恩田博士と生まれ変わりの機械たち(児童読物・完結)

    恩田博士と生まれ変わりの機械たち 2

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     まっくらなおやしきには、明かりひとつついていなかった。

     恩田博士は、もうねちゃったのかな。がっかりして、ぼくがふり返ったとき、声がかけられた。

    「鈴木くんかね? もっと正しくいえば、おかの上にある小学校に通っている、四年生の鈴木貴則くんかね?」

     そのあたたかい声と、月光に照らし出されたフロックコートとぼうしの姿を見て、ぼくは安心した。ほっとした。博士のトレードマークである、白いかみとていねいに整えられた口ひげが、月光をあびてきらきら光った。恩田稟鉄博士。ぼくがこの世でいちばんそんけいしていて、なんでもなやみごとを打ち明けることができるただひとりの人だ。

    「恩田博士! どうしたんですか?」

    「それはわしのせりふだよ」

     恩田博士は、やれやれ、とでもいうようにかたをすくめた。

    「いったい、なにがあったのかね」

     博士のその話し方に、これまでこらえていたものが一気にあふれ出してきた。

    「博士、博士、八木が……やぎすけが……」

     そのまま、ぼくは、恩田博士のフロックコートのすそをつかんで泣いた。自分でも、どうしてこんなに泣けるのかわからない、そんなくらいのなみだだった。

     お父さんなら、ぼくをばかとしかるだろう。男が、そんなにたくさんのなみだを流していいのか。世の中には、もっとつらいことがたくさんあるんだ、って。わかってるよ。そんなこと、わかってるよ。だけども、ぼくには、泣くのをゆるしてくれる大人が必要だったんだ。

    「鈴木くん」

     恩田博士は、しっかりとした声でいった。

    「なにがあったのか、話してくれるね。八木幸介くんになにがあったのか、順を追って、てきせつに」

     ぼくはうなずいた。

    「八木くんが、交差点をわたろうとして、車にはねられたんです。あいつ、ちびだったから、体がゴムボールみたいにはじき飛ばされて、ゴムボールみたいに落ちたんです。救急車が来て、すぐに運ばれたんですが、ICUに入れられた、とか聞いたけれど、それから先のことはなにもわからないんです」

    「ICU、集中ちりょう室のことじゃな」

    「知っているんですか、博士?」

    「きみも聞いたことがあるだろう。最新の機械が山のように備えられた、じゅくれんしたお医者さんたちが最高のうでをふるえるようにしつらえられている、現代医学のすいをこらして作られた手じゅつ室だ。わしも入ったことがあるからわかる」

     恩田博士は、ぼくの頭をなでながら、重々しくうなずいた。

    「今、八木くんは、お医者さんたちの優れたちりょうのもと、自らのけがと戦っているのだよ。きみの話では、そうとうな大いくさになっているようだが、きみにできることはなにもない。家へ帰って、心の中で、八木くんをおうえんすることだ。それがいちばん」

     先生がいうのと同じことでも、博士がいうと、信らいせい、というものがちがう。

     けれど、なにがなんでもいわなくてはいけないことがあったんだ。ぼくは鼻をすすり、なみだをそででふき、のどがひくひくいうのにたえた。

    「でも博士、どうしても、やらなくちゃいけないことがあるんです。だけど、ぼくには、それをどうしたらいいかわからないんです」

     博士はしんけんな顔になった。

    「そうとう、こみ入ったことがあるようだな。でも、のき先で話すわけにもいくまい」

     そういうと、むねポケットからペンライトを一本ぬき、その首をくいとひねった。たちまちのうちに、目もくらむような明るい青い光が、その場をてらした。

    「ついてきなさい。残りの話は、実験室で聞こう」

     ぼくは、博士に案内されるまま、実験室……どう見ても、使い古しの機械たちが置かれた、機械室というか、物置みたいなところだけど……に向かった。

     博士はペンライトで室内を照らし、かんたんにいすとテーブルを見つけ出した。

    「鈴木くん、そこへすわりなさい。あいにくと送電線が切れているとかで、電灯がつかないのだ。それでも、わしの発明したスーパーまほうびんはゆうしゅうだ。そこに麦茶が入ったやつがあるから、てきとうにやってくれたまえ」

     ぼくは、麦茶なんかより、さとうがたっぷり入ったあまいミルクコーヒーがいいな、と思いながらも、恩田博士のいう「スーパーまほうびん」をさがし当て、そのふたになっているしんちゅうのコップを取り外し、中の麦茶を注いだ。麦茶は、飛び上がるほど冷たかったが、ぼくの頭をしゃっきりとさせる役には立った。

     そう。この恩田博士という人は、大学にいたころは機械工学のえらい人で、学部長から名よ教じゅにもなったそうなんだ。いんたいした今では、このおやしきに引っこんで、いろいろとべんりな発明をしては、「科学ぎじゅつにこうけん」しているんだって。

    「それで鈴木くん、きみの心配事とは、なんだね?」

     ぼくはちょっとしんこきゅうし、いった。

    「笑わないでくださいね。やぎすけ、こくはくする気になったんです。女の子にですよ、もちろん。ぼくが、この手でラブレターを運んだんだから、まちがいありません」


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    Re: LandMさん

    そりゃあ博士というからには、知識があって度量が広く、少年を教え導く存在になってほしいではないですか(^_^)

    そういう意味で、理想の人物を投影しております。昭和三十年代的といわれようと、かまやしません(笑)

    NoTitle

    ああ、ポールさんらしい展開ですね。
    どちらかというとインテリな科学者ノリなところが。
    禁断の何かに踏み入れるのでしょうかね。
    少し気になるところですね。
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