恩田博士と生まれ変わりの機械たち(児童読物・完結)

    恩田博士と生まれ変わりの機械たち 21

     ←恩田博士と生まれ変わりの機械たち 20 →オタ句 8月22日
    21


     立てかん板には大きく、恩田博士の名前が書いてあった。ぼくはそれを悲しい気持ちでながめていた。今日は、恩田博士のおそう式なのだ。式場となった恩田博士のおやしきには、お弟子さんだの友人だの、たくさんの人がやってきていた。だけど、小学生はぼくひとりだけだった。

     ぼくが無理やりお願いしたのだ。日曜日のことだったし、博士のところによく遊びにきていた小学生ひとりくらいなら、まあ、お目こぼししてもいいかと、博士の息子さんである恩田さんは考え、ゆるしてくれたらしい。

     ぼくは博士の写真に向かってお焼香をすませると、たくさんの人々がごった返す中でつかれたこともあって、ちょっとかべぎわで休んだ。となりには、年配のフロックコートすがたの人がいた。別人だけれど、まるでふんい気が恩田博士みたいだ、とぼくは思った。

    「鈴木くんかね」

     その人はいった。

    「はい」

    「リンカネのやつの、最後の弟子だな」

     その人は、にやりと、しかし悲しげに笑った。

    「わたしはカルテックでやつと同じラボ、けんきゅう室にいた大久保というものだ。きみが語ったという、科学的にでたらめで、はてんこうきわまる話は、うるさい新聞屋からすでに聞いたよ。八木くんと愛海ちゃんは、助かったんだったね」

    「はい。ふたりとも、来月には病院をたい院できるみたいです。お見まいだけならもう両方ともできますし、ぼくも行ってきました」

     ぼくはそのときのことを思い出した。親がそばにいたので、恩田博士とのぼうけんのことはひとことも話せなかった。ゆめに決まっている、といわれて笑われるのは、親だけでじゅうぶんだ。そんなことより、やぎすけも、愛海ちゃんも、思ったよりも元気そうだったのがぼくをほっとさせた。

     大久保さんはぼくの答えにうなずいた。

    「それはよかった。まあ、リンカネさいせい工場に入って、ぶじ出てこなかったやつはいないから、その点は安心していたがね。あいつがくたばったことについては……きみはせきにんを感じなくていい。きみがあいつのすがたを見た、といった時間よりも一時間も前に、あいつの心ぞうはICU、集中ちりょう室の中で止まっていたんだからな」

    「そうなんですか?」

    「科学者としてこういういいかたはおかしいが、きみはほんもののリンカネのゆうれいを見たことになる。きみに、自分もICUに入ったことがあるからわかる、だなんていったんだって? まったくその通りだな。やつらしいせりふだ」

     そういうと、大久保さんはぼくのかたを軽くたたいた。

    「さてと、生まれ変わった気分はどうかね? 鈴木くん」

    「ぼくが? 生まれ変わる?」

    「いっただろう、リンカネさいせい工場。やつの手にかかったものは、機械でも学生でも、必ず前よりもせいのうがよくなって帰ってくるんだ。もっとも、さいせいされる前と同じことに使われるかどうかは別の話だがね。かけてもいいが、八木くんも愛海ちゃんも、きみがこれまで知っている八木くんや愛海ちゃんじゃなくなっていたことだろう。きみも同じだよ」

    「だってぼくは、なんにも」

     そう答えながらも、ぼくはどきっとしていた。自分が生まれ変わったと思ったからじゃない。病院のベッドに寝ていたやぎすけの顔は、どこかあの日よりもいくらかたくましく、男らしくなったように感じられたことと、無理してお見まいにいってきた愛海ちゃんは、えっ、こんなに美人だったっけ、この子、と思うほどきれいになっていたことを思い出したからだ。そして病室にいたふたりとも、ぼくになにかをいいたそうだった。親の目さえなかったら、どうしても話したいことがある、とでもいうように。

     ぼくの心の動きを読んだのか、大久保さんは、かすかに笑い、コートのポケットから何か平たいものを取り出した。なにかと思ったら、ケースに入ったCDだった。

    「これをあげよう。やつのCDラックから一まいばかりぬいてきたんだ。新聞屋に見つかったらたいへんだからな。じゃ、鈴木くん、むかえの車が来たようだから、これでしっけい」

