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    昔話シリーズ(掌編)

    塔の中の姫君の昔話

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     ……皆様、この肖像画が、かの有名な『塔の中の姫君の肖像』でございます。この絵にまつわる伝説は、皆様も一度はお聞きになったことがあると思います。
     しかし、中にはご存じでないかたもおられるかもしれません。そんなかたのために、不肖ではありますがこのわたしが昔話を語りたいと思います。それでは、昔、昔……。

     昔、昔、ある国に魔法使いが住んでおりました。高い高い塔を建て、その中には恐ろしい魔法でこしらえた怪物たちを、護衛として住まわせているのでした。村人たちは、その偏屈で人里には滅多に下りてこない魔法使いを恐れながら暮らしていました。
     最初にそれに気づいたのは、木こりでした。森へ行くための橋が洪水で流され、遠回りして塔の近くを通らなければならなかったのです。
     怪物に襲われないようにと、祈りの文句を口にしながら足早に歩いていた木こりは、ふと塔を見上げました。
     木こりは鋭い目をしていました。塔のてっぺんにある窓から、誰かが下を覗いているのを見つけたのです。
    「誰だろう、ありゃあ? 女の人のようだが……姫様だよ、ありゃあ! どこの国の人だか知らないが、ずいぶんときれいな姫様じゃねえか!」
     木こりは、村へ取って返すとみんなにこのことを伝えました。
     村人には、思い当たるふしがありました。最近になって、魔法使いは新たな呪文を会得したらしく、空を飛ぶ魔物を配下に加えたようなのです。こうもりのような翼を持ち、燃える頭をした巨大な牛が塔から飛んでいくのを何人もの村人が見ていました。
    「さらって来たに違いねえ」
     村長は、重々しく口を開きました。
    「なにをするつもりなのか知らねえが、早く解き放ってあげねえとかわいそうだ。みんなして談判に行くべえ」
     村人たちは、代表者を集めて塔まで行きましたが、魔法使いは会ってくれもしませんでした。怪物をけしかけられそうになった村人は、すごすごと村に帰ってきました。
     季節は流れました。塔の近くを通るたびに村人たちがそのてっぺんを見上げると、姫はいつも寂しそうに窓から外の風景を眺めているのでした。
     その間も村人は、村の代官や、王様のご家来衆、徳を積んだ僧侶などに頼んで魔法使いと話をしようと試みましたが、魔法使いは頑として誰とも会おうとはしませんでした。
     そして一年が巡ってこようとしていたときに、一人の高名な聖騎士が、放浪の旅のさなかにこの村へ立ち寄りました。
    「……なに。姫君が魔法使いに囚われている?」
    「そうでさあ聖騎士様。あの寂しそうなお姿を見るたび、わしらは気の毒で気の毒で。どうか聖騎士様のお力で、魔法使いとお話しになってはいただけないもんですかねえ」
     聖騎士は、はっきりとした声で答えました。
    「なに、そのような非道を行なう魔法使い、わざわざ話すにも及ばぬ。聞けばこれまでもいかなる話し合いも拒んでいるということではないか。このわたしが、剣と祈りの力をもって、その魔法使いを成敗してくれようぞ!」
     聖騎士は、武具を整え、馬を引き、一人で塔までやってきました。
     塔のてっぺんを見上げると、村人の語ったごとく、一人のやんごとなき姫君が寂しそうに外を見ています。聖騎士は剣を立て、誓いの言葉を叫びました。
    「姫! 必ずお救いいたします!」
     聖騎士は蹴りの一発で塔の扉を破りました。
     戦いは激しいものでした。次から次へと襲ってくる恐ろしい怪物たちを、聖騎士は片端から倒して行きました。
     そして塔の最上階、姫君がいる部屋の前で、聖騎士は魔法使いと対峙しました。
     魔法使いは巨大な火の玉を作り出し、聖騎士にぶつけようとしましたが、聖騎士は身を屈めてかわしました。聖騎士は素早く走り寄ると、名剣を振るって魔法使いの腹をしたたかに切り裂きました。
     聖騎士は最後の部屋の扉を蹴破りました。
    「姫!」
     しかし、聖騎士が見たのは、人間ではありませんでした。
    「……絵?」
     そうでした。姫君の姿を描いた見事な肖像画が、窓に向けて貼り出されてあったのです。
    「さよう。絵じゃ。この馬鹿者どもが」
     愕然とする聖騎士に、虫の息の魔法使いは語り始めました。
    「この絵はわしが描いたのじゃ。こう見えてもわしには絵の心得がある。そして、この絵は、わしの最高傑作となった。最高傑作どころの話ではない。わしは、想像だけで描いたこの絵に、恋を、身も焦がれるほどの恋をしてしまったんじゃからな」
    「恋を……」
    「絵に恋をしたところでどうにもならぬことはこのわしも知っておる。だが、わしはどうしてもあきらめがつかんかった。配下の空飛ぶ妖魔をつかわして、遙か彼方に住む賢者から神託を聞いたのじゃ。賢者のもとから妖魔が持ち帰った返事によると、塔のてっぺんの部屋で陽の光を浴びせることを一年間毎日毎日繰り返していれば、わしと絵の姫君は結ばれるだろう、ということじゃった。藁にもすがる思いじゃったが、わしはそれに賭けた」
    「では、村人たちにそのことを話しても……」
     魔法使いは苦笑いしました。
    「一言でもほかの人間に話したら最後、誓いが破れて全てが駄目になる、と託宣には記されておったからな。話すわけにはいかなんだ。そして、今日がそのちょうど一年目……」
     魔法使いは口から血の塊を吐き出しました。
     目を固くつぶりながら、魔法使いは錯乱したかのように叫びました。
    「おお、見える、見えるぞ。わしの目には、わが愛しき姫がわしを差し招いておるのが見える。そうか、賢者の、あの馬鹿賢者のいったことは正しかったのだ! 行くぞ! 今行くぞ! ……姫!」
     魔法使いは息を引き取りました。

