映画の感想

    黒澤明監督作品「姿三四郎」わかりやすい(?)あらすじ

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    そういわれれば、ストーリーがわかれば楽しいのに、という映画の話で、あらすじを書かないのもなんですね。

    わたしが下手なダイジェストをするよりも、新潮文庫の富田常雄「姿三四郎(上)」を本屋で買ってきて読んだほうが面白いのですが、一応概略をば。

    話は、姿三四郎(藤田進。この映画のイメージとしては「イガグリくん」かな。まあ実際には映画をネタに福井先生がマンガを描いたんだろうけど)という青年が、柔術を学ぶため、神明活殺流という柔術の道場を訪れるところから始まります。するとそこでは、矢野正五郎(大河内伝次郎。貫禄が違う)と「修道館」が始めた「柔道」というものに対する悪口の真っ最中でした。「きみ、入門の前に、面白い見世物をみせてやるぞ」「なにをするのですか」なんと、矢野正五郎を闇討ちしようというのでした。なんだか間違っているんじゃないかと思いつつも、道場の皆が行くというのだったらしかたがありません。入門前ですが、三四郎もついていくことになりました。

    さて、大川のほとりで人力車に乗っていた矢野を襲った神明活殺流の猛者たちでしたが、矢野はまったく恐れる様子もありません。次々と襲ってくる猛者どもを、次から次へと大川へ投げ落としていきます。その強さと気品と人格に、姿三四郎は圧倒されてしまいました。逃げ去った車屋の代わりに、「ぼくに引かさせてください!」と、履いていた下駄を脱ぎ捨て、矢野の乗っている人力車を引いて修道館に向かう三四郎でした。

    月日は流れて(ここを、三四郎が脱ぎ捨てた下駄が雨に打たれたり雪に降られたり花びらの散った川面に浮かんだりすることで表現しているのが、今の映画を見慣れている人間にはわかりにくく感じるのかもしれない)、いつしか修道館の四天王などと呼ばれるようになった三四郎は、ある夜、街で大乱闘を起こしてしまいます。ぼろぼろになった服で修道館に帰ってきた三四郎は、師匠の矢野の前に出ることになります。(サイレント時代出身だけあって、矢野を演じる大河内伝次郎の声が、聞きづらいことこの上ないのですが、大スターなので見逃してください)

    矢野「姿。お前は強い。技ではわしを超えたかもしれん。だが、お前の柔道とわしの柔道との間には天地の開きがある。お前の道は獣の道だが、わしの道は人の道なのだ!」
    三四郎「先生。違います。わたしは人間です!」
    矢野「違わん!」
    三四郎「違います! わたしは、死んでみせます!」

    三四郎は庭の池に飛び込みます。棒杭につかまり、師匠を見る三四郎でしたが、矢野は障子をぴしゃりと閉めてしまうのでした。しばらくして、修道館にいる和尚が、障子を開けて三四郎に語りかけます。

    和尚「これ、慢心。池の水は冷たいか。冷たいだろうな。だが、その棒杭はなんだ。棒杭を放したらお前は池の底だ。その棒杭はなんなのか、よく考えろ」

    意地を張ってひたすら棒杭につかまり池に入っていた三四郎ですが、ふと、その目が、池に咲いていた蓮の花に止まります。そのあるがままの美しさに目を開かれた三四郎は、不意になにかを悟りました。池から上がった三四郎は、友や師匠に土下座して詫びます。三四郎は真人間になったのでした。

    さてそのころ。酒好きだが名望ある柔術家の村井半助(志村喬。あの「七人の侍」のリーダーの人です)の家では、檜垣源之助(月形龍之介。ニヒルな役をやると似合うんだよなあ)という柔術家が、村井の娘お小夜に邪恋を抱いていました……というシーンが検閲でまるまるカットされているらしく、字幕で説明されるだけなのは悲しい。

