恩田博士と生まれ変わりの機械たち(児童読物・完結)

    恩田博士と生まれ変わりの機械たち 8

     ←恩田博士と生まれ変わりの機械たち 7 →恩田博士と生まれ変わりの機械たち 9



    「よし、こぎかたやめ」

    「はあっ、はあっ、はあっ」

     ぼくはこぎっぱなしで、ぱんぱんになった足をさすりながら、博士に質問した。

    「博士、どうしてこぐのをやめていいんですか? ペダルを回し続けないと、博士のいった、ぼくたちの思いのりゅうしを取りこむこともできなくなっちゃうんじゃないんですか?」

    「うむ。それはそうだ。しかし、目の前のプロペラを見たまえ」

     ぼくはそういわれて、プロペラを見た。

    「あっ! なにもしていないのに回っている!」

    「そうだ。じゅうぶんな速度にたっしたので、すい力の一部をラム・スクープを広げるシステムにまわすことができた。だから、わしらはこうして休めるというわけだ。わしもいい年だし、きみはまだ小学生だ。足のきん肉は、できるかぎり休ませておきたい」

     それを聞いて、ぼくは体じゅうから力がぬけていく気がした。気がぬけたんじゃなくて、それほどまでにつかれきっていたんだ。

    「はあっ、はあっ、はあっ」

    「でも、よくここまでがんばれた。つかれただろう。これを飲みたまえ」

     ぼくは博士のスーパーまほうびんから麦茶を飲んだ。やっぱり冷たかったが、体にはじんわりと染みてきてとてもおいしかった。

    「べんとうも必要だな」

    「なんですか、これは?」

     ぼくは、博士の手にある、コンビニのクッキー売り場に売っていそうなクッキーの黄色いふくろをながめた。

    「安心したまえ。ただのクッキーだよ。オーストラリアの大学で、農学をやっているわしの友人がこしらえた、はら持ちがよくて栄養たっぷりのクッキーだ」

    「はら持ちって、なんですか?」

     恩田博士はひたいをおさえた。

    「要するに、これを食べると、満ぷく感が長く続くのだ……これでわかるかね、鈴木くん?」

    「おなかがいっぱいになって、それが続くクッキーなんですね」

    「そういうことだ。いちおう、チョコレート味とイチゴ味とホットケーキ味を持ってきたが、君はどれがいい?」

     ぼくはちょっと考えた。

    「チョコにします」

     博士はふくろから、茶色く焼かれたひとつを手わたしてくれた。

    「いただきま……」

     ぼくはクッキーを口に運ぼうとして、あることに気づいた。

    「博士、博士は食べないんですか?」

    「年よりは、もとから食べる量が少なくてすむようになっているのだよ、鈴木くん」

     ぼくはあわてた。

    「そんなのいけませんよ! このクッキーの半分をあげますから、博士も食べてください! ぼくといっしょに、あれだけペダルをこいだんですから!」

     博士はにやりとした。

    「ははは、すまんすまん。実は、わしは食べてきたんだよ、きみがわしの家へ泣きながらやってくるちょっと前にな」

    「え? でも、あれから一時間半くらいたっていますよ」

    「はら持ちがいいクッキーだといっただろう。これひとつで、十二時間は何も食べなくてもだいじょうぶなのだよ」

     ぼくはちょっとくやしい思いをしながら、博士の持ってきたクッキーをかじった。苦くて甘い、チョコレートの味が、頭をすっきりとさせていくようだった。たしかに、ひと口かじり、飲みこむごとに、おなかにずしりとなにかがたまっていく感じがする。博士は、そんなぼくにかまわず、しゃべり続けた。博士が大学で教えていたころも、こんなふうにじゅ業、じゃなかった、こうぎをしたのだろうか。

    「きみは一時間半に思えるかもしれないが、地球上では……いや、天才アインシュタインの考え出した理ろんについて語るのは、きみの頭をごちゃごちゃにさせるだけだろう。地球へ帰ったら、いい本がいっぱい出ているから、それを読んで勉強したまえ。わしはつねづね思っているんだが、そうした、学校の勉強から外れた、むずかしい問題について書かれた本を、宿題とかそういうことはぬきにして、ただ楽しみのためだけに読んでおくことも、ひとつのたいせつな勉強なんだよ。ちょうど、わしがつまらぬギリシア語のじゅ業にぶつくさもんくをいいながらも、けっきょくソフォクレスやウェルギリウスといったギリシアやラテンの名作のとりこになってむさぼり読んだように」

     ぼくには、博士のいっていることの意味がさっぱりわからなかったけれど、めい王星から帰った後に小学校の図書室で読んだ、ぺらぺらの自転車や進むのがおそくなる時計が出てくるアインシュタイン入門のマンガの本は、思ったよりも面白かった。読むのにけっこう時間もかかったけどね。


    関連記事
    スポンサーサイト



    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【恩田博士と生まれ変わりの機械たち 7】へ  【恩田博士と生まれ変わりの機械たち 9】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【恩田博士と生まれ変わりの機械たち 7】へ
    • 【恩田博士と生まれ変わりの機械たち 9】へ