     ディスクをわたされてぽかんとするぼくをしり目に、大久保さんは老人とは思えないしゃきしゃきした足取りで、人ごみの中にまぎれこんでいった。



     そして今。ぼくは自分のCDラジカセで、そのディスクを聞いている。音声データがわずか十八秒しか入っていなかったが、そこに録音された博士の声を聞くたびにぼくは、たましいがふるい立ち、やるぞ、という気力が満ちてくるのを感じるんだ。



    『ふり返っちゃだめだぞ、鈴木くん。ペダルをこげ、ひたすらこぐんだ!』



     そうだ。ぼくは生きるためのペダルをこいでいる。今日も明日も、そしてこれからもずっと。

     恩田博士はもういない。でも、ぼくはあのめい王星への宇宙旅行を通して、なにか大事なものを学んだように思う。それがなんだかはよくわからないけれど、ぼくの心は、いくらか強くなった気がする。やぎすけと愛海ちゃんが、どことなくだが、しかしはっきりと、前のふたりとはちがっていたように。

     テーブルの上では、マグカップに注がれたコーヒーが湯気を立てている。さとうもミルクも入っていない、ブラックだ。気がついたら、ブラックでもおいしく飲めるようになっていた。それからは、毎日こうして飲んでいる。

     ぼくは生まれ変わったんだ。


    (了)


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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    ありがとうございます。

    アルファポリスさんの大賞を狙っていたんですが……選考を通ったところで力尽きました(^_^;)

    それでも、椿さんの心には残ったようで嬉しいです。

    お嬢さんの感想もぜひ聞きたいです♪

    NoTitle

    最後まで読みました。
    ラストシーン、滂沱の涙でした。

    死というものを正面から扱って、なおかつ素敵な冒険物語で。
    前に向かう子供と、それを支える大人の物語でもある。
    最高の児童小説でした!

    うちの小4の娘にも読ませよう。

    素晴らしい物語を、ありがとうございました。

    Re: ミズマ。さん

    レスが遅れてすみません(汗)

    ぽんこつな博士も多いですが、鉄腕アトムのお茶の水博士とか、サイボーグ009のギルモア博士とか、カッコいい博士もこれまたいっぱいいますので、やはり少年を導くには「博士」が必要だなあ、と(^^)

    亀の甲よりなんとやら、ともいいますし。

    博士がカッコ良く見えたら、それにすぎる褒め言葉はないですよ(^^)

    それにしても元気な博士であります。

    CDについては……そのくらいのファンタジーを入れたっていいじゃないですか(^^)

    NoTitle

    随分ご無沙汰していたら随分と素敵な物語をお書きになってらしたのですね。一気読み余裕でした。こういう、老人と少年モノって好きなんですよね。

    しっかし、博士がひたすらカッコイイですね!
    最初は一般的な博士(ぽんこつ)かと思ったのですけれど、どっこいこれが一種の大人の理想形だったという。そんなバカな。いい裏切りをされてしまいました。
    最後の言葉もちょっと涙腺がやばかったですね、正直。大人になると涙もろくなっていけないなぁ。

    少年少女たちは色んな体験、というか臨死体験ですけど、を経て大きく変わったのでしょう。けれど、変化の一番の要因はこの博士なのではないでしょうか。自分のために命を投げ出してくれる誰かがいる。実際そこにいて、そして本当に投げ出してくれた。その説得力たるや、人生観を大きく変えてしまうのは当然だろうと思うのです。
    そして彼らは博士のように、素敵でカッコイイ大人になるのだなぁ、としんみりと嬉しく思いました。
    いやもう博士カッコイイですよ。博士。
    博士の友人の方もカッコ良かったですけど! ってかあのCDの音声ってどこで録ったんだろう、とか質問するのは野暮なのでききません。←

    素敵なお話を読ませていただきまして、どうもありがとうございました。
    またよろしくお願いしまーす←

    Re: 涼音さん

    お読みくださってありがとうございます。

    勇気と侠気とを兼ね備えた子供たちの成長物語が書きたかったのでそういってもらえると嬉しいです!

    同時に「カッコいい大人」も書きたかったのは確かですが。

    わたしはブラックよりミルクコーヒーが好きだったりします(^_^;) 鈴木くんに笑われちゃう(^_^;)

    こういう話より、なんとなく「悪い大人」「悪い子供」を描いたジュブナイルのほうがカッコよく見えるとしたら、それは時代のほうが悪いのだ、と思うことにしました。

    がんばるぞ!