    檜垣源之助(キザな洋装が実に不気味である)は修道館を訪れます。修道館では、師からまだ完全には許されず、稽古止めの身になっていた三四郎が、道着の洗濯などをしていました(洗濯板や洗濯機の存在に慣れてしまっているわれわれ現代人が、なんで三四郎が水の中で道着を踏んでいるのかわからなくなりつつある、というのは悲しい)。

    檜垣「矢野先生はおられるかな」
    三四郎「先生はお留守です」
    檜垣「では道場を見せてもらいたい」

    檜垣を道場に案内する三四郎。

    檜垣「姿三四郎という人と、一手お相手願えるかな」
    三四郎「わたしが……」
    矢野の高弟「ならん! このものは稽古止めの身だ!」

    バカにしたように悠然と去っていく檜垣と、見送る三四郎。しかしふたりは互いに対決する宿命を予感するのでした。

    さて。警視庁が武術大会を開くことになりました。勝ちぬいた流派が、警視庁の正式な武術指南になれるのです。柔術からは、三四郎が最初に門をたたいた神明活殺流の道場主である門馬三郎が出ることになっていました。

    矢野「それに対し、我が修道館は……」

    固唾を呑む一同。矢野はほほ笑みます。

    矢野「姿。お前は、今日から再び稽古を始めていいぞ」

    師匠に許されてほっとする三四郎と、喜ぶみんな。

    さて試合当日。門馬三郎と対決することになった姿三四郎は、圧倒的な強さで門馬を破ります(ここのアクションシーンがカッコいい。ストップモーションを使った演出が冴えてるんだよなあ)。だが勝ったそのとき、観客席から悲鳴が。門馬の娘でした。はっとする三四郎。

    しかし、まだ武術大会は終わったわけではありません。柔術代表と柔道が、最終的な対決をするときが来たのです。柔術代表は村井半助。柔道は姿三四郎。

    檜垣は村井の娘、お小夜にネチネチと迫ります。

    檜垣「村井さんでは、姿に勝てないでしょう」
    お小夜「父は勝ちます! 大好きなお酒もやめたのですから!」
    檜垣「わたしに任せてくれれば、姿も倒せるのですがねえ」
    お小夜「父は勝ちます!」

    お小夜は父の勝利を祈り、神社にお百度参りを始めました。そこに三四郎と矢野が通りかかります。

    矢野「見たまえ、あの娘が一心に祈るすがたを。美しいとは思わんかね?」

    三四郎は呆然と見とれてしまいます。一目ぼれというやつです。それから毎日、三四郎は神社に通うようになりました。ある雨の日、お小夜の下駄の鼻緒が切れたところを三四郎が直したときから、ふたりは親しく言葉を交わすようになります。

    しばらくして。

    三四郎「あなたはなにをそんなに祈っているのですか?」
    お小夜「父が今度の試合に勝つことです」
    三四郎「……相手の名前は知っているのですか?」
    お小夜「知っています。姿三四郎という人です」

    愕然とする三四郎。

    三四郎「ぼくがその姿三四郎です!」

    愕然とするお小夜。

    そこでお小夜から逃げるようにふらふらと歩いていった三四郎は(ここで子供がざれ歌を歌っているのがさらに三四郎を責めるのであります。「よーるな、さわるな、三四郎、さわるとこわいぞ三四郎♪」)、いつしかあの神明活殺流の道場のあったところまでたどりつきます。しかし、神明活殺流の道場の看板は外され、建物には「売り家」と書かれた張り紙が貼ってあったのでした。自分が勝負に勝ったことがなにをもたらしたのか悟ってショックを受ける三四郎。

    修道館に帰ってみると、娘が姿三四郎に面会を求めていました。姿と同じ修道館四天王の壇義麿が異変を感じて娘を取り押さえると、なんと隠し持っていた短刀がぽろりと……その娘こそ、三四郎が勝ったことにより窮迫してしまった門馬三郎の娘だったのです。

