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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    3 吸血鬼を吊るせ(完結)

    吸血鬼を吊るせ 1-3-2

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    3(承前)

    「わたしが夢に入っても、傍から見ると何も変わったところはないでしょうね。もし、敵が弱い夢魔なら、わたし一人でもなんとかなるでしょう。強い夢魔だったら一度退却して、それから作戦を練る。器質性の脳の病気、あるいは精神病だったらわたしには手も足も出せない。大病院にかつぎこんで、専門的な治療をなさることです。確認ですが、流子さんは医学的な検査は受けられたんですよね?」
    「もちろんです。医者は何も説明することができませんでした。コンピュータ処理した脳の断面図をいくつもいくつも見せられて、流子はレム睡眠状態にあるというばかりです。寝ていることくらい見たらわかります。こちらが知りたいのは目覚めさせる方法だというのに。あちこちの病院をたらいまわしされるうちに堪忍袋の緒が切れて、流子の住み慣れたこの家で寝かせることにしたんです。まったく医者というものは……」
    「お爺様、桐野さんもお医者さんです」
     遥喜一郎ははっとして口をつぐんだ。
    「失礼しましたな」
    「いえ、わたしは医者といっても怪しげな各種療法のほうで生計を立てている身ですよ。せっかく取った医師免許も、今では押入れでホコリをかぶっています」
    「流子のためになるのなら肩書きなんて気にはしません。すぐに入っていただけるのですか?」
    「その前に、お願いしますよ」
    「え?」
    「昔話をね」
    「ああ」
     そうでしたな、と遥喜一郎はつぶやいた。
    「平安の昔……この島に、『ストリゴイ』という鬼が出ました。その鬼は血を好み、夜な夜な村々を襲っては村人の生き血を吸うのです。そして恐ろしいことに、血を三回吸われた者もまた鬼となって生き血を吸うことになるのでした。村人は困り果てて、神社に相談に来ました。そのころこの島には羽谷姫様という清らかな巫女様がいらっしゃいました」
    「はやひめ?」
    「羽に谷と書くんです」
    「ああ、羽谷姫となるわけですか」
    「羽谷姫様は村人の頼みを聞き届け、鬼たちと神通力で戦いました。雑魚は蹴散らしたものの、最後に残った鬼の親玉が手ごわく、三日三晩続いた戦いの末、二人とも息も絶え絶えになってしまいました。それを震えながら物陰から見ていた荷物持ちの村人が、勇気を奮い起こして、結界を作るのに持ってきた白木の杭の余りを手に、鬼の親玉に向かって駆け寄り、心の臓に杭を打ち込んで殺すことに成功しました。やがて息を吹き返した羽谷姫様は、力を使い果たしたことを悟ったのか、人に指図をして深い穴を掘らせ、そこで人柱になって生涯を終えられました。それ以来この島に鬼は出なくなったそうです」
     かなり時代背景に無理があるが、話が本当ならば千年近く経過しているのだ。いくらかの混乱は避けられないだろう。
     とりあえず聞いておくことがある。
    「その村人の子孫が?」
     遥喜一郎は首を横に振った。
    「いえ、うちではありません」
    「では、どなたです?」
    「わかりません。たぶんその村人の家は絶えてしまったでしょうな。何しろ古い話ですから。桐野さん、まさか流子はその妖怪にと?」
    「考えすぎかもしれませんがね。羽谷姫様とやらが掘り出されるのと流子さんが倒れられたのとが時間的に近接しているのがどうも気にかかる」
    「確かに、姫巫女様のミイラが掘り出されたのは去年の春でした。しかし、どうして何の関係もない流子がこんな目に」
    「まだ決まったわけではありません。もしかしたらこの伝説とは一切関わりがないのかもしれない。関係があるのはこの家を襲った火事かもしれない。あるいはその他にわたしたちがまったく知らない要因αによるものかもしれない。なんともいえません。しかし、あらかじめ知っておくのと、知らないで潜るのとでは同じ夢でも得られるイメージの量と質に差が出てくる。この作業は精神分析に似ているところもあって、ある種の共同作業みたいなものですからね」
    「なるほど」
    「他に思い当たる節はないですか? この家の火事とか」
    「おととしの夏ですから、関係はないと思うんですがね。原因ははっきりしています。電気系統のショートによる発火です。消防の調査でわかりました」
    「確かなんですか」
    「消防を信じれば。何せ老朽化が激しかったですからな、うちは」
     そういわれればそうかもしれない。
    「ご係累にご不幸とかは」
    「最近では四年前にわたしのいとこが死んだくらいです」
     本当に、何もなさそうだ。わたしは腹を決めた。
    「いいでしょう」
    「桐野さん、入ってくださるのですね!」
     遥美奈が嬉しそうに叫んだ。
    「確かに入りますが、必要以上に期待されても困ります。わたしの仕事で問題なのは、言葉のイメージに比べて、かたわらで見ているほうは面白くもなんともないということです。テレビカメラを背負って潜るわけにも行きませんから。何を見たかについても、わたしの言葉を信じてもらわなければなりません」
     一番いいたくない言葉をいわざるを得ない。
    「……たとえ、それがあなたがたを傷つける結果になったとしてもです」
     わたしはネクタイを緩めた。
     遥美奈が、不思議そうに尋ねた。
    「あの、桐野さん、お荷物は?」
    「いりません」
    「だって、夢の中に入るのに、機械とかは必要じゃないんですか?」
    「機械なんかは使いません。あの荷物は、ただの旅行用具です。機械を使ってハッタリをかませたら、わたしも楽なのですが、残念なことに役者になれない」
     手を伸ばして遥流子の額に触れる。
    「必要なのは精神集中です。そう、こんな風に」
     頭の中に青い六角形をイメージした。その六角形を右に六十度回転させ、色を紫に変える。また六十度回転。今度は赤。回転……オレンジ……黄色……緑……また青……。
     色を変えながら六角形が回転していく。回転のスピードが上がる。明るさがどんどん増していく。もはや六角形は六角形ではなくなっている。円だ。色も混ざり合って白い輝きと化している。まぶしく輝く光の円。太陽……。
     身体が光の中に飲み込まれて……。
     わたしは遥流子の夢の中へ入った。
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    ~ Comment ~

    >ネミエルさん

    成功するにはサイコロ振って精神力以下を出さないと無理ですな(笑)。

    こういう入り方ですか。
    なるほど・・・

    よし、僕もやってみますよ~v
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