ってどうにかなるもやもやじゃない。先生? 問題外。だって、父さんや母さんとも話せるような内容じゃないんだから。

     ぼくは、ライトをつけた車がびゅんびゅん飛ばしているかんせん道路から、わき道に入りこんだ。アスファルトは、すぐにじゃり道に変わった。雨がふっていたら、どろどろでとても歩けたようなものじゃないけれど、さいわいに、今夜は晴れなのだ。ぼくは足音をざくざくいわせて歩いた。もう、ここまで来たら、追ってくる人なんているわけもない。いくら足音を立てようと、かまわないだろう。

     すぐにぼくは、かいちゅう電灯を持ってこなかったことを後かいすることになった。目の前は、木々による真っ暗なトンネルとなっていたのだ。昼間だったらそんなもの、鼻で笑ってくぐり抜けてやる。だけど、太陽がしずんでなにもかもぼんやりとしか見えなくなった後では、その暗がりは、へびやさそりやタランチュラなんかをかくしているように思えてしかたがないのだ。

     帰ろうかと、ちらっと思った。

     おじけづいた心をふるい立たせたのは、きのう学校から帰るときに見た八木くんの顔の思い出だった。あの明るさときぼうにみちた顔が、勇気をくれた。ぼくはぐっとくちびるをかみ、トンネルへ飛び込んでいった。何回も、八木くんといっしょに歩いた道だもの、トンネルには走れば十まで数え終わらないうちにくぐりぬけられるほどの長さしかないことくらい知っている。ちょっとこわかっただけだ。ぼくはじゃり道をふみ外さないように、ざくざく、ざっざっ、ざくざく、ざっざっ、と走った。

     当たり前の話だけれど、ぼくはトンネルをぶじに通り抜けた。思ったよりもかんたんだった、と思う。こわがらせるものがあったとしたら、それはぼくのおくびょうな心だ。

     でも、こんなことを書くと、ぜったい、先生、おこるんだよな。家を飛び出して、夜道を歩かなくちゃいられないという心自体が、おくびょうなんだって。小学生が暗い夜道を歩くのは、勇気があるんじゃなくて、ただの、ばかだって。だから、ぼくは、大事なことを先生なんかには相談しないんだ。

     ぼくが相談したいただ一人の人は、このじゃり道のおくのおやしきに住んでいた。

     おやしきだよ! うちみたいな、たて売りじゅうたくなんかじゃない、昔ながらの西洋館だよ。それだけでも、信じていい人だ、そう思うだろう?

     ぼくは、ふたたび月の光で明るくなったじゃり道を、ひた走りに走った。

     『恩田稟鉄』というひょうさつがかかった、さびたこう鉄の門をぎいっと音を鳴らして開け、げんかん口へまっしぐらに走った。古びたよび鈴のくさりをひっぱって、ベルをちりんちりんと鳴らし、とびらをどんどんと力いっぱいにたたいて、ぼくはできるかぎりの大きな声でさけんだ。

    「博士! 恩田博士! 開けて! ここを開けて!」

     犬がほえた。遠ぼえというんだって。


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    ~ Comment ~

    Re: 草灯籠さん

    冒険といえば宇宙であります。それも、想像力の赴くままに描かれた宇宙であります。

    だから好き勝手なことを書いてます。お気に召したらまたいらしてください(^^)

    はじめまして

    はじめまして。妖精遊園地につれてっての草灯籠と申します。
    なんだかとってもワクワクする始まりで素敵ですね♪
    宇宙旅行と、冥王星での冒険物語とかって胸キュンすぎます。ズルイです。

    短編小説をいくつか読ませてもらいました。
    オチがしっかりあって、まさに「をかし」ですね。
    また寄らせてもらいます。

    Re: LandMさん

    胸躍る宇宙旅行と、冥王星での冒険ですよ(^_^)

    今回はストレートすぎるほどストレートに攻めてみました。

    NoTitle

    少年のひたむきな姿には心が惹かれるものがありますね。
    それはそれでここからどうなるか。。。ですね。

    Re: ネリムさん

    わたしが大好きなものを片っ端から入れました。

    どうぞ楽しんでいってください!

    こんにちわ
    どこか懐かしい雰囲気ですね。
    続き読ませて頂きます。

    Re: limeさん

    そんなこといわれるとがんばっちゃうよわたし!

    とにかく今はなすべきことをなせ、です……。

    Re: 山西 サキさん

    ありがとうございます。

    この小説は、とにかく作者の趣味に走らせてもらいました。

    わたしの好きなものがいっぱい詰まっています。

    どうか楽しんでいってください。

    NoTitle

    このお話で今回は参加なのですね。
    私もまた読んでみよう~。
    アルファさん、投票してきました。
    頑張ってください^^

    NoTitle

    おぉ!面白そうです。
    昭和30年代の香りがしますが、気のせいでしょうか?
    (あ、サキが知っているはずがないか。すみません妄想です)
    いきなり八木君は血の海の中だし、いったい何がどうなってるんでしょう?
    それに『恩田稟鉄』どんな人なんだろう?博士だし……。(わ!これも昭和)
    終わり方も不気味だし。
    素敵です。
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