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    昔話シリーズ(掌編)

    乱暴者と狼の昔話

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     ……いらっしゃい。別に用件なんか聞く気はないよ。あんたは、名うての悪徳保安官。そしてあたいは、名うての商売女だ。とくりゃあ、一夜のお楽しみ以外にないじゃないか。長いことこの町でとぐろを巻いてきて、まんざら知らない中じゃなし、長い夜をゆっくり過ごそうじゃないか。いつものことだろ? いつもの。

     ……今日はずいぶんと優しいんだね。あたいも変な気になってきたよ。今日は、気分を変えて、昔話をしてあげようか。大丈夫だよ、昔話の料金は取らないからね。
     昔、昔……。

     昔、昔、ある村に、一人の乱暴者が住んでいました。乱暴者は、犬のかわりに狼を飼い、鋤のかわりに弓矢を持っているのでした。
     乱暴者は、村の困り者でした。働くことは大嫌いで、いつも飼っている狼と遊んでいました。おなかがすくと、他の村人の畑から勝手に野菜を持って行ってしまうのです。それでも、山に分け入ってはたまに大きな獲物を仕留めてくるのですが、一番いい部分は、狼にくれてやってしまうのでした。
     村人たちは、ほとほと困りました。せめても、狼を飼うことだけはやめてくれないか、と談判しましたが、乱暴者は聞こうとしませんでした。
    「おれは、好きなように生きていくと決めたんだ。だから、好きなように生きていくぜ」
     これでは話し合いになりません。
     今日も、乱暴者は山に入って行きました。また、鹿とか猪でも追いかけているんだろう、と村人たちは話し合いました。いっそのこと、あの乱暴者をおだてて、街へ出して王様の軍隊にでも入ってもらったらどうだろう、などという意見も出ました。いつものことでした。乱暴者が、そんな意見に耳を貸すことはまるでなかったのです。
     しかし、その日もまだ早いうちに、乱暴者は山を降りてきました。乱暴者は、その足で真っすぐ村長の家に向かいました。
     時ならぬ訪問者に、村長はびっくりしました。
    「なんだ、ここにはお前にくれてやるようなものはなにもないぞ」
     乱暴者は、やや顔を青ざめさせて答えました。
    「そんなことを話している時間はない。この村に、山賊の一団が迫りつつある」
     村長は愕然とし、本当かと訊ねました。
    「おれを信じてくれるかどうかはわからないが、本当の話だ。ここでこうして話している時間すら惜しい。すぐに村人を集め、やつらの手の届かない山奥に逃げてくれ」
     そういうや否や、乱暴者は外へ出て行こうとしました。
    「どこへ行く」
    「おれは生きたいように生きるといっただろう。その言葉どおりに生きるだけさ。生きたいように生きるからには、死にたいように死ぬ」
     乱暴者はそのまま姿を消しました。
     村長は、その言葉が気にかかりましたが、それよりも、今は目前に迫った危険から、村人を守るほうが先でした。
     村人たちは、村を後にしました。

     ……尻切れトンボだって? そうだろうけど、あたいが聞いたのは、ここまでなのさ。あたいの親は、子供の教育なんか、どうでもいいって親だったからね。
     だけど、あたいには結末がわかる。乱暴者は、村人を逃がすため、山賊からの盾になって狼ともども死んだのさ。ちょうど、あんたがそうしようとしているように。知ってるよ。アントネッリの一家に、町から手を引かせるために、銃を持って談判に行くんだろ。あんたも、最後はこの町の人間だったってことさね。
     大丈夫さ、このことを知っているのはあたい一人だけだ。周りの娘はみんな、なにが起ころうとしているのかを考えられるだけのおつむなんか持っちゃいないよ。安心して、死んでおいで。

     ……行っちまったよ。バカな男だね。もっとも、こんな裏の世界に足を突っ込むなんてのは、男も女もバカなんだけどね。
     黙っていたけど、あたいは、子を身ごもっているんだ。あんたのだよ、保安官。狼は死んでも、その胤は、狼犬となって受け継がれるのさ。
     さようなら、あたいの狼……。
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    ~ Comment ~

    Re: しのぶもじずりさん

    なにを書いても短くなってしまう病患者だったりします(笑)

    個人的にその場でさっと読めて終われるショートショートという形式が好きなのと、毎日更新などという無謀なことをやっていると、ショートショートのほうが更新しやすいために、いつの間にか200篇も。

    昔話シリーズは、その中から自然発生的に出てきたカテで、架空の、現代に類似した社会で語られている昔話という設定ですから、それぞれの話に関連性はありません。矛盾していることも平気で書いてますし。

    また、気が向いたら書こうかなあ。
    • #7969 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/08 16:07 
    •  ▲EntryTop 

    らんぼうもの

    こういう短い話でストーリーが完結しているものって、書いた事が無いので、へえっと思って読ませてもらいました。

    この不思議な違和感はなんだろう。
    【王様の軍隊】があると思えば、
    【保安官】と【アントネッリ一家】で突然西部劇?

    【乱暴者】も何度も出てくると、
    「らんぼうもの」という語感が、のどかで牧歌的に感じられるのも なんか  ふ し ぎ

    短い中に何度も同じ言葉が出てくると、言葉の意味より語感が優先されてくるのね、とか、いろいろ考えました。

    Re: YUKAさん

    はじめまして。

    昔話シリーズはわたしも気に入っている作品が多いです。

    こういう話がたくさん書ければいいのですが、難しいですねやっぱり。

    お気に召しましたら、「探偵エドさん」などものぞいてみてください。きっとこちらもお気に召すと思います(^^)

    はじめまして^^

    はじめまして、YUKAです。

    読ませて頂きました^^
    昔話シリーズ、いいですね!
    今日は歌い手……と、この狼の話を読ませて頂いたんですが、
    これから少しずつ、読破させて頂きたいと思います^^

    楽しみが増えました。頑張ってください^^

    Re: LandMさん

    読みにきてくださり恐縮であります。

    田舎者なせいで洗練された話が書けない(^^)

    LandMさんのようなエキセントリックな登場人物がぞろぞろ出てくる小説も書きたいんですが、わたしが書くとみんな妙に所帯じみてきて(^^)

    そこらへんにアクセス数の差が出てくるのかなあと思いました(^^)

    こちらもこれから読ませていただきます♪

    NoTitle

    昔話は昔話で面白い話ですよね。
    どうもLandMです。
    こういう泥臭い話も書きたいのですが、今の実情を考えると、とてもじゃないですけど、書けないですね。個性溢れるキャラクターが闊歩しているので。また、こういった売春などをテーマにしたファンタジーも書きたいなあ・・・…と思ったりします。それはそれで結構面白いと思いますし。
    また読ませていただきますね~~。

    >ネミエルさん

    羊を馬鹿にしてはいけません。
    星座の十二宮で白羊宮がトップに来ているように、羊は精力などの象徴でした。
    子供を守るために突撃してくる羊の破壊力は並々ならぬものがあります。
    アジアでは闘犬ならぬ「闘羊」も行なわれているそうで。
    ……だからなんなのといわれても困りますが(爆)。

    む?

    む!

    ははーん、なるほどねぇ!
    ほぉ、狼ね…

    僕は羊ですので優しくお願いします( ̄▽ ̄)b
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