    NoTitle

    お久しぶりです。
    完結おめでとうございます。
    遅くなりました。

    とても成長を感じさせるお話でした。
    最後のコーヒー、うち、まだ超うすうすのコーヒーかミルクコーヒーしか飲めないんですが、うちの子より冒険して色々体験した分大人だわ(笑)

    内容に自殺未遂やらショッキングな事件はありましたが、今の時代をある意味反映している気もしました。
    生還した彼女たちの目には、これからの日常がどの様に映し出されるのでしょうか?
    鈴木君は将来どんな大人になるのかな?
    博士の意思を継ぐ人になってくれたらいいなと、何となく思いました。

    うちの息子も何か冒険したら変わってくれるのだろうか?(笑)

    絵本・児童書大賞応援しています♪

    Re: blackoutさん

    光がなくては薄闇にはなりません。blackoutさんのダウナーで虚無的な世界には、まさにそのダウナーで虚無的という光がさしているのです。

    それにいくらえぐいといっても、昔のいくところまでいってしまったエロ漫画雑誌「フラミンゴ」の諸作品ほどではないでしょうし(笑)

    Re: cambrouseさん

    投票によるコンテストというのは戦国時代の合戦の前段階のようなもので、我は寡兵で敵は大軍のままにらみあうような神経になるものなのです。そんなときに最も嬉しいのは、

    「殿ーっ! お味方の援軍でござる、援軍でござるーっ!」

    という報告です。士気が大いに上がります。もうどんどん書いちゃってください。恩着せがましいなどと考えるのは、よほどのつむじまがりくらいです。他の人もたぶん同じだと思います。


    それにしても……わたしの小説で、泣いてくれた人がいたんだ……そちらのほうがわたしには嬉しかったです。ありがとうございます。書いた甲斐がありました。

    今夜はぐっすり寝ます。

    NoTitle

    リンクの件、報告いただきありがとうございました

    自分の方でもリンクさせてもらいました

    そうですね
    ご指摘のように薄闇ですねw

    そして、今書いている小説は、思った以上に設定がエグくなってしまいました(汗)

    Re: あじろさん

    わたし自身が大人の義務を果たせていませんからねえ……。

    だから理想を描いてしまうんですな。

    博士がカッコよく描けていたら嬉しいです!


    ……そのために書いたようなものですからね(^^)

    Re: けいさん

    これでも序盤からいろいろと博士のセリフに布石は打ってありまして。

    例えば、読み終わってから、旅の途中で博士がいった「わたしもそんな学者になりたかったものだが」というセリフを読み返すと、どんな気持ちで博士がそういったのか一粒で二度楽しめるグリコのお菓子であります(^^)

    鈴木くんたちの今後についてはなにも考えていませんが、彼らの前には無限の世界が広がっているということで。決めてしまったらかえって面白さが減ってしまう。

    末は博士か大臣か!

    Re: limeさん

    今書いている投稿作はとてもじゃないがこのブログにさえも上げられない不謹慎極まるもので……(^^;)

    それはそうと大賞おめでとうございます。

    お祝いのためのショートショートを書こうとがんばっていますが、なかなかうまくいきません。limeさんの世界を壊さないようにするのがたいへんであります(^^;)

    NoTitle

    とてもいいお話でした。途中で、結末の予測がついてしまったにもかかわらず、CDの音声再生箇所まで来て、やっぱり泣いてしまいました。(人の作品を読んで、あまり泣かない方なんですが・・・。)

    今の時点では書かない方がいいとは思ったのですが(だって、押しつけがましく聞こえそうだったので)、21日に「絵本・児童書大賞」の投票を済ませました。今度こそ、期待しています。

    ・・・リンクの件、どうもありがとうございました。うちの方にもリンクさせていただきました。今後ともよろしくお願いします。

    NoTitle

    「ふりかえるな」でピンときちゃって、ああ、そうかーとちょっと切なくなったけど、読み進めてしまいました。

    博士みたいな大人、最近少なくなりましたね。そういう私もいい年した大人ですけど(滝汗)、教えるとか導くとか、引き渡すだとか、大人としての責務を果たすのってとっても難しいと感じてます。

    博士、かっこよかったぞ!

