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    「ショートショート」
    SF

    頭の中がのぞかれている

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    「ちくしょうっ」
     ぼくは、出版社から返ってきた没通知を引き裂き、ぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に投げ入れた。これで何度目だろう。このやり場のない怒りをどこにぶつけたらいいのか。
     ぼくは、いつの日か小説家になることを目指して原稿を書いている、どこにでもいるような万年投稿者だ。いつも、いいアイデアがひらめいて原稿を書き出し、数ヶ月の苦闘の後に新人賞に応募すると、二週間もしないうちにほかの出版社からぼくのアイデアによく似た小説が売り出されるのだ。いかに小説家が早書きでも、二週間でアイデアを思いついてから企画を立ち上げ、小説を書き上げて印刷製本し、出版にこぎつけられるわけがないので、ぼくが思いつくアイデアなど、誰もが思いつくようなものに過ぎないのだろう。わずかの差が、ぼくと小説家という夢の間に壁を作って、進むのを妨害しているのだ。
     それとも……。
     ぼくの考えたアイデアは他の誰かに筒抜けになっているのか?
     ぼくはその考えに、乾いた声で笑った。まったく嫌になってしまう話だ。
     むしゃくしゃしたときは本を読むに限る。それも、普通は読まないようなジャンルの本を。なぜなら、それを読むことによってアイデアが浮かべば万々歳だし、浮かばなくても、興味も関心もないジャンルの本は強烈な睡眠喚起力を持っているから、普通だったら口惜しくて眠れないような状況下でもすっきりと眠らせてくれるのだ。
     というわけで、今日もベッドでぼくは図書館の医学書コーナーで目をつぶって借りてきた本を読んでいるわけだ。
     適当なページを開き、見るともなしに目を落とす。
    『……多くのパターンで患者が抱くのは、自分の考えが他人に洩れているという妄想である』
     目に飛び込んできた一節に、心臓が跳ね上がるような衝撃を受けた。
    『……この症状は典型的なものであり、様々なパターンはあるがその根本は変わらない。患者は他者に、自分の思考、感情といったものの全部ないし一部が知られていると感じる。多くのパターンにおいて、これは悪意ある個人か、悪意ある集団である。患者は……』
     もう読んでいられなかった。ぼくは本を閉じてタイトルを見た。
     統合失調症の研究書だった。統合失調症くらい、ぼくも知っている。昔は精神分裂症といわれていた、難治性の精神病の代表選手だ。
     もしかしてぼくは病気なのか……?
     なんとなく不安になったぼくは、不安を解消するために近所の精神科を訪れることにした。

     医者は感じがいい人だったが、同時になにを考えているかわからない底の深さのようなものがある人でもあった。
     医者はにこやかに笑いながら、ぼくに向かっていった。
    「こころの病気は、暗くて閉鎖された病院から、フロイトが誰でも気軽にかかることができる明るい世界へと引き出してくれました。うちの病院も、フロイトの精神に則り、気軽に通えるものを目指しております。ですからあなたも、気軽に悩みをお話しください」
     ぼくは、自分が最近感じていることを包み隠さず話した。
     医者はうなずいて聞いてくれた。
    「……では、ちょっと、最近ひらめいたアイデアがあったら話してみてください」
    「ええ、小説じゃなくて、ちょっとした小物のアイデアなんですが……」
     ぼくは、ふと心に浮かんだ、洗濯バサミの改良方法を話した。
    「……でも、こんなもの、ぼくより早く考えている人がいくらでもいますよ。半年もしないうちに、よく似た商品を百円ショップとかで見ますから」
     医者の顔が、曇った。
    「え……なにか?」
    「お気の毒ですが、あなたは精神的に不安定な状態にあります。その不安定さが、顕在化していたらまだ対処の方法もあるのですが、あなたは精神的に病気を隠蔽されているので始末が悪い。このままでは、いつ堤防が決壊するようにして精神が破綻をしてしまうかわかったものではありません」
     ぼくは驚いた。
    「じゃ、ぼくは……」
    「しばらく、この病院で休んではみませんか。なに、ごく短期間です。病室もそれなりのものを用意しておりますし、不快ではまったくないと思いますよ」
    「……あのう、見積もりはおいくらくらい……」
     医者はお手ごろな価格を提示した。

     かくして、ぼくは病室の人になった。たしかに明るくて居心地がいい部屋で、出される食事も上等だった。ぼくのやることは、毎日三度三度薬を飲んで、医者の質問に答えることだけだ。医者は、ぼくの心に浮かんだことについて詳細なノートを取っているらしかった。
     ぼーっとしていることが仕事だといっても、こうやることがないと変なことを考えてしまう。はたして、ぼくは本当に病気なのか?
     考えられる可能性は三つある。
     一。本当に病気である。
     二。実は病気ではなく、実際にぼくの頭の中にあるアイデアが、他の悪意ある誰かに覗かれ、盗み出されている。
     もしそうだったら救いようのない話だが、三つ目の可能性に比べたらまだましだ。
     三。実は病気ではない。ぼくの頭の中にあるアイデアが他人に盗まれているのではなくて、ぼくが他人のアイデアを一種のテレパシーで盗んでいるのだ。人の考えたアイデアを盗んでいるのだから、小説の完成が遅れるのも当然だ。そしてこの医者は、親切ごかしにぼくが盗んできたアイデアを、毎日ベッドの脇で聞き出すことによってさらに盗んでいるのではないか。そうでもなければ、まるで財産がないぼくが、どうしてこんな高くつきそうな病室の入院費を払い続けていられるのだろう。
     でもまあいいや。薬のせいか、深く追求する気にもならない。それに、こんな妄想が生まれること自体、病気の証かもしれないではないか。
     今日もぼくの頭の中はのぞかれている。白衣を着た医者によって。
     ぼくはなんとなく怖い。
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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    これでショッキングなオチさえ考えつければいいんですけどねえ。なかなかうまく行きませんなとほほ(^^;)

    おはようございます^^

    うむむ、怖い。静かに怖い。

    昔「サトラレ」という映画を見てから、こういうこともあるのではないかと無意識に刷り込まれている私には、なんだかドキッとする内容でした。

    果たして本当に精神病なのか、それとも医者がアイデアを盗もうとしているのか、なにかの実験なのか……。

    答えは永遠に謎のままですね~

    >神田夏美さん

    うーむパンチに欠けますか。
    でもこの設定でどれかひとつに決定してしまうとどれにしてもものすごく陰惨な話になってしまうような。
    それとも「カリガリ博士」風にショッキングにやったほうが面白かったかなあ。宿題にしておきたいと思います。

    ううーむぼかしたかったのはわかりますがSSとしては何となくパンチにかけるような……。明確な答えがないまま物語が終わるとやっぱりもやもやしますね。やばい、七色アリスを読み終えた後のポール・ブリッツさんもこんな感じだったのでしょうか?(笑/比べるのは恐れ多いですが……^^)
    曖昧な終わりって好きですが、実際自分で使用するのって難しいです><
    この小説は、明確な答えがない分後を引きずるというか、何だか印象に残りますね^^

    >ネミエルさん

    ここはあいまいにぼかしたほうが面白いだろうと。
    疑惑の迷宮の中でさまよってください(^^)

    む・・・?
    なんか考えさせられました。

    むむ・・・?
    犯人は医者・・・?
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