「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢鬼人

    夢鬼人 アキラ 9-4

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     ぼくの乗っている馬の動きが急に鈍くなった。はっと気がつくと、ぼくはずぶずぶと泥中に沈んでいるところだった。

     泥田だ!

     いつの間にかぼくは腰まで漬かっていた。鎧の重みで脱出することができない。

     そして矢を受けて重傷を負った木曽義仲は首を取られるのだ。

     ぼくはパニックに陥った。いつの間にか、ぼくの立場は巴御前の敵である武将から、巴御前の夫であり主君である源義仲に代わっていたが、その不自然さに気づくこともなかった。

     いつの間にか泥田は紫と茶色が入り混じった、ねばねばするものに姿を変えていた。

     それがなんであるか、ぼくは祖父から教えられていた。

     ……『夢膿』!

     どこを攻撃すれば脱出できるのかわからなかった。すでに巴御前も姿を消している。たったひとり、重い鎧を着たまま、夢膿でできた底なし沼にはまり込んでいくだけだ。

     ぼくは『影縫』が変化した太刀を振るったが、いかに霊験あらたかな先祖伝来の刀でも、浄化するそばから泥流のように押し寄せてくる夢膿の量の前にはどうすることもできなかった。

     汚らわしい粘液が、ぼくの着ている鎧を通し、じわじわと身体にしみこんでくる。その感触のおぞましさに、ぼくのパニックはさらに加速された。

     今にして思えば、ぼくは『影縫』の持つ力の焦点を、どこに合わせればいいかわからなかったのだ。

     もう夢膿はぼくの胸まで達し、ずるりずるりと首まで這い上がってこようとしているところだった。

     『影縫』を太刀の形にして保っておけるだけの精神力すら、夢膿により奪い去られようとしていた。

     ぼくの目の前に、おぼろげにだが顔が浮かんだ。

    『ノゾミちゃ……』

     たすけて、といおうとしたとき。

     ぼくは教室で高木さんに張り飛ばされている自分に気づいた。

     周囲の皆が、おびえた様子でぼくを見ていた。ぼくは机を見た。手に握った小柄、『影縫』が、机の天板に突き立っていた。突き立ったところから放射状に広がるひび割れが、これが夢ではないことを告げていた。

    「師匠……ぼく……」

    「お前はしばらく学校を休んで静養しろ。……皆さん、授業中にお騒がせして申し訳ありませんでした。この娘は少し疲れているようです。このおもちゃは取り上げますので、今後このようなこともないでしょう」

     机から『影縫』を引き抜いた高木さんは、ぼくを教室から引きずり出していった。

     痛いのは張り飛ばされたからじゃない。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    お互い、田んぼと縁の深いところで育ったようで、その気持ちよくわかります(^_^;)

    昔の少年マンガでは、田んぼよりも「ドブ川」に落とすのがスタンダードでしたなあ。(笑)

    昔は遠くなりにけり(^_^)

    Re: LandMさん

    「平家物語」の「義仲最期」の部分なんか読んでいると迫真の臨場感でどきどきしますね(^_^)

    騎馬の大将が泥にはまって動けなくなったところを射られて首をとられた例で有名なのは、この源義仲と、九州の戦国大名だった龍造寺隆信でしょうねえ……。

    NoTitle

    高木さんに助けられましたね。危ないところだった……。
    子供の頃、近所の田んぼに落ちた帽子をとろうとして足を踏み入れましたが、あれはヤバい。
    帽子は取り返しましたが、代わりに靴を取られました。
    泣いて裸足で家に帰った。

    NoTitle

    あまり関係ないような気もしますが。
    泥にはまったことはないんですよね。
    TVとかでは深みにはまると抜けなくなっていますけど。。。
    それが鎧だともはや収集がつかないですね。
    それが昔の戦場ではたくさんあったのでしょうが。
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