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    「ショートショート」
    ユーモア

    就職面接

     ←そこへ兎がかけて出て →頭の中がのぞかれている
    「……T市より参りました、杉本たかみちです。よろしくお願いします」
     おれは頭を下げて、うながされるままに着席した。目の前にいるのは、難しい顔をした面接官。人事部の人間だろうか? 気後れよりも、胸の奥にファイトがみなぎってきた。
     この会社は、中規模だが、地元でも指折りの優良企業だった。ここに入れるかどうかで、おれのこれからの人生も決まってくるのだ。作ったにこやかな顔の下で、おれの頭はぶんぶん音を立てて回転していた。
     面接官が質問をしてきた。おれは当たり障りの無いことを答えた。(「はい。御社の、その精神にあこがれ……」だとか「大学では、運動部に入っていました。ええ、もちろん、集団スポーツが好きなものですから……」といったようなことだ)
     汗びっしょりになりながら、なんとか面接も大過なく終えられたかな、と思ったその瞬間。
     面接官が口を開いた。
    「……きみ、彼女はいるかな?」
     来た。いきなりこういうとんでもない質問をして、パニックに陥らないかどうか調べる、というやつだ。しかし、おれにはこの手の質問に対する準備も整っていた。就活でどれだけリハーサルをしてきたと思っているんだ。
     おれは堂々と答えた。
    「いいえ。しかし、昨日、意中の女性に告白してきました。今は返事を待っているところです」
     おれに彼女なんかいたためしがないし、告白なんかもしていないが、切り返しとしては理想的ではないだろうか。「なにも語っていないのに語ったふりをする」ことではこれ以上の答えはあるまい。
     しかし。面接官はしつこかった。
    「……ほう? どんな人なのかね?」
     どんな人、といわれても困ってしまう。そんな彼女いないんだから。
     おれは表面では冷静さを保ったまま、思考回路に鞭をくれた。
    「丸顔で、ぽっちゃりしたスタイルの人です。美人ではありませんが、笑うととてもかわいいんです」
     これでどうだ。
     面接官は、つまらなそうに指で眼鏡の位置を直した。
    「どんな性格の人なんだね」
     しつこいなこの面接官。
     おれは、頭に浮かんだ理想の女性をもとに、大急ぎで話をでっち上げていった。
    「……はい。明るい、というよりも、豪傑肌な人です。意志が強くて、周囲の反対意見をものともせずにわが道を行く人です」
    「その人の趣味は?」
     ちょっとしつこすぎないかこの面接官。
    「……はい。テレビのバラエティー番組を見ることです。お笑い芸人が大好きなんです」
    「ショッピングとかもするんだろうね?」
     面接官の更なる質問に、おれは気持ちが萎えていくのを感じた。わかった。この面接官、おれを採用するつもりはないんだ。ただ単に、おれをからかって遊んでいるだけなんだ。
    「……はい。ショッピングもしますが、趣味や旅行なんかにもよくお金を使います。でも、そのくらいのお金は、稼げるようになりたいです」
    「色よい返事はもらえそうなのかね?」
     おれはやけくそで答えた。
    「もらえるかどうかはわかりませんが、もらえるだけの努力はしましたし、後は運を天に任せるだけです。だけど、わたしはもらえることを確信しています」
     面接官はうなずいた。
    「……そう。じゃ、わが社になにか質問があるかね?」
     ようやく話が元に戻った。おれはほっとして脚から力を抜いた。
    「はい。二つほどありまして……」

     手紙は、翌日に来た。どうせ不合格通知だろう、と思ったら、内定の通知だった。おれは部屋を踊り狂い、缶ビールを開けて一人で乾杯した。いったい、おれのなにがよかったのだろう?

     入社式。おれが緊張しながら会場を歩いていると、「杉本くんだったね」と声がした。
     振り向くと、この前の面接官だった。
     おれはしゃっちょこばりながら頭を下げた。
     面接官は、難しい顔を崩さずに笑うというウルトラCじみたことをしながら、フランクにおれに話しかけた。
    「彼女からはいい返事がもらえたのかな」
    「……いえ。だめでした」
     もとからそういう女なんかいないのだから当然だ。
    「そうか」
     面接官はうなずくと、「それじゃ」といって去って行った。
     いったいなんだったんだ……?
     その答がわかったのは配属されてからだった。
    「……いいか。あの人が、この部署のボスみたいな人だ」
     先輩の社員が、奥の机を指し示した。
     そこでは、丸顔でとても美人とはいえないようなデブが、一心にキーボードを叩いていた。顔を上げておれを見ると、鯨のような顔がにこっと笑った。
    「……あの人は?」
     先輩社員は力なく笑った。
    「人事部長の姪だよ。意志が強くて豪傑肌で、仕事はバリバリこなすんだが、金遣いが荒くてね。婿の来てがないそうなんだ。……おい、どうした、おい!」
     おれは真っ青になった。そうか、おれがこの会社に入れた理由は……。
     もしここで、この女を邪慳にするとかしたら、閑職どころかリストラに回されてしまいかねない。
     とはいえ、おれはこんなタイプよりも、スレンダーで瓜実顔の女性のほうが好みなのだ。
     あのときの面接で、趣味や性格を含めて自分の理想と正反対の女性像を語ったのがいけなかったのか?
     自分のこれからを思うとクラクラしてきた。
     どうしよう。
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    ~ Comment ~

