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    昔話シリーズ(掌編)

    歌い手とオウムの昔話

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     時間までにはまだ間があるな。でも酒にはまだ早い。なにをして時間をつぶそうか?
     子供に聞かせるような昔話をしてくれ?
     わたしはそんなものはあまり知らないんだが。
     ……まあ、そこまで頼まれたらしかたがない。昔、昔の話だぞ。

     昔、昔、この地方がとある伯爵に治められていたころの話。
     伯爵のお城に、歌を歌うためだけに育てられた女の子が住んでいました。
     女の子はたいへん身分がいやしく、日ごろから地下の部屋で暮し、日の光を浴びられるのは、一週間に一度、外で歌を歌うときだけでした。
     しかし、歌を聴いた人たちから女の子にかけられる言葉は、ひどいものでした。
     あるものは、聴くに耐えないといい、
     あるものは、ひどい下手くそだといい、
     あるものは、ただの雑音だというのでした。
     そして、いちばんひどい、それこそ聴くに耐えない台詞を吐くのは、城主の伯爵その人でした。
     女の子は、そうした罵声を投げつけられては、とても苦しみ、なんとか自分の歌で喜んでもらおうと、自分で様々に工夫を凝らし、練習するのですが、人々からの罵声は、日を追うごとにひどくなっていく一方でした。
     そして女の子は、毎日泣いて過ごすことになるのでした。
     ある日、遠方から、ひとりの旅の商人がやってきました。商人は、珍しい鳥を売って歩いているのでした。珍しいといっても、ただのオウムでしたが、当時はこの辺りでは充分に珍しい鳥だったのです。
     商人は、伯爵に目通りを願い、許されました。そこで伯爵にオウムを見せたのですが、伯爵は買ってくれませんでした。
     伯爵の居室からの帰り道、商人は庭を通りかかりました。
     そのとき、商人は、かつてこれまで聴いたこともないような妙なる歌声を耳にしました。
     声のほうに目を移すと、そこでは、貧しい身なりをした女の子が、罵声を投げつけられながら、懸命に歌っているではありませんか。
    「ああ、なんと美しい歌声だ! こんな心をうつ響き、聴いたこともない!」
     その歌声の美しさに、思わず商人は叫びました。
     女の子は、はっと歌をやめ、商人を見つめました。周りの人たちが、ざわざわとし始め、すぐに衛兵が現れて、商人を捕まえ、伯爵のもとに引っ張って行きました。
     伯爵は、にやにやとして商人に語りました。
    「お前は、正直な人間のようじゃな。残念ながら、正直の上に馬鹿がつく」
    「どういうことでしょうか、伯爵様」
     商人は混乱して問い返しました。伯爵は、その醜い顔をさらに醜く歪ませていいました。
    「お前は、人間に美しい歌を歌わせるにはどうするべきだと思うかな」
    「褒めればいいのではないですか?」
     商人の答えに、伯爵は大口を開けて笑いました。
