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    「ショートショート」
    ホラー

    神話

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     八歳になる娘が、海に行きたいといいだした。どうやら、なにかリゾートもののテレビ番組に影響されたらしい。

     わたしの家は関東でも内陸のほうにある。海まで出るのは、高速を使ってもひと苦労だ。

    「よし、それじゃ、来年の夏休みは海に行こうか」

     娘は頑固だった。

    「行くの! 行くの! 今すぐにでも行くの!」

     愛娘にこういわれたら、わたしの負けだ。今度の日曜日、家族揃って、海辺へ長距離ドライブに行くことにした。

     わたしも妻も、海自体は嫌いではない。プロポーズしたデートのときも、新婚旅行先も、海辺だった。

    「DNAを受け継いでいるのね」

     妻は笑いながらも、弁当の準備に余念がなかった。

     当日が来た。わたしたちは年代物のゴルフに乗り込むと、海を目指して出発した。夏は海水浴場もやっている、小さな保養所を知っているのだ。車の中は笑い声で満ちていた。しゃべるのはもっぱら、わたしと妻だった。

     朝の六時に家を出て、目的地についたのは十時すぎだった。海産物が売り物のレストラン兼ホテルの駐車場に車を停めた。シーズンオフということもあり、車はわたしのものしかなかった。

     娘は浜辺に行くことにこだわった。冬とはいえ、水遊びくらいやってもいいだろう。わたしと妻は、娘の手をしっかり握り、無人の砂浜へ降りて行った。

     冬の海は、冬なりに素晴らしい見ものだった。激しい波、茶色の水、灰色の空……これはこれでひとつの美だろう。

     娘は、海に向かって歩き出した。わたしたちを振り向きもしなかった。

     気がついたときには、小さな足跡だけを残して、娘は消え失せていた。どうなったのかはわたしもわからない。

     いつの間にか、気づかないうちに、わたしも妻も、砂地に膝をつき、頭を下げ、祈りを捧げるかのように深々と平伏していたからである……。
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    ~ Comment ~

    Re: 野津征亨さん

    人間はひと皮むけば「動物」ですからねえ……。

    「神」っていうのは人間にとってそういうレベルで理解不能な存在じゃないかな。ここにこう形をもって存在していても理解不能、という。

    まあ人間やそこらの動植物だってそうですけどね(^^;)

    先日は拙宅に温かいコメントをありがとうございました。
    お陰さまで何とか乗り切りました(苦笑)

    これは……ホラーと言うには神々しい余韻さえ残る、不思議なお話ですね。
    人間の根底にある原始的な畏怖というか崇拝というか、そういったものを感じました(支離滅裂ですみません・汗)
    娘は、海に「還った」のでしょうか。

    Re: LandMさん

    ですから元ネタはラヴクラフトの「インスマスの影」に代表されるクトゥルー神話です。

    和風どころかばりばり洋風。

    とはいっても、なんか「遠野物語」にも似たような話があるそうですから、ある意味「怪談の源流」に当たる話なのかもしれません。

    NoTitle

    ある意味神話なんでしょうかね。
    現代風な。
    ある意味、神隠しという名の神話になるような。
    和風な神話ですね。

    Re: マウントエレファントさん

    ある意味、この少女自体が、『神』なのかもしれません。そういう含みまで持たせたつもりではいます。

    少なくとも、海に消えたときには、その思考があたりまえの人間とは完全に断絶していたでしょうね。

    まあ怪談なんてのは合理に落ちないほうが面白いらしいので……。

    Re: カテンベさん

    専門的な固有名詞や、「邪神」とか「宇宙的恐怖」といった単語を一切使わずに「クトゥルー神話」が書きたかったのです。

    ……無茶だった(笑)

    NoTitle

    水難にあったというより、神に導かれて消えたという印象が残りました。
    不思議な余韻の残る佳作だと思います。

    これは続きものですか?
    神話ってタイトルやから、なんかの神話オマージュなんでしょうけど、それがピンとこなかったの(>_<)
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