映画の感想

    「A・I」見る(注意:もろのネタバレあり)

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     ブログDEロードショー、今月は「A・I」だった。スピルバーグの作品である。ちらりとレンタル屋であらすじを読んでみたが、少年ロボットが主役の感動ロードムービーのようだ。まあ見てみるだけ見るか……とDVDをセット。

     最初の感想。まあ、つまらなくはなかったが……面白いというには、このあまりの「イヤな感じ」はなんだろう。

     一晩寝て、うだうだうだうだ考え続けて、ようやくわかった。この映画は、主人公のロボットに感情移入して、最後に願いがかなってよかったね、と感動して泣く作品ではない。この映画は、人間のあまりの醜さにひたすら「怒る」ための映画だったのだ。テーマは、「人種差別」であり、「奴隷制度」である。酷評を恐れたのか、微妙にカムフラージュしているが。

     まず、主人公のデイビッド。彼は幼い白人少年の姿をしたロボットである。彼は映画のほぼ全編にわたり、「人間になりたい」「ママに会いたい」と一貫して願い続ける。だが、ここで、デイビッドを黒人ないし黄色人種に置き換えてみよう。純粋そのものと見えたデイビッドの願いが、「白い肌になりたい」「自分を捨てた優しいご主人様に会いたい」というグロテスクな奴隷道徳とパラレルなことに気づくはずだ。

     この映画は、悲しむ支配階級の女性にあてがわれた「主人に絶対的なまでの愛情を抱く完璧な奴隷の少年」が、さまざまな迫害にも負けずに奴隷としてのモラルを貫き通しました、という映画なのである。

     それに気づくと、あの未来世界が、「現代アメリカ」のカリカチュアであることがはっきりする。社会の一部分としてどうしても必要とされ生きている低所得者には人権もなにもなく、保守的な富裕層は彼らを殺してストレス発散をしている(富裕層は気まぐれだ……相手が子供だ、というだけで突如手のひらをひっくり返したように保護にまわる)。人々は狂ったように後腐れのない刹那的で退廃的なセックスにふける。とどめはマンハッタンに暮らす大企業の科学者たちである。彼らは、完璧な愛玩物なり奴隷なりを大量生産するために、最初から全てのシナリオを書いて、放流した鮭が戻ってきたのを捕らえるようにデイビッドを待ち受ける。頭にはカネのことしかない。デイビッドが愛情を抱く「ママ」ですら、最後にはデイビッドを捨ててしまう。涙のシーンとしてカムフラージュされているが、それはペットなり家畜なりを殺すのが忍びなくて逃がす人間とどこが違うのだ、である。

     人類絶滅後、氷の中からデイビッドは発見され、命を吹き返す。だが、そんな目にあっても、デイビッドは「完璧な奴隷」であることをやめようとはしない。すでに奉仕の対象である人類はいなくなり、自らの自由を謳歌してもいいはずなのに、その完璧に調整された奴隷道徳は、ひたすら「人間になりたい」「ママに会いたい」と繰り返す……ここまでくるとブラックジョークである。

     主要登場人物のうち、まともなのがロボットだけ、というのもすさまじい。

     この作品は、系譜的には「シンドラーのリスト」と同様の根を持つのかもしれない。「戦い反逆する奴隷を助ける人」がオスカー・シンドラーであれば、シンドラーにも絶対に救えない奴隷制度の痛ましい犠牲者がデイビッドなのである。

     スピルバーグの中に、映画人としての反骨心を見いだせた、得がたい視聴経験だった。

     この作品を選んでくれた匿名さんに感謝である。
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    ~ Comment ~

    Re: take51さん

    もうこれ以外の解釈が、自分の中でできなくなってる(^_^;)

    今現在の世界を見ると、まさにそう思います。

    キューブリックが撮っていたらどうなっていたんだろう……。

    NoTitle

    こんばんは!!
    コメントにも頂き「なるほど・・」と思って
    いましたが、じっくり記事を読ませて頂くと
    更に納得です。スピルバーグのメッセージ性の強い映画
    なんでしょうね、、、。キューブリックの中ではどんな映画だったのでしょう?
    とっても気になります、、。

    Re: 宵乃さん

    ああ、なるほど。

    そういう見方もできますね。そう聞くとますますキューブリックに撮らせたかったなあ。第二の「博士の異常な愛情」と評されてもおかしくないブラックジョーク作品になったと思うのに……。

