恩田博士と生まれ変わりの機械たち(児童読物・完結)

    恩田博士と生まれ変わりの機械たち 3

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     博士は笑わなかった。ほらみろやっぱり、大人物という人は、ふつうの大人とはちがうんだ。

    「続けてくれたまえ」

    「はい。あいては、愛海ちゃんという、ちょっと地味な女の子でした」

     ぼくはその子の顔を思い出した。美少女とはおせじにもいえない、カレーまんのような黄色くてまんまるな顔をした女の子だ。ぼくのタイプではない。

    「今日もぼくとやぎすけは、いつものように、学級文庫を読んでいました。あいつは、古くさい本を読んでいたな。ええと、なんだったっけかな、えど川らんぽの本だったことは確かです。ぼくは、最近ベストセラーになっている野球小説のほうを読んでいたんですけど」

     恩田博士は、しせいを正して聞いていた。

    「あいつ、本を読むのだけはめちゃくちゃ早いんです。テストのせいせきはぼくと同じくらいなのに。ええと、どこまで話したっけ」

     恩田博士は、ぼくの手からコップを取ると、スーパーまほうびんから麦茶をもういっぱい注いでくれた。

    「ちょっと冷たいものを入れると、頭がよくはたらくようになる。飲みたまえ」

     ぼくは飲んだ。少しつかれた舌とあごの皮に麦茶がしみこむようだった。ぼくは続けた。

    「あいつ、読んでた本を本だなにもどし、さあ帰ろう、とぼくにいいかけました。そのとき、あいつは見つけたんです。教科書くらいの大きさの小さなノート」

     ぼくは、手でその大きさを示した。

    「わすれ物かな、ってぼくがいうと、やぎすけは、じゃあ持ち主に返さなくちゃ、って、名前をさがしてページを開きました。開いたとたん、ぼくとやぎすけはぶったおれそうになりました」

     ぼくはそのときのことを思い出した。表紙を開くと、ものすごくうまい絵で、映画に出てくるようなギリシアの戦士が暴れていたのだ。ぼくと八木くんは、取り合うのもわすれて、むちゅうでページをめくった。

    「大はく力のマンガでした。ぼくもやぎすけも、ぼおっとなってしまいました。博士、えんぴつで書いただけで、色もぬっていないのに、木の色や土の色や、やりやよろいの重さや手ざわり、馬の鳴く声や飛んでくる矢の音までが感じられてくるんです」

     ぼくも八木くんも、どきどきしていた。

    「天才だ、天才が、クラスにいたんだ、って、ぼくたちはしゃべりました。問題は、そのマンガが、とちゅうで切れていたことでした。ぼくもやぎすけも、続きが読みたくてたまりませんでした。やぎすけは、そのノートを手に、かべに張り出してあるよせ書きのひとつひとつと、マンガのふき出しの字とをくらべ始めました。西沢愛海ちゃんに行き着くまでに、そう時間はかかりませんでした」

     恩田博士はうなずいた。

    「八木くんは頭のいい子だったからな。マルバツ式のテストには向いていない子だったが、そう明な子だった。それからどうなった」

    「はい。ぼくは、このノートをそっと返してやろう、といいましたが、やぎすけは反対しました。やつは、これは、きっといじめにちがいない、といったんです。そうでなければ、こんな大事なノートを学級文庫の本だななんかにかくさない、って」

    「それで、ラブレターを書くことにしたわけだな。でもふつうはそういう手紙は、ファンレターというんだよ、鈴木くん」

    「いえ、ラブレターです。やぎすけは、どうしても心からあの子と話したい、っていってました。ノートを返すと同時に、お友達になってください、っていう手紙もわたすのでついてきてくれ、ってぼくにいったんですから。あいつ、ぼくの目の前で下書きを書いて清書までしていましたから、どんなものだったかははっきりおぼえています」

    「それが八木くんが車にはねられたことと?」

    「あいつ、ファンシーなふうとうを買いに、交差点の角にある文ぼう具屋へ行ったんです。青信号が点めつしていました。よせといったけれど、あいつ、飛び出していって」

    「ふむ」

     ぼくはいいよどんだ。

    「ぼくは、やつの手紙の下書きと、ノートを持って、西沢さんの家に行きました。げんかんへ出てきた西沢さんに、ぼくが手紙とノートをわたしながら、やぎすけの思いと、やつが車にはねられて動かなくなり、救急車で運ばれたことを話すと、西沢さんの顔は真っ青になって行きました。愛海ちゃんが、練炭自殺を図ったと、五時に電話がかかってきました。『そういってくれた人は初めてです。いっしょにめい界に、星となっておともします、八木さん』と書かれたメモが残っていたそうです。ぼくはどうすればいいでしょう」


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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    むしろアイデアのもとになったのは、「チキチキバンバン」だったりします。

    まともに通して見たことがないのでものすごく見たいのですが、レンタル店にないんだよなあとほほほ。

    NoTitle

    子どもの健気なところと科学者なところが鉄板ですね。
    (*_*;

    Re: カテンベさん

    愛海ちゃんはそうとう陰湿ないじめを受けて、とどめにこれでまいっちゃったんだろうなあ。

    ……はい後付け設定です。

    やっぱりそういうところに突っ込んでくれる編集者がいないとわたしダメみたい(^_^;)

    生死不明の友人が死んだと決まったわけでないのに後追い自殺のよーなことするやなんて、子供の行動力は予想外やわ
    ICUにいます、と自殺を図った、やから、まだどちらも死んではなさそやけど
    ふたりの安否を気にしてるんやろか?
    漫画の続きが気になるのよ、博士〜、てのやないですよね?
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