「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 サヤカ D
サヤカ
「なにもあれほど大笑いすることはなかったじゃないですか」
あたしは、オレンジジュースのストローに口をつけ、良寛さんを睨んでみせた。
「ごめん、ごめん、昨日はきみの説が、あまりにもぼくの無防備なところを突いてきたので、つい笑いがこみ上げてしまったんだ。この通りだ。すまない。謝る」
良寛さんは自分のコーヒーカップをどけると、笑顔で頭を下げた。
「もう」
あたしとしても、本気で怒っているわけではない。本気だったら、こんな喫茶店などでおしゃべりなんかしていない。
「しかし、それにしても突飛な考えだね。いったい、どこの誰が、幕府の統治を揺るがせて得をするっていうんだい」
あたしは、ちょっと考えた。
「……天皇家?」
良寛さんは口に持って行きかけたコーヒーカップをまたテーブルに戻し、激しく咳き込んだ。
「そう何度も笑わないでください」
良寛さんは目をこすった。
「いや、だって、それはないだろう。後醍醐天皇が大暴れした時代じゃないんだ。天皇家の権力は幕府の軍事力のバックアップなしでは保持できない。もうそれは誰の目にも明らかだったろうな」
良寛さんはコーヒーをひと口飲んでから、言葉を続けた。
「天皇家にしろ、幕府にしろ、乱世なんて望んでいない。支配階級にとってもっとも望ましい事態は、今も昔も、長期的な安定成長だ。ごく自然にしているだけで、複利計算の利息みたいに自分の富や権力が大きくなっていくのなら、それにこしたことはないわけだからね」
あたしは小首をかしげた。
「でも、そんな安定成長なんて、そうそうあるものかしら?」
「そこを安定成長させるのが支配者の責務だよ。誰も、世の中を安定成長させるのは簡単だ、なんていってない。例えば、きみがご執心の足利義教だけれど、『万人恐怖』の裏には、将軍の支配体制を強化して、日本を安定させたいという思いが見えるね。永享の乱なんてのが起こったのも、さんざん大名の相続問題に口を挟んだのも、最終的には、地方にまで自分の兄弟なり子供なりを送り込んで、権力を安定させる、という構想があったんだろう。動乱の時代を経た後に似たようなことをやったのが、みんな知ってる徳川家だ」
良寛さんは肩をすくめた。
「まあ、やりかたにうまいへたがあるのはしかたがないけどね」
「でも、どうして足利義教は、政治工作をあんなにへたにやったの?」
「なにもあれほど大笑いすることはなかったじゃないですか」
あたしは、オレンジジュースのストローに口をつけ、良寛さんを睨んでみせた。
「ごめん、ごめん、昨日はきみの説が、あまりにもぼくの無防備なところを突いてきたので、つい笑いがこみ上げてしまったんだ。この通りだ。すまない。謝る」
良寛さんは自分のコーヒーカップをどけると、笑顔で頭を下げた。
「もう」
あたしとしても、本気で怒っているわけではない。本気だったら、こんな喫茶店などでおしゃべりなんかしていない。
「しかし、それにしても突飛な考えだね。いったい、どこの誰が、幕府の統治を揺るがせて得をするっていうんだい」
あたしは、ちょっと考えた。
「……天皇家?」
良寛さんは口に持って行きかけたコーヒーカップをまたテーブルに戻し、激しく咳き込んだ。
「そう何度も笑わないでください」
良寛さんは目をこすった。
「いや、だって、それはないだろう。後醍醐天皇が大暴れした時代じゃないんだ。天皇家の権力は幕府の軍事力のバックアップなしでは保持できない。もうそれは誰の目にも明らかだったろうな」
良寛さんはコーヒーをひと口飲んでから、言葉を続けた。
「天皇家にしろ、幕府にしろ、乱世なんて望んでいない。支配階級にとってもっとも望ましい事態は、今も昔も、長期的な安定成長だ。ごく自然にしているだけで、複利計算の利息みたいに自分の富や権力が大きくなっていくのなら、それにこしたことはないわけだからね」
あたしは小首をかしげた。
「でも、そんな安定成長なんて、そうそうあるものかしら?」
「そこを安定成長させるのが支配者の責務だよ。誰も、世の中を安定成長させるのは簡単だ、なんていってない。例えば、きみがご執心の足利義教だけれど、『万人恐怖』の裏には、将軍の支配体制を強化して、日本を安定させたいという思いが見えるね。永享の乱なんてのが起こったのも、さんざん大名の相続問題に口を挟んだのも、最終的には、地方にまで自分の兄弟なり子供なりを送り込んで、権力を安定させる、という構想があったんだろう。動乱の時代を経た後に似たようなことをやったのが、みんな知ってる徳川家だ」
良寛さんは肩をすくめた。
「まあ、やりかたにうまいへたがあるのはしかたがないけどね」
「でも、どうして足利義教は、政治工作をあんなにへたにやったの?」
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この歴史談義が毎回楽しみです。
足利義教のこと、改めて勉強したくなってきました。
本編とどうリンクしてくるのか、楽しみです。
足利義教のこと、改めて勉強したくなってきました。
本編とどうリンクしてくるのか、楽しみです。
- #14167 椿
- URL
- 2014.09/24 00:12
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Re: 椿さん
温かい目で見守ってくれたら……いえなんでもありません(^_^;)