    NoTitle

    あ、すみません。言葉が足りませんでしたね。
    デイヴィッドにまったくそんな気がないのは当然として、あの時代の人間たちに虐げられていたロボット代表として、人間に復讐を果たしたような構図になってると感じたんです。
    まあ、因果応報というか、人類が滅んでいるのも道を間違えばこうなるぞということなんでしょうね~。

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    Re: miriさん

    「イヤな感じ」というのが作戦だったら、この映画は大成功だったと思います。

    日本では「E.T.」以来、家族で楽しめるヒューマニスティックなファンタジー映画を撮る監督、という評価が定着してしまいましたが、この映画を見ると、プライベート・ライアンの冒頭のノルマンディー上陸作戦の過激な映像は必然的な結果だったんだなあ、と思いますねえ。

    個人的な意見ですが、宮崎駿監督にも、その抱える暗部を昇華させるような作品を撮らせてあげれば良かったんです。小林源文先生の劇画、「カンプグルッペZbv」とか……。

    Re: かえるママ21さん

    地震にはびっくりしました。311のあの悪夢が脳裏によみがえりましたよ(^_^;)

    映画については、裏を読みすぎたかもしれません。でも今となっては、ほかの見方が考えられない。自分の映画史のなかでは、この映画は「奴隷制度糾弾」の映画として確固たる地位を占めてしまいました(^_^;)

    キューブリックが撮っていたら、「博士の異常な愛情」「時計じかけのオレンジ」と並ぶブラックユーモア作品になっていたと確信しています。

    Re: 宵乃さん

    人間に復讐しているという気は、デイビッドにはないでしょう。彼はあれが幸せであり喜びであるようにプログラムされているからです。どれだけ論理的に説明しようが、彼にはそれ以外の幸せは存在しないのです。

    わたしはそこに人間の奴隷化の極北を見た気がします。「家畜人ヤプー」かよ、と。

    Re: カテンベさん

    差異がほとんど零まで縮められるからこそ、そこに強者に都合よく行動パターンをインプリンティングされてしまう恐ろしさがあるのではないでしょうか。

    人治主義ではないですが、労働者の反乱を押さえる最大の方法は、労働者に支配者を盲目的に敬愛させることですし。

    今日はコメントを有難うございました☆

    >最初の感想。まあ、つまらなくはなかったが……面白いというには、このあまりの「イヤな感じ」はなんだろう。
    >一晩寝て、うだうだうだうだ考え続けて、ようやくわかった。

    「イヤな感じ」という部分が、そうなのよね~!と思えます☆
    誰もがこの映画を見て最初は、そういう感じを抱きそうです!

    うだうだ考え続けられた後の記述は、とても流れがスムーズで
    ポール・ブリッツさんのお考えが、よく伝わってきました☆
    私もそういう部分もある映画だな~って思いました。
    なんというか・・・温かくなれない、そんな映画でしたね!


    .

    NoTitle

    関東地方地震があったようですが、大丈夫でしたでしょうか?

    コメント書いてる途中で、消えてしまって、もう一度。

    ブログdeロードショーの良さは、自分とは違う見方、意見を知ることができる点だと思います。

    ポールブリッツさんの記事は、大変面白かったです。
    スピルバーグ監督自身の名言で「我々が思ってる以上に観客の想像力は豊だ」とありましたが、まさにそう思います。

    アメリカ映画は人種差別を抜きには成立しないのかもしれませんね。

    この映画ではジゴロロボットが捕まる瞬間の言葉「Iam・・and・・・Iwas」「自分は存在している・・・そして生きた」(訳が違うかも)という言葉が印象的です。それぞれがそれぞれに、見方によっては自分勝手に存在して愛を表現
    する。存在を表現するために人生があるのかもしれませんね・・・と自分勝手に思いました。

    NoTitle

    ラスト、本当の息子や夫の事なんて一切記憶にないような、デイヴィッドだけに都合のいいママのクローンを貰って幸せそうにしている様子は、人間への復讐にも見えましたね。
    観る人によって様々な見方がある作品でした。
    今回もご参加ありがとうございます!

    プログラムされたとこからはみ出すことは許されないロボットやから、奴隷的要素、てのから逃れられないもんやもんね
    人に似せてみたところで相容れないもの、ていう一線が人の側にあるんやろし
    近づければ近づけるほどに差異を感じさせるものでもあるんやろね
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