    娘から、父を事実上社会的に抹殺されたことを怨む言葉を聞かされた三四郎は、しどろもどろの対応しかできません。純朴な三四郎は深く傷つくのでした……というシーンがまるまるカット……信じられないようですが、時代なんですよねえ。

    そんなこんなで試合当日。遅れてやってきた三四郎は、村井半助と対決します。村井の投げを、ことごとく身軽に受けた三四郎は、一転、猛烈な攻撃に出て、村井半助を投げに投げ飛ばします。

    村井半助「ま……参った」

    勝ちはしたものの虚しい思いの三四郎でしたが、しばらくして、村井父娘の住んでいる長屋を訪れます。そこで、きみをまったく怨んでいない、あれが自分の最高の戦いだった、と語る病床の村井半助と、同じく自分を怨んでいる様子のないお小夜とを見て、ほっと安堵するのを覚えます。三人は楽しく粗末な夕餉の膳を囲むのですが、そこに突然、檜垣源之助が訪れます。一気に気まずくなる四人。(たぶんそこからなにかやりとりがあったのだろうけれど、カットされているんじゃないかと推測していますが……)

    やがて檜垣源之助から果たし状が届きます。柔術家として、柔道家として、さらにはひとりの女をめぐる愛を賭けて、寒風吹きすさぶ右京ヶ原にやってきた源之助と三四郎。宿命の対決が始まります!

    DVDを図書館に返してしまったのでうろ覚えですが(エピソードやセリフの細部が違ったり、エピソードが前後していたり、エピソードを誤解していたらお許しを)、だいたいこんな話です。わたしには寝落ちするヒマもないくらい面白い映画なのですが(^^;)

    「續 姿三四郎」のほうは、「すぱあら」(ボクシング)のチャンピオンである外国人や、檜垣源之助の弟ふたりとの死闘が描かれるのですが、そっちのほうは新潮文庫の富田常雄「姿三四郎(中)」を読んでください……。

    コメント欄に書こうと思ったけど長くなったので記事のほうにしました。


    追記:家に帰って家族に「姿三四郎」どこにあるんだっけ? と聞いたら捨てたの由。なんだ、しかたねえなあ、本屋で買うか、いやアマゾンだな、とアクセスしてみたら、なんということか、あの名作中の名作が、入手困難だというのだ。いちばん面白い上巻は、プレミア2400円なのだ。どう考えても間違ってるだろ!

    これから青空文庫を探してみるが、絶版にしちゃだめでしょ、新潮社……。

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    ~ Comment ~

    Re: かえるママ21さん

    わたしの文章が面白いんじゃなくて、富田常雄先生のストーリーテリングが面白いんですよ(^_^;)

    だけどもみんな、「黒澤明監督作品」というだけで、「人生についての難しい映画」と思ってしまうらしくて。

    この映画は若手新人監督の第一回監督作品です。娯楽活劇映画以外、撮らせてくれるわけがないじゃないですか。(笑)

    それに作られた時代も戦時下まっただ中です。

    明るい娯楽活劇映画以外、観客にウケるわけがないじゃないですか(^_^)

    面白いからカンフー映画でも見るつもりでゆったりと見てくださいね~(^_^)

    Re: 宵乃さん

    今のスポ根ものに慣れたら、たしかにそう思えるかもしれませんね。

    原作自体が、「姿三四郎は強いとはいえいまだ修行中の身」というスタンスですから、そこまで至るのにどれだけ苦労の修行を積み重ねたのか、を下駄の映像だけで納得させるのは難しいかもしれません。

    「續」のほうでは、姿三四郎に憧れて修道館に入門した、左門寺進という少年が、修行して級位を上げていく様子がイメージとして描かれていくのですが、下駄のシーンにもそういう配慮が必要だったのかもしれませんね。(黒澤監督は、そうするとくどくなるのでは、と思ったのかもしれませんが)