    「違うな。歌い手というものは、暗い部屋に押し込めて、毎日けなして、馬鹿にして、涙を流させて育てるのじゃ。そうすれば、自分で努力しようとするからほっておいてもうまくなるし、そうでなくとも、歌い手の悲しみと絶望感、そして心の痛みが、これ以上ないスパイスになって、実に素晴らしい悲歌を歌ってくれるというわけじゃよ」
     商人は、それを聞いてああ、と叫びました。
    「伯爵様。それは、人としてすべきことではないと思いますが」
    「だから楽しいのじゃ。人に、それも稀なる才能を持つ人間に、失意と苦痛の涙を流させるよりも楽しいことはほかにあるかな」
     暗い気持ちで伯爵の言葉を聞いていた商人は、あの女の子に対して褒め言葉をかけない、という条件で許されました。
     こんな土地からはすぐに逃げ出してしまうのが利口だと商人は考えましたが、しかしあの女の子の歌声をもう一度聴きたいという思いのほうが強く胸にありました。
     一週間後、旅装を整えた商人は、せめても最後に女の子の歌を聞いてからこの土地を後にしよう、と、城の庭を訪れました。
     今日も、庭では女の子が罵声を浴びせられながら歌を歌っていました。商人は、顔を砂塵よけに使う布で覆ってその声を聴いていました。どんな表情で女の子を見たらいいのかわからなかったのです。
     そのときです。商人の肩から、売り物のオウムが、結わえていた紐を引きちぎって飛び立ちました。
     驚く人々の中を、オウムは、誰にでもわかる、伯爵の声の鳴きまねをしながら飛び回りました。
    『……歌イ手トイウモノハ、暗イ部屋ニ押シ込メテ、毎日ケナシテ、馬鹿ニシテ、涙ヲ流サセテ育テルノジャ、クワッ、クワッ』
    『……歌イ手ノ悲シミト絶望感、ソシテ心ノ痛ミガ、コレ以上ナイすぱいすニナッテ、実ニ素晴ラシイ悲歌ヲ歌ッテクレルトイウワケジャヨ、クワッ、クワッ』
     女の子の顔に、理解の色がよぎったかと思うと、その顔が怒りで真っ赤に染まりました。オウムのしゃべる次の言葉を聞いたからです。
    『……ダカラ楽シイノジャ。人ニ、ソレモ稀ナル才能ヲ持ツ人間ニ、失意ト苦痛ノ涙ヲ流サセルヨリモ楽シイコトハホカニアルカナ、クワッ、クワッ』
     女の子は、伯爵を、きっ、とにらみつけました。
     大きく口を開いた女の子は、喉の奥から、激しい声を張り上げて歌いました。
     それは、権力者の横暴と不正を糾弾する、誰も聞いたことのないような恐ろしい怒りの歌でした。
     正面から歌を投げつけられた、伯爵の顔が青ざめ、そして土気色になりました。
     女の子が歌い終わったとき、そのそばで呆然としていたおつきの者が、はっとして伯爵の身体に触れました。
    「は、伯爵が……死んでるっ!」
     城は大混乱に陥りました。
     商人は、飛び回るオウムを追いながら庭の真ん中に駆け込むと、女の子の手を取りました。女の子が、人々に鋭い目を投げると、群集がさっと割れて道ができました。
     オウムをつかまえた商人は、女の子の手を引いて、その道をどんどん進み、二人は姿を消しました。
     その後、二人がどうなったかを知る者は誰もいません。

