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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    3 吸血鬼を吊るせ(完結)

    吸血鬼を吊るせ 1-1

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     人間が夢の中に入り、精神力で武器を作って夢魔と戦う、という魅惑的なアイデアと、「ナイトメア・ハンター」という呼称とは、翔企画からかつて発売されていたRPG「ナイトメア・ハンター」(原案・勝木康明、監修・藤浪智之)によるものである。
     それ以外の全ての人物、事件、舞台、用語などは純粋に著者の想像の産物であり、特定のモデルは存在しない。
     著者の貧困な想像力であの素晴らしいRPGの名が汚されないことを強く願う。

    第一部



     東北、Y県の小さな港町からおよそ一時間弱の航海の末、船は島についた。天の助けだった。一月、真冬のど真ん中に、日本海で船になんぞ乗るものではない。大しけの海は、まるで遠くカリブ海からハリケーン「カタリーナ」でも出張してきたかのごとく船を揺さぶり、乗っていたわたしを船酔い地獄のどん底へと叩き込んだのだから。だが、永遠にも及ぶかと思われた苦しみの時間も、これで終わりだ。
    「ここが戸乱島ですか」
     わたしは同乗の老婆に訊ねた。
    「あんた、学校は出たかい?」
    「いちおう大学は出ましたが」
    「字は読めるかい?」
    「それはもちろん」
     わたしの答えを聞いて、老婆は港の一隅を指差した。半ば雪に埋もれた看板に、「ようこそ戸乱島へ」と色あせた字で書かれてあった。
    「あ、わかりました」
     と口では返したものの心中面白くなかった。戸乱島行きの船に乗ったのだから、ここが戸乱島以外のどこでもないことぐらい承知している。まったく嫌味な婆あだ。
     わたしは船を降り、戸乱島へ第一歩を踏み入れた。ずぼっと、ブーツが雪に埋まった。大野龍臣のいったとおりブーツにして正解だったが、ゴム長のほうがよかったかもしれない。風も強く吹いている。頼りになるのは懐の使い捨てカイロと、もうひとつ。
    「……美人の出迎えはどこだ」
     港には一軒の明かりがついた建物と、誰が乗るのだか知らないがトヨタのマークがついた、クロスカントリー用の4WDと思われる頑丈一点張りの車が停まっていた。
     明かりがついているからには、人もいるだろう。人がいるからには、そこで情報が得られるはずだ。そう思って、足を向けた。
     建物の扉が開き、若い女性が出てきた。
     白いダウンジャケット。白い肌。帽子からこぼれて見えるのは長い黒髪か。
     美人だった。わたしの好みからすれば目がわずかに細すぎるが、申し分のない美人。
     彼女が大野龍臣のいっていた美人の出迎えに違いない。胸が高鳴るというものだ。
     わたしと視線が合った。こちらに歩いてくる。絶対そうだ。
     彼女の紅い唇が開いた。
    「栗野さん?」
     おっとっと。
    「桐野ですが」
    「桐野?」
     眉がひそめられた。
    「栗野って聞いていたんですけど」
    「じゃ、どこかで間違いがあったんでしょう。わたしは桐野です」
     疑り深い眼がわたしを上から下までじろじろと精査した。
    「東京のかたですよね」
    「はい」
    「メンタルヘルスを経営していらっしゃる?」
    「間違いありません」
    「じゃ、あなたが……その」声が低くなった。「ナイトメア・ハンター?」
    「ええ。大野龍臣氏から紹介が行っているはずですが」
    「大野先生のことをご存知のようでは、確かに本物のようですわね」
    「納得していただけましたか」
     彼女はうなずいた。
    「いいでしょう。ここで立ち話もなんですから、車にお乗りください」
    「車?」
     4WDが指さされた。同時に車体のランプがぴかっと光り、ロックが解除されるがちゃりという音が聞こえた。呆然としているわたしに、次々と言葉が降ってきた。
    「お荷物は後ろの座席に入れてください。座るのは前がいいですか? それとも後ろ? どちらでもいい? じゃ、後ろの座席に。シートベルトはしっかり締めてくださいね。いいですか? 行きますよ」
     シートベルトを締めて後部座席に荷物のごとく押し込められたわたしの前で、彼女は余裕たっぷりにキイを差した。雪国にしてはかなりスムーズにエンジンが回りだす。
    「すごい車だ。なんて車です?」
    「プラドです。トヨタの」
    「どなたがなされているのかは知りませんが、実に入念に整備されているようですね」
    「わたしがやってます」
     彼女はそう答えた。こちらとしては驚かざるを得ない。
    「自己紹介が遅れましたわね」
     ハンドルを握り、後ろを向いた。
    「遥美奈です」
    「桐野俊明です」
     わたしも名を名乗った。遥美奈は視線を正面に戻すとアクセルを踏んだ。
    「桐野さんは、もしかしたら生まれは鹿児島ですか?」
     わたしは首を振った。そう聞かれるのは慣れている。
    「残念ながら、違います。両親は西南戦争については何も知らなかった。それが証拠に、字が違う」
