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    恩田博士と生まれ変わりの機械たち(児童読物・完結)

    恩田博士と生まれ変わりの機械たち 18

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    18


     八木くんと愛海ちゃんが、ぼんやりしたままでいてくれたことはラッキーだった。半分ねむったようにしているふたりの腕を引いて、ぼくはあのおそろしい人の顔のたてあなを、しんちょうにしんちょうにわたったのだが、ふたりはまるでロボットのように、ぼくのリードにすなおにしたがってくれたからだ。これでふたりが立ちすくんだりすると、ぼくまであおりを食って立ちすくんでしまうかもしれなかった。

     橋をわたりきり、どうくつの中に入ってほっとしたとき、ようやく八木くんが、ベッドにいるような声でいった。

    『鈴木くん……だよね?』

     ぼくは前を向いていった。

    『しっ。ふり向いちゃいけない。博士がそういったんだからね。ぼくもふり向かないから、きみたちもふり向くな』

    『ここ、どこなの?』

     そういったのは愛海ちゃんだった。

    『めい界さ。めい王星だよ。きみたちを助けに、はるばる地球から飛んできたんだ』

    『めい界……。めい王星……』

     愛海ちゃんも、まだぼおっとしているようだった。

    『ぼくと八木くんの友達に、恩田博士っていうえらい先生がいてね。うちゅう船を作ってもらい、ここまで飛んできたんだ。博士はすぐ後ろを追いかけているはずだけれど、ふり向いちゃだめだ』

     愛海ちゃんのほうが、頭ははっきりしているようだった。

    『鈴木くん……だったよね。ふり向いちゃだめだ、って、博士はいったのよね』

    『そうだよ』

     愛海ちゃんはしっかりしていた。

    『うん。わたしも、ふり向かない。八木くん、ふり向いちゃだめだよ、ぜったい』

     よかった。少なくとも、ひとりの頭ははっきりしている。

    『この先に、チェルベロっていう首が三つの小山みたいなかい物がいるから、気をつけて。でもこのCDラジカセさえあればだいじょう……あれっ?』

     CDラジカセはいつの間にか止まっていた。なにか変なボタンを押したのかな。ぼくはCDラジカセのスイッチを入れ、さいせいボタンを押した。

     ラジカセはうんともすんともいわなかった。ぼくはその理由に思い当たり、背筋がぞっとするのを感じた。

     バッテリー切れだ!

     このままじゃ、チェルベロに食べられてしまうかもしれない。食べられないまでも、火の息をあびて黒こげだ。博士は、どうしろっていったんだっけ。そうだ。

     ぼくはクッキーのふくろを取り出した。こいつを使うんだった。

    『チェルベロっていったの?』

    『そうだよ。なにか?』

    『ううん。なんでもない』

     愛海ちゃんはそういった。

    『いてて。愛海ちゃん、そんなに強くにぎらないでくれよ。いたいよ』

    『いたいくらいがちょうどいいのよ!』

     愛海ちゃんのさけびに、八木くんがどこかまたねぼけたような声で答えた。

    『ふうん……そんなもの……あいたっ』

     ぼくはふり向きたいという思いと、笑い出したい思いをこらえるのにせいいっぱいだった。これからの生活で、ふたりがどうなるのか、今のやりとりを聞いていてだいたいの想ぞうがついたからだ。

     ぼくたちは、チェルベロが番をするどうくつ広場までたどりついた。

     チェルベロのきげんは最悪だった。ぼくたちの出てこようとしているどうくつに顔をつっこもうとしている。びっしりときばを生やした大きな口が、がばっと開いた。

     するどい歯にかじられてもたいへんだが、火の息をはかれたらもっとたいへんだ。ぼくはすばやくその口にクッキーを放り込んだ。チェルベロの口がとじ、その目のぎらぎらした光が、どこかおだやかになった。そのままずるりと首は引っこんだ。ぼくはほっとした。

     と思うまもなく、第二の首が!

     ぼくはふたたびその口にクッキーを放りこんだ。

     第三の首をどうしたかについては、いわなくたってわかるだろう。

     心ぞうをばくばくさせながら、クッキーにむちゅうになっているチェルベロのわきをすりぬけたぼくは、氷の板を停めて待ってくれていたカロンの口に、博士にいわれたとおり五百円玉をくわえさせると、氷の板に飛び乗った。

    『ほら、早く飛び乗って。博士は……』

     博士を待とうか。しかし、そうしたら、ふり向くことになってしまう。博士は、どんなことがあってもふり向くな、といったんだ。後で必ず追いつくから待っていろ、とも。

    『乗ったよ、鈴木くん。愛海ちゃんも乗った』

    『カロン! やってくれ!』

     ぼくはふり向かなかった。

     カロンは板をあやつるのがうまかった。そのおかげで、氷の板は静かにそっとメタンの川を川上へと進んでいった。

     もう、打ち明けてもいいと思うけど、五百円玉をわいろなんかにしたりして、いつカロンがおこって板をひっくり返してしまうかと考えたら、ちょっとどころかかなりこわかったのは事実だ。


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