「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 アキラ 11-4
読み終えたぼくは手を洗いたくなった。相手が誰であれ、そうとう精神を病んでいるやつらしい。
だがその前にここを出る準備だ。礼を尽くしてと高木さんはいっていたが、あのメールを読む限りだと、いつ誰がぼくを襲ってきてもおかしくない。
必要最低限の荷物しか持ってこなかったので、着る服も体育で使うジャージくらいしかなかった。誰かに狙われている身では、まさか明るい色の服で夜道を歩くというわけにもいかないだろう。うまいぐあいにうちの女子高のジャージは深緑色だった。これならば闇の中に溶け込むこともできる。しかも長袖だから、虫に対するいささかの防御にはなるはずだ。針やとげがささっていないか綿密に観察したうえで、校則違反になることは知っていたが、ジャージから反射材をすべてむしり取った。こちらは停学の身である。平穏な学生生活というものは永遠に諦めなければならない、と覚悟したからには、徹底を期さなければ嘘だろう。
ジャージを急いで身につけた。身体のラインの崩れなど、自分の生命の前にはなにほどのこともない。
ほかのなには捨てても、とにかく、これだけは……。と、テーブルに手を伸ばしかけ、『影縫』は高木さんが持っていることに気がついた。
「用意できたか」
着替えた高木さんが戻ってきた。
「『影縫』を返してください!」
「だめだ。あれはこれから使う」
高木さんはそういうと、くるりとぼくに背を向けた。
「行くぞ。ついてこい」
ぼくは再び疑心暗鬼に取り憑かれた。いったい、高木さんは……。
玄関で、ぼくと並んで立った高木さんは、朗々とした声でいった。
「我ら師弟ふたり、故あって時形流と袂を分かつ。我らを殺さんと思うものあらば来るなら来たれ。来ぬなら土産をくれてやる。見るものあらば今ここで見よ!」
高木さんはふところから『影縫』を取り出すと、玄関の上がりがまちにそのまま突き立てた。『影縫』は木の床に深々と刺さり、柄のところでぽっきりと折れた。
「なにを……」
「やることはやった。行くぞ」
茫然として立ち尽くすぼくに、高木さんは『影縫』の柄だけを手渡し、戸を開けた。
「どうして……」
「『夢鬼』と『夢逐人』の和解のための非常手段だ。やがてわかるようになる」
議論するだけ無駄らしい。ぼくは意思を持たぬロボットのような足取りで屋敷を出て、そのまま黙って高木さんの車の助手席に座った。車はぼくの家をめざし走り出した。
だがその前にここを出る準備だ。礼を尽くしてと高木さんはいっていたが、あのメールを読む限りだと、いつ誰がぼくを襲ってきてもおかしくない。
必要最低限の荷物しか持ってこなかったので、着る服も体育で使うジャージくらいしかなかった。誰かに狙われている身では、まさか明るい色の服で夜道を歩くというわけにもいかないだろう。うまいぐあいにうちの女子高のジャージは深緑色だった。これならば闇の中に溶け込むこともできる。しかも長袖だから、虫に対するいささかの防御にはなるはずだ。針やとげがささっていないか綿密に観察したうえで、校則違反になることは知っていたが、ジャージから反射材をすべてむしり取った。こちらは停学の身である。平穏な学生生活というものは永遠に諦めなければならない、と覚悟したからには、徹底を期さなければ嘘だろう。
ジャージを急いで身につけた。身体のラインの崩れなど、自分の生命の前にはなにほどのこともない。
ほかのなには捨てても、とにかく、これだけは……。と、テーブルに手を伸ばしかけ、『影縫』は高木さんが持っていることに気がついた。
「用意できたか」
着替えた高木さんが戻ってきた。
「『影縫』を返してください!」
「だめだ。あれはこれから使う」
高木さんはそういうと、くるりとぼくに背を向けた。
「行くぞ。ついてこい」
ぼくは再び疑心暗鬼に取り憑かれた。いったい、高木さんは……。
玄関で、ぼくと並んで立った高木さんは、朗々とした声でいった。
「我ら師弟ふたり、故あって時形流と袂を分かつ。我らを殺さんと思うものあらば来るなら来たれ。来ぬなら土産をくれてやる。見るものあらば今ここで見よ!」
高木さんはふところから『影縫』を取り出すと、玄関の上がりがまちにそのまま突き立てた。『影縫』は木の床に深々と刺さり、柄のところでぽっきりと折れた。
「なにを……」
「やることはやった。行くぞ」
茫然として立ち尽くすぼくに、高木さんは『影縫』の柄だけを手渡し、戸を開けた。
「どうして……」
「『夢鬼』と『夢逐人』の和解のための非常手段だ。やがてわかるようになる」
議論するだけ無駄らしい。ぼくは意思を持たぬロボットのような足取りで屋敷を出て、そのまま黙って高木さんの車の助手席に座った。車はぼくの家をめざし走り出した。
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~ Comment ~
NoTitle
機械的に動くことも必要だと思います。
それはそれなのでね。
・・・和解ができるのですかね。
それはこれからですね。
それはそれなのでね。
・・・和解ができるのですかね。
それはこれからですね。
- #14792 LandM
- URL
- 2014.12/14 08:04
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Re: LandMさん
すべての決着がつくには、第三巻「夢酔人」を待たなければなりません、って……ほんとに書けるのかわたし。