    「どう書くんです?」
     説明した。遥美奈はふうんといった。さほど興味は引かなかったらしい。
     こちらにはもっと興味を引くことがあった。
    「けっこうかかりますか?」
    「いえ。こんな狭い島ですし、あっという間です。その気になれば歩いてでも」
    「じゃあ、なぜ歩いては?」
     遥美奈は低脳児にいい聞かせるような声でいった。
    「桐野さん、あなた、こんな雪の中でこんなきつい坂を苦しい思いして歩きたいと本気で思ってらっしゃるんですか?」
     確かに、その言葉どおり道は上り坂になっていた。車道は除雪されていたが、歩道には雪がどっさり積もっている。だがそれがどうした。わたしは毅然として答えた。
    「……いいえ」
     遥美奈は車のスピードを上げた。スリップ、事故という言葉が頭の中を駆け巡った。だが4WDは4WDであり、スタッドレスタイヤはスタッドレスタイヤだった。
    「本物はずいぶん印象が違いますね」
     その言葉に、わたしは戸惑った。
    「え?」
    「あなたのです。ハンターというのだから、もっとがっしりした人かと思っていました」
    「ああ」
     イメージのそいつはこうして後部座席で顔色を蒼くもしていないというわけか。
    「どう見えます?」
    「流行らないお医者さんみたい」
     わたしの反問に、遥美奈はそう答えた。黙るしかなかった。
    「どうしたんです?」
    「いえ、確かにわたしは流行らない医者ですので」
    「……失礼なことを申し上げてすみませんでした」
    「謝られることはありません」
     気まずい沈黙。
     窓の外を見た。雪に埋もれて、塀が延々と続いている。塀の先にはちょっとした大きさの門があった。いずれも西洋の様式だ。
    「広いですね。ちょっとした公園だ。どなたのお屋敷ですか?」
    「うちです」
     驚いた顔のわたしのことなど気にもせずに、車は速度を落とすと門の中へ入っていった。
     塀の中にあったのは、NHKハイビジョンが喜んで番組にしそうな古びた屋敷だった。冬に耐えられるように明治ころの建築家が知恵の限りを尽くしてしっかりと設計したのであろう。雪をかぶっていてもびくともする様子はなかった。
    「特徴ある家の形ですね」
    「フィンランドの様式です。雪がどっさり降っても大丈夫な構造になってるんですよ」
    「こういうのが残っていたんですね」
     わたしの感嘆に、遥美奈は首を横に振った。
    「外見をもともとの家とそっくりにしただけです。もとの家はおととしの夏に火事で焼けました。だから皮の下は鉄筋とコンクリートです」
     なんだ。
    「ガレージが少し離れたところにあります。広いだけが取り柄みたいな家ですからね。玄関はそこですが、どうなさいます? ここで降りられますか?」
     広い? いや、少々手狭である。天皇陛下を泊めるには、だが。
    「ガレージまで連れて行ってください。寒風の中、玄関先で一人あなたを待つより、二人でいたほうがいくらか気が楽だ。それに、聖書かなにかにもあるでしょう。『人もし汝に一里ゆくことを強いなば……』」
    「『共に二里ゆけ』だったかしら。どこかで見た覚えがあります。でもこの言葉、適用を間違えていらっしゃるのでは?」
    「信心深くないものでしてね。そこまで詳しく聖書を読んだことがないんです。それに沢木耕太郎のほうがわたしには面白い」
     コンクリートで作られた、がっしりしたガレージの前で車が停まった。
    「降りていただけます? 桐野さん」
     荷物と共に後部ドアから這い出した。そのまま、車をガレージに入れるのを見届ける。遥美奈は完全に入りきるのを確認してから車を降りた。ポケットからリモコンを取り出し、なにやら操作すると、シャッターがゆっくりと下りはじめた。
     完全に閉まりきると、こちらに振り向いた。
    「さ、桐野さん、行きましょう」
     寒かったので否やもなかった。
     ざくざくと雪を踏みながら歩いて行くと、不意に遥美奈がいった。
    「姉は……どうなるんでしょうか」
    「姉?」
     立ち止まる。わたしも立ち止まった。鋭い眼がこちらを睨んでいる。
    「聞いていないのですか?」
    「詳しいことはこちらに来てからうかがうつもりでした。患者……いえ、依頼人は、お姉様なのですか? 大野氏からはまだ、わたしの助けが必要かも知れない人間がいるとしか聞いていません」
     一瞬の沈黙の後、遥美奈の肩からふっと力が抜けた。
    「助けが必要な人間……そうですね。桐野さん、あなたの助けが必要な人間がいるのです」
     わたしたちは再び歩き始めた。
    「どういうことになっているかは、別にこんな場所でいわなくても、お爺様がすぐに話してくれるでしょう。でも、桐野さん」
     玄関にたどり着いた。遥美奈は扉に手をかけて振り向いた。
    「助けて欲しいのは、わたしが大好きな姉なのです。お願いです、姉を……姉をどうか……」
     その眼は懇願者のそれだった。
     そんな眼を向けられて平然としているような奴は、人間じゃない。
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    ~ Comment ~

