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    「ショートショート」
    ファンタジー

    死の呪文

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    「わしに、なにか用かな……」
     深い森の奥の奥にある草庵。そこにひっそりと暮らす隠者。
     伝説は本当だった。この老人が、魔法学の大家である、大魔導師アルモニウスなのだ。 売り出し中の魔導師トレオスは、身が緊張で引き締まるのを感じていた。
    「はっ、先生。どうしても知りたいのです。先生がご存じである、死の呪文を!」
    「そんなものを知ってどうする。死の呪文は禁断の呪文。それを扱う者は血を見ずにはおさまらん。さっさと帰るがよろしい」
    「しかし、先生! 告白しますが、わたしは魔導の研究を十五年も続けてきながら、鬼火ひとつ造り出すことができないのです。これで学識随一、などと呼ばれているのですよ! わたしは、恥ずかしくて恥ずかしくて……」
     アルモニウスは冷たく応じた。
    「さような未熟者に教えてやれる死の呪文ではないわ。帰れ」
    「そこをなんとか……。たった一人でここまで来たのです。先生、どうかお教えください」
    「一人でか……」
     アルモニウスはため息をついた。
    「いいだろう。教えてやろう。こちらへ来なさい」
     アルモニウスはトレオスをすぐそばの洞窟に案内した。
    「先生、ここは……」
    「門外不出の洞窟じゃ。ここに死の呪文はある。わしについてこい。横にそれると迷って出られなくなるぞ」
     二人は洞窟をゆっくりと進んで行った。
     どれだけ歩いたか……やがて、小さな広場のようなところに出た。一隅に盾と槌が飾られており、もう一隅に小さな箱がある。
    「見よ、これが『死の呪文』じゃ」
     正面の壁には、ごく小さな文字が彫られていた。その文字に、トレオスは必死で目を凝らした。
    「時……」
     アルモニウスはうなずいた。
    「さよう。時じゃ。時が流れれば、全てのものは死ぬ。これ以上の死の呪文があるかな」
     トレオスは怒った。
    「先生。わたしを馬鹿にされているのですか。いいから、本当の『死の呪文』をお教えください!」
     アルモニウスは力ない笑みを浮かべた。
    「すまん、試して悪かった。真実の『死の呪文』は、その隅の箱の中に入っておる」
    「初めからそうと……」
     トレオスは箱を開けた。中には、大きな袋が入っていた。
    「その中に、『死の呪文』を書いた書き付けが入っておる。探すがよい」
     トレオスは袋の中に首を突っ込むと、探し始めた……。

    「どうして人間というものは」
     アルモニウスは槌を手につぶやいた。
     目の前には、袋の上から頭を強打されて死んだトレオスの姿があった。か弱い老人にも、袋の中で一心に書き付けを探している頭を殴って殺すことくらいはできるのだ。
    「十五年も魔導の研究をやってきて、魔導というものがインチキとハッタリの集大成であることに気づかんとはどれほど頭が悪い奴なのだ!」
     アルモニウス老人は手際よくトレオスの身体から身ぐるみ剥いでいった。死体は洞窟奥の、千尋の穴蔵へ突き落とせばいい。
    「時こそが真の死の呪文じゃと聞いたときにあきらめればよいものを。まったく、この男の馬鹿さかげんは折り紙つきじゃな」
     老人はすべての調度をもとあった位置に戻すと、ふんと鼻で息をした。
    『死の呪文』はまたも生贄を受け取ったのである。
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    ~ Comment ~

    >せあらさん

    世の中、楽して物理法則を曲げようとしてもそうはいかないようでして。
    まあでもインチキとハッタリだけで世の中を渡っていける魔導学というのもある種の魔法なのかもしれませんね(爆)。

    『時こそが真の死の呪文』確かにその通りですね。
    時間が流れていけば、どんなに若い人でも老いさらばえて死ぬだけですから。
    人間、楽して何かを手に入れることはできませんね。
    一つの事を追い求めて当たり前のことに気付けなくなるっていうのは、とても怖いです。。
    そういうお馬鹿さんがまたアルモニウス老人に死の呪文を求めに来て、生贄になっていくんでしょうね。

    >ネミエルさん

    「時間」とは、哲学的にいえば……。

    よくわからない(爆)。

    アウグスティヌスやハイデガーみたいな天才が考えてわからなかったものがわたしにわかるわけがない(笑)。

    極論ですが、マクダガートという哲学者は、「時間は実在しない」ことを証明してしまい(ウソではない)、それに関する論駁合戦が繰り広げられていましたが、まだ彼の証明に対する決定的な論駁はないようであります。もちろんどこかが間違っていることは火を見るよりも明らかなので、哲学者のかたがたにはがんばって欲しいのですが、はてさて。

    これは個人的な考えになりますが、「時間」とか「存在」とかいうものは、われわれの使っている「言語」とか「論理」とかの枠外にあるのではと思います。ウィトゲンシュタイン的にいえば、「語る」ことができずに「示す」ことしかできないものということになりますが、そういうところに踏み込んで行くと哲学の泥沼にハマりこみますからここで切り上げます(^^) わたしも自分のいっていることを理解しているわけではないので。(爆)

    時には勝てませんよね。
    毎回謎に思うのは
    光は波だといいます。

    では、時とは?

    粒子なんでしょうか?
    それとも波?
    空間の流れ?

    よくわかりませんw
    時って何なんでしょうか?
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