     ……わたしがおばあちゃんから聴いた話ではこうだったな。
     うちの一族について聞きたい? 前に話しただろう。そんなことを聞いても、つまらないと思うんだけどな。
     うん。うちの家が、代々オウムを大事に飼っているのはほんとうだよ。
     それに、昔からちょくちょくソプラノ歌手が一族に出るのもほんとうだ。君たちも知っているはずだよな。なにせ今日は新作オペラの主役としてわたしの妹が歌うんだからな。
     君たちがなにをほのめかしているのか、わたしにはさっぱりわからんね。さて、そろそろ幕が開く時間だぞ……。


    追記:「イースターエッグの夜」の祭歌さんがイースターの企画として絵を描いてくださるということだったので、お願いしたところ、とってもかわいい歌い手さんを描いてくれました!

    うわーかわいい!

    ありがとうございますううううう!


    歌い手イラスト1


    歌い手イラスト2

    (もろもろの理由で縮小してあります)


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    ~ Comment ~

    Re: オムさん

    基本的に、やっぱり最後は、愛する二人を見るとハッピーエンドにさせたくなる性格なもんで……(^^;)

    小説の都合により悲惨な結末にすることもありますが(^^;)

    最後は………何ですね。

    こんばんは、ポールさん。

    そうか、商人と女の子は………何ですね。

    女の子と商人と伯爵の話は考えるべきものがあって、すばらしかったです。

    が、最後の一族の話、読み手に最後のストーリーを想像させる、うまい構成に驚きました。

    Re: CHIゆさん

    お読みいただいてありがとうございます。

    女の子の声については、ソプラノの澄み切った声、という以外はなにも考えてませんでした(^^) でもそれじゃ伯爵を歌いのめすには不足かなあ。

    きっと声域が異様に広いんですよ。……たぶん。

    蓮の花は泥からでないと生えませんが、女の子は「間違って泥の中に入っている」バラの花みたいな娘ですから、逃れたことによって真の才能が開花するんでしょうね。……たぶん。

    NoTitle

    彼女の凛とした歌声が聞こえてきますね。
    きっと、細くて儚い歌声ではなくて、芯のある力強い歌声のような気がします。
    貶されながら歌っていた彼女の歌と、伯爵から逃れた彼女の歌は、どう違ってくるのだろうか……。そんなことを思いました。才能と環境。うーん。考えさせられました。
    女の子は泥の中から生える蓮の花のようです。


    Re: 桐月きらり☆さん

    はじめまして。どうも、「エドさん」をお気に入りいただいてありがとうございます。

    もともと、「エドさん」は某JOMOの童話大賞に投稿したものです。最初は3篇だったのですが、1万通来る中に3篇じゃ心もとないな、と思って10篇書いたところ、妙に愛着がわいてしまってシリーズになってしまいました(^^)

    友人には100篇書いて単行本にしろ、などとハッパをかけられていますが、エドさんシリーズ、書くのがたいへんなんですよね。常に5枚で決着をつけなくちゃならないので。それでも、たまに続きを書きたくなります。ごめんよ君を忘れているわけじゃないんだ、とエドさんには平謝りする毎日です(^^;)

    こちらの、「昔話シリーズ」も、わたしとしては自信作がそろっておりますので、どうかゆるゆるとお楽しみいただけたら幸いであります。

    歌い手とオウムの昔話は、なんといっても薄倖のヒロインが幸せをつかむ話が書きたくて書きました。出来上がってみると伯爵に怨歌を歌うシーンの迫力が足りなかったかな、などと反省点は多々ありますが、自分の中でもお気に入りの一作になりました。

    次の「乱暴者と狼の昔話」はマカロニウエスタンみたいな話ですからご趣味には少々合わないかもしれません。わたしは気に入っているんですけど、バカな子ほどかわいい、という話もありますし(^^)

    この手の、わたしにしては格調が高い話は、「ショートショート」にもまだいくらかありますが、「ナイトメアハンター桐野」はハードボイルド風長編二次創作小説、「範子と文子の三十分一本勝負」に至っては完全にギャグですので、お嫌いでなければそちらもお読みいただければわたしの小説のさまざまな面が見られて興味深いのではないか、と思います。しかも今書いている「紅蓮の街」ときたら暗黒小説というか犯罪小説だからなあ。ファンタジーなのに。

    ブログランキングのシステムは、わたしみたいな節操なくなんでも書くよろず小説ブログにはちょっと厳しいなあ、とため息ついてます(笑)。

    エドさんの新作を書く日が来るとしたら……来年の夏ごろかなあ……。『紅蓮の街』をなんとかしなくちゃいけないからなあ……。

    よければそのときまでどうかお見捨てなさらずにm(_ _)m

    NoTitle

    はじめまして。こっそり通わせていただいておりました。
    探偵エドさんシリーズにはまってしまい、基本毎日一つずつを楽しみに読ませていただいておりました。
    少し不思議で、どこかほんわりするエドさんのシリーズを読み終えててしまいました。
    コメントを置かせていただこうと思っていたのですが、次を読んでからと思っていましたら、気が付いたらここまで読んでいました。現在は、昔話シリーズを読ませていただいています。