    >神田夏美さん

    そりゃー美人とか魅力があるヒロインを出したほうが書いているほうも読んでいるほうも楽しいと思いますので(^^)
    来年から連載予定の作品はまだヒロインが登場するところまで行っていないので書いていてつまらんです(爆)。

    こんばんは、最近ご無沙汰しております。クリスマスセールが落ち付いたので少し読みに参りました^^

    遥美奈さんのお姉さんに助けが必要、とのことですが、今回は桐野さんにどんな不幸……もとい事件が起こるのか楽し……ドキドキしております。ゲフンゲフン。
    読む方は楽しいですが桐野さん本人は大変なんだろうなあ^^
    今回は美人なヒロインもいることですし(前回も島田さんという素敵なヒロインがいましたが)、また色々と頑張って頂きたいですね♪
    時間のある時にまた続き読みに参ります~^^

    >佐槻勇斗さん

    ようこそ3へ(^^)

    わたしも冬とか雪とかは大嫌いです。雪と氷の東部戦線なんかに放り込まれると3時間で死ぬような気がします(笑)。でも絵にすると映えるんだよなあ。

    雪、雪、あーやだ(つД`)゜・。・
    …ホワイトクリスマスとか誰ですか、考えたの。
    こんばんは、お久しぶりです佐槻です。
    なかなか訪問できず申し訳ありません汗

    ようやく3に入ることが出来ましたーヽ(´∀`)ノ
    初っぱなから続きが気になってしょうがないですね♪
    また読みに参ります!

    >せあらさん

    この小説は、前にもコメント欄で書きましたが、このシリーズで最初に書き上げた作品です。いろいろとあってお蔵入りになっていました。
    連載ということはなにも考えずに書いたので、ちょっと連載小説としてはタルいかもしれませんが、どうか最後までおつきあいください♪

    >ネミエルさん

    そりゃー中学高校と勉強もせずに志水辰夫先生の本ばかり読んでいたから……ゲフンゲフン(笑)。

    第三弾ですか。

    では、僕はもう一度はじめっから読み直してきますね~

    なんでこんな文章が書けるんですか?

    いよいよ連載開始ですね!
    『ナイトメアハンター』、続きが掲載されるのを楽しみにしていましたv
    今回はどのような事件に巻き込まれていくのかわくわくしてます"o(*´∇`*)o"
    まだお話が進んでいないので感想は書けませんが、1話目からすでに「それで、どうなるの?!」な感じなので、2話目も期待大ですv
    続き楽しみにしてますね!
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