    Re: 初音さん

    「存在していない人」だから、ムチャクチャいったんでしょうが、大変なことに。

    このショートショートは、書きながらゲラゲラ笑っていたであります。

    そういえば、このところそういう体験がないな……初心忘るべからずとはいうけど……うむむ。

    どうしよう。

    こんばんは。

    空想でとっさにこれだけの女性像を口にできるってすごい方です。

    最後の「どうしよう。」には 本当に吹き出しました。

    その姿が目に浮かぶくらいです。

    Re: 尾道 貴志さん

    楽しんでくださってありがとうございます。

    うちのショートショートは渾身の力作ばかりですから、どうかもっと楽しんでいってくださいね~♪

    こんにちは

    こんにちは

    ショートショート好きです。

    僕も星新一を連想しました。
    文体も似てますね(褒め言葉です)

    短編から長編までエネルギッシュな創作活動に敬意を表します。

    少しずつ読ませていただきますね。

    >神田夏美さん

    まったくです(爆)。

    告白がうまくいっていたら、また別な誰かを探すのでしょう。どうせ片端からリストラするのですから……。(なんだその理屈(笑))

    ……でもこんなきっかけでも入社できんだからいいよなあと思う今年就活の人間がここに(笑)

    もし告白がうまくいった、となっていたらどうするつもりだったのでしょう、人事部長^^

    >うつさん

    「ドラゴンマガジン」のライトノベルに不満しか覚えず、「こうなったらおれがこの行き詰まった小説界をなんとかしてやる」みたいな思いがモチベーションの一端にあるので病の根は深かったりする(笑)。よほど合わないのかなラノベ(笑)。でも軽いSFしか書けないし応募できる賞もないし(笑)。まあそういう人間ですので、呆れずに許してつきあってやってつかあさい(爆)。

    >せあらさん

    たぶん今ごろはタイかフィリピンあたりにハネムーンでしょう(笑)。
    でも杉本くんはヨーロッパあたりに行きたかったのではないかと思います(笑)。
    ナムアミダブツ(笑)。

    最後のどうしようって……どうするの?(爆)
    どうやら面接官は、最初からこの姪っ子のことを念頭に置いて質問していたみたいですね。
    職権乱用だけど、そうでもしないと嫁のもらい手が見つからないよね、そりゃあ。
    続きが読みたくなりましたが、その後の話がないからこそ、想像がかきたてられます(笑)
    どうかこの幸薄い主人公が、上手くあしらうだけの機転が利かせられますように(*-人-*)

    私の想像の中では、すでにヴァージン・ロードを歩いているけど(笑)

    もしもお悩みでしたら、
    「ドラゴンマガジン」なる
    ライトノベル誌を読まれては?

    そこに作品を連載されてる彼らの作品の多くが
    アニメ化やゲーム化されたり
    又、その候補になり得る理由はあると思います。

    もしそれを読んで、何か言葉の表現力とか
    読者に想像力や脳内での臨場感を
    かもし出せる何かを学べられるとすれば
    きっと上手くいかれるのではとわたしは思います。

    >うつさん

    実はがんばっていろいろと小説賞に投稿(ここにはその大半の作品は上げていませんが)しているのですが、没続きで……。
    わたしなどまだまだヒヨッコにも至らない、ということらしいです。
    世の中うまい話はないですとほほほ。

    >ネミエルさん

    星先生はわたしなんぞ逆立ちしても及ばないような傑作ばかり1001篇も書かれましたからねえ。
    あの先生は天才でなければ超人か化け物です。わたしごときを比較対象にすることすら間違ってます。
    ……今は。(いうだけならばタダだ(笑))

    星新一みたいですね~
    いや本当に。
    すごいです。

    素晴らしいです。
    市販の小説本と比べても遜色は無いです。
    むしろ、この印税で食べていけるのでは?
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