FC2ブログ

    「ショートショート」
    SF

    口撃

     ←初夜 →そこへ兎がかけて出て
     わたしは口が悪い。人からはよく毒舌といわれる。自分ではそんなつもりはまったくないのだが、出来の悪い部下のOLを叱ったところ、わずか五秒で泣き出されてしまった。それ以来、周囲の人間がわたしのことを「五秒鬼」とあだ名しているらしい。
     これではいけない。わたしはこう見えても、人を傷つけるようなことは大嫌いなのだ。確かに、気の利いた切り返しのセリフは好きだが、それもウィットとユーモアを伴ったものであるべきだ。
     しかし、口の悪さを矯正してくれる施設なんて、あるのだろうか……?
     悩みながら夜の帰り道を歩いていたところ、ぼんやりとした灯りが見えた。よくよく見てみると、辻占いの易者のような出店が出ている。看板には、「舌禍祓い」と書いてあった。
     わたしは、吸い寄せられるように出店に近づくと、椅子に腰を下ろした。
    「あの……」
     わたしは、おんぼろのマントをかぶった出店の主に声をかけた。
    「いわれなくてもわかります」
     主は、懐からいくつかの袋を取り出し、テーブルに並べながら優しくいった。
    「あなた、口の悪さを直されるためにここへいらしたんですね?」
    「はい。ご主人のような、インチキみたいなかたでも、わかることはわかるんですか」
     主は苦笑いした。
    「わかりますとも。大丈夫です、すぐに矯正してあげましょう。あなた、『言霊』というものは信じられますか?」
    「信じませんね」
     わたしは答えた。
    「昔、頭が悪い中学生のころ読んでいた、同じく頭の悪い作家が、そのくだらない落書きみたいな小説の中で、そういうたわごとを吐いていたのを覚えてはいますが、まともな現代人だとかけらなりとも思っている人間は、そんな発想は放射性廃棄物といっしょに廃坑へ捨てるべきです」
     主は嬉しそうにうなずいた。
    「しかし、信じてもらわなければなりません。わたしの仕事は、そういった不要な言霊を集めることなんですから……とりあえず、この袋を取って、口に当ててください」
    「この薄汚れた、ホコリしか入っていないような袋をですか? はい、当てました」
    「思い切り息を吹き込んでください」
     わたしは、こんなところでいったいなにをやっているんだろう、と思いながら、息を吹き入れた。
     そのとたんだった。
     喉の奥深くから、圧縮された『気』のかたまりとでもいったようなものが、猛烈な勢いで上がってきた。わたしは、げぼっ、と吐き出した。
    「すぐに袋の口を押さえて!」
     わたしは袋の口をひねると、主に手渡した。
    「これは、いったいなんですか?」
    「言霊ですよ。あなたの、人を傷つけるような言葉づかいの、元となったものですな。これからは大丈夫です。わたしが、これをきちんと処理しますから」
     主は、袋の口を手馴れた調子で紐で縛った。
    「そうですか。わたしには、自分に変化があったのか、まるでわかりませんが……」
    「明日、お勤め先に行ってごらんなさい。すぐに効果を実感できますから」

     翌日、会社へ行ったわたしは、周囲の態度が一変したことを悟った。
     部下からは、「……主任に、そんな暖かい言葉をかけてもらえるとは、おれ、思っていませんでした」だとか、「……前に主任に怒られたときは、泣いてしまいそうになりましたが、今日はしっかりがんばっていけそうです」だとかいう反応が返って来た。
    課長からも、「……君、やればできるじゃないか。人当たりがこんなによくなるなんて、なにかいい本でも読んだのかね」
     エトセトラエトセトラ。わたしは、生まれてきてこんなによかったことはない、と思えた。

     その晩、わたしはやり残したことをしに街をうろついた。昨日の場所にたどり着くと、そこには見覚えのある出店があった。
    「ご主人、ご主人!」
     声をかけると、主はわたしに気づいた。
    「おや、昨日のかたではありませんか。いかがでしたか?」
    「素晴らしいことばかりですよ! 人生がぱっと明るくなったかのようでした。ところで、昨日のことなんだが、わたしは、あなたに当然しなければならないことを忘れていました」
     わたしは、財布を取り出した。
    「代金はいくらですか?」
     主は首を振った。
    「代価なら、もういただいていますよ」
    「もらっている……?」
    「ええ、この『言霊』を」
    「どういうことなんですか?」
     狐につままれたような顔をしていただろうわたしを見て、主は笑った。
    「あなたの知らないような遠くの世界で、わたしたちは戦争をしています。生物としては、お互いに物理的な攻撃が通用するステージを超えてしまったので、ほかの武器を使わなくてはなりません。そこで主要兵装として選ばれたのが、あなたがた、下位種族の言霊なのです。圧縮し、濃縮すると、精神的生命には致死性の武器になるんですよ」
    「わたしは戦争に手を貸したんですか!」
     愕然とした。
    「そんなこと許せませんよ! お願いですから返してください!」
     悪しき言霊が吸い出されてしまったわたしは、聖人君子のような精神構造になっていたらしい。
    「それなら……」
     主は昨日よりも小さな袋に手をかけ、口ををわたしのほうに向けると、結わえていた紐をほどいた。
     圧縮され濃縮された悪しき言霊は、精神的生命だけではなく、肉体的生命にも危険な代物だった。
     そのかすかな波動を一瞬感じただけで、わたしはなにもわからなくなった。
     発狂したことさえ気づけなかったのである。
    関連記事
    スポンサーサイト



     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    【初夜】へ  【そこへ兎がかけて出て】へ

    ~ Comment ~

    おはようございます^^

    言葉の威力――確かに武器になりますね^^;;
    精神的に破壊される――わぁ~~気をつけよう。。。

    最後はうっと言葉に詰まるオチでした^^
    ブラックが効いていて、さすがですね。

    今日もなるほど~~と唸りながら帰ります。

    >ネミエルさん

    それは哲学的にいうとですねえ……。

    (以下意味不明のおしゃべりが一万五千行続く(笑))

    じゃあ、僕の言霊はいったいなんなのでしょうか。
    おしえてください、ポールさん!
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【初夜】へ
    • 【そこへ兎がかけて出て】へ