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    「ショートショート」
    SF

    標的

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     わたしはスプリングフィールドM1903A4狙撃銃を握り、その一瞬を待った。
     1945年夏の沖縄。アメリカ軍は破竹の勢いで日本軍を打ち破っていた。日本軍は部隊をかき集め、防衛線を張って抵抗を続けていたが、崩壊までは時間の問題だった。
     それにしても暑い。狙撃兵というものは、人目につかないところで一時間でも一日でも、ひどいときには一週間でも一ヶ月でも待ち続けて、標的が出てくる一瞬を待つのが仕事なのだが、ここまで蒸し暑く、虫もやたらと湧いてくるような状況下では、苦痛を通り越して地獄の責め苦だった。それでも動くわけにはいかない。発見されてしまっては、なんのためにこうも苦しい思いをして待ち続けたのかわからなくなる。よほどのマゾヒストでもなければ、狙撃兵などやっていられない。いや、兵隊なんかになりたがるものは皆マゾヒストみたいなものか。
     事前に研究された写真から、標的が出てくる場所は割り出されていた。ここで間違いはない。
     わたしは調整されたスコープを覗き続けた。
     岩の陰から、なにかが出てきた。指が緊張した。出てきたのは、一羽の鳥だった。飛べなくなっているらしい。砲弾の破片は、人間だろうと動物だろうと鳥だろうと昆虫だろうと相手を選んではくれないからだ。ちなみに、戦場で命を落とす原因となるのは、銃弾そのものよりも、砲弾の爆発などにより飛び散った金属片によるもののほうが圧倒的に多い。いかに銃弾に対しては無力だとはいえ、鉄兜が兵隊に必要不可欠なのはそのせいもある。
     汗が目に入った。わたしはまばたきをした。狙撃兵にあるまじき態度だ。このときに標的が出てきたらどうするつもりなのだ。
     今回は神が援けてくれた。標的は出てこなかった。
     わたしは待った。
     それから一時間近く、なにも起こらない時間が続いた。
     今日も無駄だったか……?
     そのときだった。岩の陰から、白いものが覗いた。
     標的だ!
     わたしは標的の姿がスコープに現れるのを見、機械的な冷静さで引き金を引いた。
     わずかな間をおいて、機械的に標的は倒れた。
     それは、白旗を掲げた、まだ年端もいかない少女だった。
     今ごろ、日本人カメラマンに化けたわたしの同僚が、降伏しようとした少女がアメリカ兵に撃たれて死亡する瞬間の写真を撮っているはずだ。フィルムはこの地から逃げ去る将校に渡され、東京で反米徹底抗戦を叫ぶ将校団のもとへ行き、そして天皇の目に留まることになる。最終的に天皇は、本土決戦の詔勅を出すのだ。
     わたしは苦い顔で立ち上がりながら、思念波を送ってタイムゲートを開いた。こんな五百年も前のアメリカ兵の格好をするなど、悪い趣味だとしか思えないのだが、なにかの事情でここでわたしが死んだとき、この時代とは合っていないテクノロジーの産物があったりしたらまずいのだ。
     降伏する少女にはなんの恨みもないが、人類のためには本土決戦により日本の人口が激減してくれなくてはならない。少なくとも、わたしの暮している現代においては、環境と文化のレベルを保ったままで人口を最低でも二十分の一の五十億にまで戻すことが必須課題なのだ。
     わたしは次の任務先を思った。ドイツか、ロシアか、フランスか、中国か?
     環境と文化。その本質とはこれなのだろう。
     わたしは昏く笑った。笑わなければやっていられなかった。
     
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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    この手の話でいちばんショックだったのは、田中光二先生のSF小説「大滅亡(ダイ・オフ)」ですね。

    未だに人類はその危機から逃れていないのに、本が絶版なのはどこか許せないであります。

    う~~ん、朝から読むにはちょっとヘビーでした。
    白は他の少女が人身御供に。。。

    人口増加は大問題ですね。
    それでも勝手に殺していいとは言えませんが。




    >ネミエルさん

    人口増加は深刻な問題です。ある意味、地球温暖化よりも確実で破滅的な問題だと思います。
    その割りに、マスコミが取り上げることが少ないんだよなあ。少子高齢化、などといって産めよ殖やせよをたきつけてるし。
    話としてはよくあるものになってしまいましたが、「白旗の少女」というところがトピックかな、と(爆)。

    今日本の人口は減り続けているといわれていますが
    逆に増え続けてもこういうことになるんでしょうね・・・

    戦争の痛みをそろそろ忘れてきた日本がアメリカ相手にまた戦争をしかけるのもちかいかもしれませんね・・・
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