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    恩田博士と生まれ変わりの機械たち(児童読物・完結)

    恩田博士と生まれ変わりの機械たち 15

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    15


     そういうものだったらしい。博士がカロンと呼んだその妙な化け物は、ぼくたちの前で、その氷でできた板を停めた。

    『乗れっていうことですか?』

    『わかってきたな、きみも。カロンの気が変わらないうちに、さっさと乗ってしまおう』

     ぼくたちはふみ出したけれど、それは周りの人々も同じ思いのようだった。

     いっせいに氷の板にむらがってきた人びとを、カロンはうでをひとふりして追い払った。ぼくの目の前で、その短いうではむちのようにのび、むちのようにしなり、人びとを打ちすえたのだ。打たれた人たちは、声こそ上げなかったが、みんな、ひどくいたそうな、つらそうな顔をしていた。

    『博士!』

    『いいから乗りたまえ! 鈴木くん!』

     ぼくは目をつぶるようにして、氷の板に飛び乗った。板はぐらりとゆれたが、ぼくと博士を乗せてメタンの川をくだり始めた。

    『どこへ連れて行くつもりなんでしょうね』

     ぼくは横にすわった博士に向かってささやいた。

    『八木くんと愛海ちゃんのところだよ。決まっているだろう』

    『そうですよね』

     ぼくは、ほっとむねをなでおろす気分だった。

    『でも博士、カロンって、なんなんですか?』

    『めい王星のただひとつのえい星だよ。じゅんわく星のえい星だから、かなり小さな星だけれども、れっきとした小天体だ』

     自信たっぷりにそういわれると、ぼくは感心するしかなかった。あのきみょうな生き物であるカロンがなんなのかについて博士が話題をそらしたことにも気がつかなかったくらいだ。カロンという名前には、もうひとつ別な意味があるなんて、そのときはなにも知らなかったのだからしかたがないが。

    『へええ……』

     ぼくのもらした声を聞いて、恩田博士はどうだとばかりに身をゆすった。

    『わしの考えが正しければ、わしらはこれからまた別のびっくりするものを見ることになる』

     これ以上びっくりすることがなにかあるのだろうか?

    『なんです、そのびっくりするものって』

    『びっくりするが、まあ、たいしたものじゃない』

    『たいしたものじゃなくちゃ、びっくりしないと思うんです、博士』

     ぼくのうたがわしそうないいかたに、博士はちょっときずついたようだった。

    『うむ。それなんだが、きみの知的こうき心を損なってもしかたがあるまい。さっきの言葉はわすれてくれたまえ』

    『わすれられません。いったい、なにが出てくるんですか』

    『いや、ほんとにたいしたものではないのだよ。ちょっと生命にきけんはあるがな』

    『生命にきけんって、いったいなんなんです』

     博士はなんでもないことのようにいった。

    『うちゅう大かいじゅう』

     ぼくはちょっとひょうしぬけした。

    『ああなんだ、うちゅう大かいじゅうですか……うちゅう大かいじゅう? ええっ!』

    『きみもテレビでよく見るだろう。あれのちょっと小ぶりなやつだ。わしの持っているじょうほうによると、そろそろ出てくるころだろうと思う』

    『に、に、にげたほうがいいんじゃないですか』

     普段のぼくだったら、かいじゅうが見られるとなればまっさきにその場にかけつけるところだけれど、こちらもかいじゅうみたいなこのカロンというやつがあばれたのを見た後では、かいじゅうなんてものには出会いたくなかった。

    『すまん、かいじゅうというのはいいすぎだ。せいぜい、かい物というくらいだよ』

    『かい物でもかいじゅうでも同じことですよ、博士。つまり、こういうことですか。この先ぼくたちが行く道は、そのかい物だかかいじゅうだかが、となりの家でかっているジョンって番犬みたいに番をしているってことですか』

    『さすが鈴木くん、飲みこみが早くて実に助かる』

    『じょう談でにげないで下さい、博士。そのかいじゅうが守る道を通る以外の道はないんですね?』

     博士はうなずいた。

    『さっしがいい。その通りだ』

    『それじゃ、根じょうを出して行くしかないじゃないですか!』

     ぼくの声はふるえていたかもしれない。だけど、博士はうなずいた。

    『そういってくれると思っていたよ』

     その口調は、どこかしんみりとしていた。ぼくはどきっとした。

    『正直なところ、わしもこわかった。みとめるのがな。だが、きみも通ってくれるのであれば、勇気百ばいだ』

    『え? 博士……』

     博士は少し笑った。

    『ここで引き返す、というのなら、カロンにたのんでここで引き返そうかとも思っていたんだよ』

    『話がよくわかりませんが、博士』

    『今はわからなくてもいい。年よりの話だからな』

     ぼくは目をぱちぱちさせ、博士に尋ねた。

    『そういえば、ぼくも、大事なことを聞くのをわすれてました。そのかいじゅう、なんて名前なんですか?』

     博士は、ふんい気たっぷりに間を置くと、ひとこといった。

    『チェルベロ』

     ぼくはバランスをくずしてメタンの川に落ちそうになった。

    『弱そうな名前ですね、それ。ほんとにおっかないかいじゅうなんですか?』

    『見ればわかるよ、きみ。それに、そろそろ聞こえてこないかね?』

     え?

     ぼくは耳をすました。博士のいったことは本当だった。CDラジカセの音楽にまじって、低いうなり声がメタンの大気にのって聞こえてくる。

    『あれが?』

    『チェルベロだ。チェルベロのうなり声だ』


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    ~ Comment ~

    Re: マウントエレファントさん

    そんなかわいげのあるやつじゃありません(笑)

    なにせこいつは……おっとっと(^^)

    Re: 矢端想さん

    こいつのことはバージルから聞いたんですが、あいつの旅ではチョイ役だったのが悲しいですなチェルベロ(^^)

    こいつには学生時代ゲームをやっていては悩まされたもんです(笑)

    NoTitle

    チェルベロがどんな怪物なのか、とても気になります。
    快獣ブースカみたいなやつだったりして。

    >チェルベロ
    なぜかフイタww
    イタリア語のカワイさに騙されそうで。そういやルチーフェロなんていうカワイラシイやつも居ましたな。
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