恩田博士と生まれ変わりの機械たち(児童読物・完結)

    恩田博士と生まれ変わりの機械たち 7

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    「力いっぱいこげ」

    「こいでます」

     博士とぼくは、ペダルを一心にこいでいた。ペダルが回ると、このうちゅう船の先っぽにすえ付けられた、もとはせん風機から取り外したプロペラがぐるぐる回るのだ。

    「いいかな、バザード・ラムジェットというのは、うちゅう空間に漂うわずかなりゅうしを、かき集めてのうしゅくし、それをパワープラントに送りこんですい力を作るのだ。このプロペラは、そうしたわずかなりゅうしをかき集めるためのラム・スクープ、すなわち大きなじょうごの形をした力場をだな」

    「博士、その説明、もう五回は聞いてますよ」

    「きみがこぐのにつかれはてるまで、何度でも聞かせてあげよう。もともと、このすい進方式はだな」

     ぼくは、歯を食いしばってペダルをこいだ。CDラジカセの曲は、いつの間にか変わっていた。音楽の時間にやった、『こげよマイケル』だ。

    「まいけるろーざぼーてぃしょー、はれるーや」

     ぼくが半分やけになって歌うと、博士もいっしょに歌い、いった。

    「そう、そのちょうし。カリフォルニアでみがかれたわしの発音を覚えておけば、中学校で英語のヒアリングテストに出てきても、こわいことはまったくないぞ」

    「博士」

    「なんだ」

    「いまどきの小学校では、英語くらいやるんですよ」

     ぼくは苦しい息の下からそういいかえした。博士はまんぞくそうに答えた。

    「よし、きみはまだ冷静さを保っているな。それでは、あれを見るんだ」

     ぼくはペダルをこいでこいでこぎ疲れていたが、博士の指差した先を見て、あっと声を上げた。

    「月だ! 月が、こんなに大きく見える!」

    「当然だ。このラムジェットがどれだけの速度に達していると思う。すでにサターン5型ロケットが全速力を出しても追いつけないほどだ」

     博士のそんな言葉も聞こえたものではなかった。ぼくの行く手には、明るく光る月面があった。クレーターまで、ばっちり見える! ぼくは、この白く美しい天体を見ていたが、ふと、ふり返ろうとした。

    「ふり返ってはならん」

     恩田博士が、いつもからは思いもよらないような強い声でいった。ぼくはびっくりした。

    「なぜですか? ぼくは、地球を見ようと思っただけなんですが」

    「地球など、帰るときにいやでも目にすることができるからだ。いま、われわれが、八木くんと愛海ちゃんを助けるためにしなくてはならないことは、ひたすらに前を向いて、ペダルをこぎ続けることだけだ」

     ぼくはその言葉に、ほほを思いっきりぶんなぐられたような気持ちがした。

    「すみません、博士。ぼく、月の美しさに目がくらんで、旅の目的をわすれていました」

     恩田博士は、いくらか優しい声になった。

    「声を荒げたりして、わしもすまなかった。でも、これはいっておかなければならないことだったのだ。いいかね、このラム・スクープは、いったいどんなりゅうしを集めてエネルギーにしていると思うかね」

     ぼくは考えた。

    「わかりません……いん石のかけらですか?」

     博士は笑った。ぼくの答えに、ちょっと感心したときの笑いかただった。

    「なるほど。ラム・スクープを使って、うちゅうのゴミやいん石のかけらをさいしゅできたら、うちゅうの大そうじはかなり楽になるな。そうなれば、これはたいした発明だ。だが、わしのこのラム・スクープは、それとはちがうものをすくい取っている」

    「なにをすくい取っているのですか?」

    「かなわなかった願い」

    「え?」

    「とどかなかったゆめ。自分の人生における、どうしようもないあやまちと、それについての後かいの思い。そういったものを吸い取って、別なエネルギーに生まれ変わらせ、すい力にしているのだ。いわば、このラムジェットエンジン自体が、ひとつの、『生まれ変わりの機械』のようなものなのだ」

     ぼくは、ほんとうのことなのかな、と首をひねりかけ、今横切りつつある月を見た。その美しい姿は、ぼくのぎ問を吹き飛ばすのにじゅうぶんだった。ほんとうだ。ほんとうに、ぼくたちは人びとのくやしい心を集めて、それを正しいなにかに生まれ変わらせているのだ。

    「信じます! リンカネ先生!」

    「信じなくてどうする。わしはこれでも、名よ教じゅだぞ」

     ぼくはその言葉に、うれしくなってさらにペダルをこいだ。大天才の博士がいれば、めい王星なんか、あっという間だ!


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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    ここらへんの宇宙旅行シーンは、後からじわじわ効いてきますのでよろしく(^_^)

    それにしても宇宙の冒険というやつはいいですな。

    まあSFというよりファンタジーですが……。(^^ゞ

    NoTitle

    すいません、コメント絨毯爆撃です。

    ヤバいです、もうツボすぎて悶絶です……。
    月の傍を通過しながら、推進力は「届かなかった夢、後悔の気持ち」とか、もう!!
    おおー、私の分も持ってって、八木くんと愛海ちゃんに届いて!
    なんか、自分の中のそういう気持ちがここで浄化されたような気がしました。ありがとうございます(ToT)

    いいなあ、こういう。子供の時は本当にはわかんない感情がきちんと書いてある子供向けの物語って! 
    まだ知らないから、書いてないとダメなんですよ。知ってることだけ書いてある本なんか何の魅力もないですもんね。

    興奮しすぎですね、スミマセン;; 
    このお話、大好きです。

    Re: ネリムさん

    やはり宇宙と超科学には、夢とロマンがありますな。

    そう考えるわたしはまだ何かのしっぽを引きずっているのかもしれません。

    こんにちわ
    宇宙旅行は素敵だと思いました

    Re: 涼音さん

    人力推進宇宙船にはやっぱりロマンというものが(^_^)

    ほんと、好きなんですよ宇宙ラムジェット。実際はラム・スクープを展開するだけでもべらぼうなエネルギーと速度が必要な、外宇宙航行用の駆動システムで、太陽系内で使うような代物ではないのですが。

    NoTitle

    今日は^^

    『999』の曲で心の中はウキウキでしたが『こげよマイケル』笑った^^
    コキコキペダル漕ぎながら♪
    やっぱりポールさんの話だと思いました。

    そうそう、英語って地域によって全然学習が違うんですよね。
    去年まで居た所は3年生の2学期からでしたが、隣町は1年生から。
    そして今いる地元は6年生からだそうで……。

    彼等は何時から習ってるのかな~なんて思っちゃいました。

    『生まれ変わりの機械』
    いいなぁ。夢がある。私も彼らと一緒に信じてみます♪

    Re: カテンベさん

    ここらへんは、科学と見せかけたスーパーナチュラルな力で飛んでいるということの伏線、というよりその場のノリで書きました。

    好きなんですよ宇宙ラムジェット(^_^;)

    冥王星に向けて、八木くんが粒子を残していってるの?
    宇宙船の外にそんな装置をつけなくても、乗員に友達を救えなかった後悔をしてそな子がいてるから、いくらでも集められそう、て思たけど
    帰りは皆、満足してるやろからエネルギー不足にならないもんなんかな?


    裁判なんかにも使えそう
    後悔や反省がなければ反応しないんでしょうし、エネルギーをつくりだせるなら、賠償の一部にできそうやないですか

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