    難しいものです。

    NoTitle

    ポールさんの記事で十分面白かったです。
    (^O^)
    しっかり予習した方がいいですよね。
    音声が悪かったり、画像が悪いと、途中で内容がわからなくなってしまいそうですものね。
    ポールさんの記事で、映画も面白さが2割増しくらいになりそうです。

    NoTitle

    >月日は流れて(ここを、三四郎が脱ぎ捨てた下駄が雨に打たれたり~することで表現

    ココは上手かったですよね~。まだ意識はあったので(笑)感心したシーンです。

    >三四郎「先生。違います。わたしは人間です!」
    >矢野「違わん!」
    >三四郎「違います! わたしは、死んでみせます!」

    ………台詞がわかっても意味不明だった!!(笑)

    >圧倒的な強さで門馬を破ります

    柔道で壁が壊れるのか~と若干引いたシーンでした。三四郎が怖いです。まさに子供たちの歌の通りですね。

    >矢野「見たまえ、あの娘が一心に祈るすがたを。美しいとは思わんかね?」

    良いものをみたと、離れたところから参拝するシーンが素敵でした。

    >自分が勝負に勝ったことがなにをもたらしたのか悟ってショックを受ける三四郎。

    ココらへんはもううつらうつらしてたんですが、そういう意味だったんですね。あと、短剣を落とした娘さんとヒロインを混同してました!!
    この後は寝落ちしてしまって、気付けば終わってたので、あらすじを読めてスッキリです。
    わたしがこの作品に入り込めなかったのは、たぶん三四郎が最初っから強すぎるからかなぁ?
    今で言うチートキャラで、スポ根モノが好きなわたしには合わなかったんだと思います。
    とは言え、藤田さんの演技は楽しめました。
    面白い企画のリクエストして下さった上に、こんなに詳しいあらすじまで書いて下さって、本当にありがとうございました♪

    Re: レバニラさん

    いや、ある意味、娯楽小説の教科書みたいなもので、

    ヒーロー「姿三四郎」
    ヒロイン「乙美(映画ではお小夜)」
    師匠「矢野正五郎」
    アドバイザー「和尚」
    格下のライバル「門馬三郎」
    善人のライバル「村井半助」
    宿命のライバル「檜垣源之助」
    友人「修道館の門人たち」

    と、基本的な人物造形例が全部揃っているうえ、彼らとどう対決したら盛り上がるのか、ひとつひとつ実例を見せてくれる。しかも、「必殺技」はあるわ(姿三四郎の「山嵐」)、「地獄の猛特訓」はあるわ(映画ではそのシーンがまるまるカット……(泣))、「メガネくん」みたいな子分キャラは出るわ(映画では「續 姿三四郎」に登場)、原作では、「強くしすぎてしまったライバル」をどう処理すればいいのかまで、きちんと実例を示してくれるのであります。

    まあそれは半分ジョークとしても、べらぼうに面白い小説ですから、5年後、版権が切れたら絶対青空文庫入りすると思うので、そのときは騙されたと思ってよんでみてください。

    もちろん映画も面白いですよ。(^_^)

    NoTitle

    どうも、こんばんはです。

    いや、この解説だけでも凄い面白そうじゃないですか、
    講道館を題材にした物語といえば夢枕獏先生の書かれた「東天の獅子」なんかもありましたが、
    あちらは歴史小説的な作りになっていましたが、こちらは青春活劇調になっているんですね。

     自分も、改めて「姿三四郎」を見たいと思いましたが、
    でも姿三四郎といえば過去何度も映画やドラマが作られたのに、ソフト化された物は黒澤明版しか見当たらないのが何とも・・・
    (竹脇無我主演のTBS版が中国でDVD化されてるらしいですが・・・)
    その上、文庫版まで絶版になっているとは驚きでした。

    ハイビジョンマスター技術で映像と音声が明瞭になっているblu-ray版は今までソフト化された中で一番短いバージョンしか収録されていないとの事ですし、
    何とも、歯がゆい思いがしますね。
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