恩田博士と生まれ変わりの機械たち(児童読物・完結)

    恩田博士と生まれ変わりの機械たち 14

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    14


     門をくぐると、そこは、おぼろな光に満たされていた。

    『不気味なところですね』

     列を作り、並んでいる人たちは、ぼくたちの姿を見ることはおろか、感じ取ることもできないらしかった。

    『そうおそれることはない。ぼんやりと光って見えるのは、ヘルメットのバイザーにあるスクリーンが、光を調整していることによるものだ』

     ぼくはふうん、と思ったが、はっとした。

    『と、いうことは?』

    『このヘルメットがなければ、ここはどんなやみ夜よりもまだ暗いぞ』

     よく考えてみたらおどろくことじゃなかった。なにせ、ぼくたちは太陽から何十億キロも離れたところにいるんだから。

     人々の列は続いていく。やぎすけの姿も、愛海ちゃんのすがたもまだ見つからない。列がのびる長いろうかは、かなり急な角度で下にかたむいていた。

    『もうすぐだな』

    『もうすぐ?』

     ぼくは気持ちが明るくなった。

    『もうすぐ、ふたりに会えるんですか?』

    『そんななまやさしいものではないよ。もうすぐ、道が平らになるといったんだ。ヘルメットの左耳のところを、人さし指で三回たたいてみたまえ』

     ぼくはいわれたとおりにした。

    『博士。なにか、音のようなものがします。これはなんですか?』

    『ここまで来ると、メタンが大気のようになってくる。とはいえ、こおりつくような寒さにはちがいないがな。真空は音を伝えないが、メタンの大気があれば、別だ。あれは……えき体化したメタンによる、メタンの川の流れの音だ』

     めい王星のメタンの氷の下に川が流れているなんて! どんな光景なんだろう、とぞくぞくした。

    『さて、これに役立ってもらわなければならん時が来たようだ』

     ぼくは博士の手にしたものをながめた。

    『博士、それ、CDラジカセじゃないですか。そんなものを持ってきたんですか』

    『もちろん。大事なものだからな。きみが思うよりも、ずっと大事なものだ』

     ぼくは、ふうん、というしかなかった。CDラジカセなんか、いったい、なにに使うんだろう?

    『鈴木くん、きみは、これを持っていてくれないか』

    『あっ、さっきのクッキーですね。五個入っている。それにこれ、なんですか? 五百円玉にそっくりですけど』

    『種もしかけもない五百円玉だよ。これもこれで、大事な用がある。クッキーはあるだけ持ってきたが、これで最後だ。もしかしたら、足りなくなるかもしれん。もし、足りなくなったら、わかるかな?』

    『ええと……アウト、とか?』

    『よくわかったな。君は、さえている』

    『あまりうれしくありません』

     ぼくは正直に答えた。

     その間も、川の流れる音はどんどん大きくなってきた。きっと、これも、このヘルメットがおぎなってくれるせいだと思うけれど。

    『はたして、いるだろうか……』

    『だれがですか?』

     恩田博士はさりげなく答えた。

    『カロン』

    『カロン?』

     ぼくは首をひねって、進み続けた。博士のいうとおりだった。たしかに、道は平らになった。おどり場のようなものなのだろうか。

     角を曲がると、そこにはメタンだかなんだかわからないが、とにかくなにかのえき体でできた川が静かに流れていた。

     人々は、そこで止まってなにかを待っているようだった。

    『どうやら、るすというわけではなさそうだな』

    『カロンがですか?』

     ぼくは川下のほうを見た。みんな、そちらを見ていたからだ。そして、見た。カロンを。

    『博士……』

    『しっ』

     川下から流れてきたのは、一枚のぶあつい氷の板だった。その上に、なにか、人のようでぜったいに人とはちがう、何かが乗っていたのだった。やせこけたかかしのようなすがたにも見えたけれど、細いはずの足が太く、長いはずの両手は短かった。そしてその顔ときたら、どうやら目と口とわかるあなが三つ開いているだけで、表情もなにもわからない。

    『CDラジカセをつけるから、安心して見ていたまえ。曲は、わしが選んである』

     選んであるっていったって。ぼくがはらはらしていると、恩田博士はスイッチを入れた。流れてきたのは、この世のものとも思えない変な音だった。

    『……博士』

    『地球とは、大気の成分がちがうから、変なふうに聞こえるのも当たり前だよ、鈴木くん』

     そういうものなのだろうか。


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    Re: カテンベさん

    人間たちの悲しい本能です……。

    というか矢端想さんの発言がそのものずばりで(^_^;)

    ここからは「神曲」なり「ギリシア神話」なりを横においてお読みくださっても別な楽しみかたができると思いますよ~(^_^)

    Re: 矢端想さん

    ここはどこだと思っていたんですか。冥王星ですよ(^_^)

    ふっふっふっ(^_^)

    真っ暗で博士たちは列をつくっている人たちには見えない感じない、とすると
    彼らはどうして列をつくっていられるんでしょ?
    何らかの信号みたいなものを感知してるのかな?

    NoTitle

    マジ「地獄篇」じゃないっすか!
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