「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 アキラ 7-1
7 アキラ
日本舞踊というものがあれほど難しくて奥が深いものだなんて考えたこともなかった。いや、難しいことは理解していたけど、頭でわかっているのと実際に身体でわかるのとでは、質的にまったく違うのだ。
一度見てわかれ、というのにも限度がある。稽古の時間以外にも、覚えた動きを反復練習する必要があるし、小さいころから身についている鹿澄夢刀流の動きが邪魔をすることもあるし、学校の宿題だの予習復習などの時間を考えると……やることの大海の中であっぷあっぷしているようだ。
もちろん、気がかりになっていることは聞いてみた。そこらへんをはっきりさせておかないと、修行もなにもできやしない。
『師匠』
『なんだ』
『ぼくと西連寺くんとの間に、あんな噂を流したのは、もしかしたら師匠ですか?』
高木さんはにこりともしなかった。
『わたしが噂を流したとしたら、それでなにかが変わるのか』
えっ……。
ぼくは一瞬、言葉に詰まった。
高木さんはぼくをすくませるようなびしびしとした声で続けた。
『何も変わらないことはわかるな。きみのお父上の言葉を借りれば、きみは時形流の内弟子だし、内弟子は師匠と起居をともにして、生活のすべてを舞踊に捧げ、そしてその真髄を得んとする。それだけだ』
むき出しの鋼を思わせるような、硬さと鋭さをあわせ持った声。ぼくはまともに息をすることもできなかった。
『それに、きみが時形流の奥義の端っこでもいいからかじり取ることができなければ、きみは二学期を無事に迎えることはできないだろう。わたしは脅しているわけでも、大げさにいっているわけでもない。ただ単に、事実を述べているだけだ』
そして高木さんはとどめの一撃を放った。
『少なくとも、わたしの言葉を聞いて酸欠を起こすようでは、時形流どころか、鹿澄夢刀流目録を名乗ることすらおこがましいというものだ。余計なことを考えず、ただ、見て、舞え』
ぼくは金魚みたいに口をぱくぱくさせていたことにようやく気づいた。
まだ初対面から三日しか経っていないが、父さんがかなわなかったこともわからないではない恐ろしい人だ。
今のところ、ぼくや家族を傷つけようとはしていないことが唯一の救いだが、もし、敵に回ったら……。
怖いよ、ノゾミちゃん!
それだけではない。夢逐人としても、このところ見ている夢はひどいものだった。夢の中で、ぼくは……。
日本舞踊というものがあれほど難しくて奥が深いものだなんて考えたこともなかった。いや、難しいことは理解していたけど、頭でわかっているのと実際に身体でわかるのとでは、質的にまったく違うのだ。
一度見てわかれ、というのにも限度がある。稽古の時間以外にも、覚えた動きを反復練習する必要があるし、小さいころから身についている鹿澄夢刀流の動きが邪魔をすることもあるし、学校の宿題だの予習復習などの時間を考えると……やることの大海の中であっぷあっぷしているようだ。
もちろん、気がかりになっていることは聞いてみた。そこらへんをはっきりさせておかないと、修行もなにもできやしない。
『師匠』
『なんだ』
『ぼくと西連寺くんとの間に、あんな噂を流したのは、もしかしたら師匠ですか?』
高木さんはにこりともしなかった。
『わたしが噂を流したとしたら、それでなにかが変わるのか』
えっ……。
ぼくは一瞬、言葉に詰まった。
高木さんはぼくをすくませるようなびしびしとした声で続けた。
『何も変わらないことはわかるな。きみのお父上の言葉を借りれば、きみは時形流の内弟子だし、内弟子は師匠と起居をともにして、生活のすべてを舞踊に捧げ、そしてその真髄を得んとする。それだけだ』
むき出しの鋼を思わせるような、硬さと鋭さをあわせ持った声。ぼくはまともに息をすることもできなかった。
『それに、きみが時形流の奥義の端っこでもいいからかじり取ることができなければ、きみは二学期を無事に迎えることはできないだろう。わたしは脅しているわけでも、大げさにいっているわけでもない。ただ単に、事実を述べているだけだ』
そして高木さんはとどめの一撃を放った。
『少なくとも、わたしの言葉を聞いて酸欠を起こすようでは、時形流どころか、鹿澄夢刀流目録を名乗ることすらおこがましいというものだ。余計なことを考えず、ただ、見て、舞え』
ぼくは金魚みたいに口をぱくぱくさせていたことにようやく気づいた。
まだ初対面から三日しか経っていないが、父さんがかなわなかったこともわからないではない恐ろしい人だ。
今のところ、ぼくや家族を傷つけようとはしていないことが唯一の救いだが、もし、敵に回ったら……。
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それだけではない。夢逐人としても、このところ見ている夢はひどいものだった。夢の中で、ぼくは……。
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