    一生懸命歌のお勉強をする歌い手と、伯爵との関係がリアルでした。
    本当にそう考えられていたら、歌い手のお嬢さんの悲しみと苦しみと辛さが倍になって膨れ上がって憎しみになるには十分だと感じました。
    これまでの時すらも奪われていた彼女とオウム売りの人が歴史になって、大きな伝説になったわけではないけれど、しっかりと語り継がれている。
    現在もちゃんと繋がっているところが最後に笑顔を連れてきてくれた感じがしました。

    また来ます。お邪魔しました。

    Re: 祭歌さん

    こちらでははじめまして。

    よくぞいらしていただきました(平伏)

    こんな零細ブログですので、小説を読んでいただけるだけで嬉しくありがたいであります。

    かわいいイラストをどうもありがとうございました。

    またいらしてくださいね~♪

    NoTitle

    思えば初コメントです。ものすごく緊張です。指ぶるぶるしてます←
    実は塔の中の姫君の昔話とか、バイオリン弾きの昔話とか、好きだったりします^^こそこそひそひそ拝読←

    何だかしわしわ暗暗ですみません…っ
    こちらこそ有難うございました!

    では乱文失礼致しました;!

    Re: LandMさん

    うらやましいといっていただいてありがとうございます。

    元ネタにした尾崎行雄のエピソードでは、そのころ権力を握っていた桂太郎総理大臣が民衆の抗議の前に内閣総辞職をしなければならなくなり(これを大正政変といいますが)、そのおりに、尾崎行雄の演説により桂総理が気死したと噂されたというものです。

    演説と政治家じゃ、あまりに生々しすぎるんで女の子と歌にしたしだいです。うーんこれは「書いてはいけない裏話」だったろうか(^^;)

    いやー実はキノの旅読んでないんですよ(汗)。読まなきゃいかんと思っているうちに本屋の棚からなくなって。

    そういやあ最近ファンタジーは今読んでいるエルリック以外とんとごぶさただなあ。読まなきゃなあ。

    「昔話シリーズ」はとりわけ気に入った作品が多いですので(いやほかのも気に入った作品ばかりですが)、どうかほかのも読んでいただきたいであります。

    こういう話が書けるのは正直うらやましいですよね

    作風的にはキノの旅とか思いだしますね。生きていく上のでの無情さとかを感じさせる作風だと思います。LandMです。歌と伯爵が関連するのも結構面白いかと思っています。歌というのはそういう恐怖に落としいれる可能性も秘めていて、すごいですよね。

    また来ますね~~。

    >せあらさん

    まあそこについてはごにょごにょ(笑)。

    伯爵は人間として許しがたいやつであります。
    天罰というよりも女の子の歌の力ですね。
    このシーンは、政治家の尾崎行雄と桂太郎のエピソードを念頭に置いて書きましたが、今の世の中で尾崎行雄のことなど誰も覚えていないのであった(笑)。

    この昔話って……
    オウムを大切にしていてソプラノ歌手を輩出する家系でっていうと、考えられる事は一つですよね?
    あえて何かとは言いませんが。

    このお話、女の子の身分云々よりも、伯爵の人間性の卑しさが醜い。。最後の最後で、きっと天罰がくだったのでしょうね。

    >ネミエルさん

    まったくもう、ああいうやつってよくいるんですよね。
    この話ではさよならしてくれましたが……。

    でもウケてくれたようでよかった。

    >ECMさん

    大丈夫です。
    わたしもカード持っていません(泣)。
    アマゾソなんて嫌いやあ~。

     ネットで、あずまんが大王の新装版の、中古の価格を調べてみました。
     e-bookoffで各巻378円で売ってますねぇ。三冊同時に買うと送料無料だそうです。
     amazonでは1年生が207円、2年生が387円、3年生が431円、各巻プラス送料。(出展者が違うので別々に送料がかかる。)
     ただしどちらもカード支払いのみですが。
     私のようにカードを持っていない人だと、どちらも買えません。

    うっひゃー…

    伯爵さようなら( ´∀`)/~~

    なんでこういう物語が書けるんですか!?
    羨ましすぎです!
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