     ……ということです。その後、この絵は聖騎士に引き取られ、つい最近まで山奥の修道院に、傲慢と無知と不寛容が作り出す悲劇と罪の象徴として飾られておりました。
     この美術館に寄贈された後も、展示には厳しい条件がついております。それは、額縁は絶対に外さない、というものです。なんでも伝説では、この額縁には魔法使いの遺灰が塗りこめられているとか。
     そのせいでしょうか、この絵の前には、一年に一度、魔法使いたちの幻が現れると伝わっております。幻の中で魔法使いは、聖騎士を相手に罪と救いについての深遠な哲学的問答をしており、魔法使いの傍らでは美しい姫が微笑みながら問答を聞いているそうです……。
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    ~ Comment ~

    Re: sunさん

    ようこそいらっしゃいました(^^)

    この「昔話シリーズ」は、わたしも気に入っている作品ばかりです。

    いずれも、わたしの創作によるものです。

    もう、節操なしに「なんでも書く」小説ブログなので、ショートショートにはSFからミステリからファンタジーからホラーから野球小説から西部劇まで、もうたいがいのものはなんでもそろっているというスーパーマーケットみたいな有様になっております(笑)。

    長編「ナイトメアハンター桐野」や「紅蓮の街」はかなりハードボイルド色が強いので、「昔話シリーズ」を読み終えたら、普通のショートショートか、連作ギャグショートショート「範子と文子の三十分一本勝負」をお読みになられたほうがいいかもしれません。

    とにかく、どれをとっても面白い作品である自信だけはありますので、またいらしていただければ幸いです~♪(^^)

    ちなみに、この小説の元ネタのひとつは、モーリス・ルブランの短編推理小説です。アリバイもので、この「塔の中の姫君の昔話」を読んだ人には見当がつくだろうと思いますが、もう読んでて恥ずかしくなるようなトリックで、かえって印象に(笑)。

    はじめまして~

    上から順に三つほど拝見させていただきました
    通りすがりの者です(・ω・*

    特にこのお話が気に入りました~


    最初見たとき"高い塔の囚われの姫君"と聞いたので
    オフィーリア<髪長姫>?と思ったら一転して
    "ピュグマリオン王が銅像に恋したギリシャ神話"を想起しました

    語り口調と文脈が昔話やお伽噺の"それっぽい"ので
    懐かしくて新しい感じがするのかもしれませんね(・∀・

    この昔話シリーズは
    実際の童話やお伽噺をしているのでしょうか?
    などと疑問に思ってみたり…


    ちょっと偉そうなコメントでしたが
    またお邪魔させていただきますね(^^*

    Re: 鍵コメさん

    なるほど。そういう見方もありますね♪

    お読みいただいてありがとうございました♪

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    >ネミエルさん

    ナルシストというよりは……うーんとなんていうんだっけ。まあなんとかいう性的嗜好があったな、たしか。

    よほどに偏屈で人間嫌いなのか、はたまた、実生活でよほどもてなかったのかなこいつ(笑)。

    魔法使いは、そこまで絵にほれこんでいたんですか。

    それって別の言い方をすれば

    ナルシスt(殴

    じゃないんでしょうかw

    >トゥデイさん

    おひさっす。
    まったく、トゥデイさんといいほかの方々といい、いいネット友達を持ったわたしは幸せ者ですくくくく(感極まって泣く)。

    今回の話は、「すれ違いの悲劇」というものが書きたくて書きました。わたしにしては珍しく、悪人が一人も出てこない悲劇であります。
    最後の締めはちょっとセンチメンタルすぎたかな(^^;)

    明日から当分「ナイトメアハンター桐野・3」が続くことになるので、興味がないトゥデイさんはしばらくの間だけガマンしてくださいすみません(汗)。

    誰ですか元になったアイデアはたぶん「北斗の拳」のシンだなどといっているのは(笑)。

    おひさーっす。
    久々に来てみたら、随分繁盛してきてますね。少し前の久々のエドさんも嬉しかったです。
    今後とも頑張って。

    さて今回の話ですが、
    最初は松谷みよ子の短編に似てる?と思いましたが、全く違いました。
    考えてみりゃ、魔法使いは一度も危害は加えてない。何とも皮肉?な話です。
    我慢させる試練のお約束ですが、賢者の方もうまく逃げ道を塞ぎますよ。
    あれみたい。「100回以内に爆発する火星の給水装置」。
    まあ、マッチ売りの少女?同様救いがあって安心しました。
    今回も面白かったです。
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