    NoTitle

    面白かったです。
    色々な背景がわかったときに、奥の深さを感じました。

    鈴木君が素直で真っ直ぐな子で最高の弟子ですね。
    博士に導かれて、成長していくこれからが楽しみです。

    NoTitle

    お疲れ様です。
    児童むけにしては重いスタートで始まりましたが、最後はこの博士にすべて救われましたよね。
    博士、かっこいいな。
    少年たちの中に、忘れられない存在として残る。そしてその男気(?)を少年たちに伝えるという意味でも、ロマンを感じる作品だったと思います。
    またぜひ、こんな物語書いて行ってくださいね^^

    Re: blackoutさん

    ありがとうございます。

    人間、できることしかできないのだから、自分にできることを徹底してやるのが一番でしょう。

    blackoutさんのあの薄闇のような作品群、けっこう好きですよ。

    またいらしてくださいね~。

    NoTitle

    お疲れさまでした
    これも面白かったです

    希望を感じました

    今の自分には間違いなく書けない部類の小説ですね(汗)

    Re: 山西 サキさん

    少年たちの変わりかたをひとくちで表せば、桃井はるこの歌の一節にある

    「昨日まで256だった 景色さえフルカラーに」

    という言葉がぴったりしているのではと思います。ちらっと見ただけでは同じように見えるかもしれないが、性能的には飛躍的な差がある、そんな感じで。

    博士については、わたしが憧れる博士像が投影されているので、カッコよくなって当然であります。ほんとはもっとカッコよくしたかったのですが、物語全体のバランスを考えると、うむむ。

    この三人については、もはや心配することはありません。悠久の星空に泳ぎ出すだけです。ほんとうの冒険はここから始まるのでしょう。

    読んでくださってありがとうございましたm(_ _)m

    NoTitle

    冒険と出発の物語だったんですね。
    3人になにがしかの変化が起きて、新しい出発があって夢いっぱいの素敵な物語になりました。
    博士は帰ってこれなくても、3人の再度の出発に関われて幸せだったんだろうな。
    そんなふうに思います。
    博士の台詞がとても良いです。
    こんな冒険をして、そしてこんな経験を共有できて、3人には一生の宝物になったと思います。この3人はこの経験を通してずっと繋がっているんだろうな。こういう仲間、羨ましいです。
    3人にしかわからない秘密ですのの。

    パッとしない風貌だった愛海ちゃん、どんなに素敵な子になったんでしょう?
    男2人もいい男になったんだろうけど、女の子が一番変化しますからね。
    ちょっと気になりました。


    Re: LandMさん

    命を賭して、二人の少年少女を死の国から連れ帰ったのです。自分がそこに残ることは承知の上で。

    そんなかっこいい学者がいてもいいじゃないか、と、学者の株ががた落ちな今叫んでみたりする(^_^;)

    面白いとおっしゃってくださり感謝いたしますm(_ _)m

    NoTitle

    そうか。
    博士は命を懸けて人生を少年に教えたんですね。
    (>_<)

    少年と博士の夢と成長の童心物語だと思います。
    とても面白かったです。

    Re: カテンベさん

    ありがとうございますm(_ _)m

    もうこの小説の登場人物、書いていてみんな情が移ってしまって。

    勇気と義侠心に満ちた少年、教え導きそして力を貸す大人、歳の差を超えて二人の間に交わされる友情……。

    そういったものが書きたかったのです。それが古臭いというのならそれは社会のほうが間違っているのだ、と覚悟を決めて書きました。

    それだけにカテンベさんに喜んでもらえて嬉しかったです。

    大丈夫です、この三人は誰にも負けない力を手に入れました。どんな嵐がきても耐えられるでしょう。

    読んでくださってありがとうございました。

    面白かったです(((o(*゚▽゚*)o)))

    少年の成長物語、てことですね
    そうはない体験をしたんやし、鈴木くんはそうやろなぁ
    八木くんも事故を乗り越え、てのもあるからそうやろなー、て思うけど
    愛海ちゃんは傍目には自殺未遂からの生還、てのやし
    周囲からの目、てのは変わるやろけど、いい変化になるんやろか?
    大人はわかってくれない(>_<)てならなきゃいいけどなー、て思てしまいました
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