「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 ノゾミ 12-4
才蔵おじいさんはぼくを見た。
「……わかるな」
「わかります」
ぼくは答えた。そうだ。毒使いの口から、解毒の方法を聞きださなくては、武博おじさんの生命が危ない。そんな当たり前のことにも気がつかないなんて、ぼくというやつは。
「武博の手の甲にはわずかな傷があった。おそらくそこから毒を入れられたんじゃな。つまり、相手は殺気を消したまま、武博の間合いに踏み込めて気取られないで仕事を済ませられたということじゃよ。これは同時に次のことも意味する。相手にとっていちばん確実に暗殺を実行できる手段は、相手に接近しての奇襲攻撃だということじゃ。そのためには、少年、お前にもきちんと役割を果たしてもらわねばならん。学校は休め」
「ぼくはなにをすればいいんですか」
才蔵おじいさんは一言で答えた。
「おとり」
なるほど、この中では冴子おばさんとぼくとがいちばん隙だらけだから、ふらふらしていれば相手も狙ってくるということか。
「わかりました。がんばって目立つように動いてみせます」
迫水さんたちの生命には換えられない。考えるだけでも怖いが、やるしかない。
「冴子さんも、もう寝たほうがいい」
そのときだった。冴子おばさんの身体が、ぐらりと傾いて、そのままずるずると崩れるように倒れた。
「しまった……」
ぼくたちは皆、立ち上がった。
「わたしがここに来てから、人間の気配は感じていません」
「わしもじゃ。ということは、相手がわしらの能力を超えているか……もっとありそうなことは、遅効性の毒を盛られたかじゃな。武博がああなって、沈み込んでいるのも当然じゃと思っていたわしが馬鹿じゃった」
「……生きてますよね?」
ぼくはおろおろとしかできなかった。
「脈拍も心音もある。じゃが、筋肉がやられとるな。筋弛緩剤の系統のなにかじゃろう。これがこのまま進行すると、心筋まで止まってしまう恐れがある」
ふすまが急に開いた。涙で汚れていたが、怖いくらいに無表情な顔になった迫水さんが立っていた。
「ぼくがやる……ノゾミちゃんの代わりに、ぼくがおとりになる!」
おじいさんがなにかいおうとした。
携帯が鳴った。迫水さんの携帯の音だ。迫水さんは無言でテーブルから携帯を取った。
「メールが来てる。るりぷーからだ」
迫水さんはゆっくりと読んだ。
「『はーい! 十時間って、うそでしたー。明日の十二時、マクドに来てね! 待ってるよー』……だってさ。たぶん罠だけど」
ぼくたちはなにもいえなかった。
「……わかるな」
「わかります」
ぼくは答えた。そうだ。毒使いの口から、解毒の方法を聞きださなくては、武博おじさんの生命が危ない。そんな当たり前のことにも気がつかないなんて、ぼくというやつは。
「武博の手の甲にはわずかな傷があった。おそらくそこから毒を入れられたんじゃな。つまり、相手は殺気を消したまま、武博の間合いに踏み込めて気取られないで仕事を済ませられたということじゃよ。これは同時に次のことも意味する。相手にとっていちばん確実に暗殺を実行できる手段は、相手に接近しての奇襲攻撃だということじゃ。そのためには、少年、お前にもきちんと役割を果たしてもらわねばならん。学校は休め」
「ぼくはなにをすればいいんですか」
才蔵おじいさんは一言で答えた。
「おとり」
なるほど、この中では冴子おばさんとぼくとがいちばん隙だらけだから、ふらふらしていれば相手も狙ってくるということか。
「わかりました。がんばって目立つように動いてみせます」
迫水さんたちの生命には換えられない。考えるだけでも怖いが、やるしかない。
「冴子さんも、もう寝たほうがいい」
そのときだった。冴子おばさんの身体が、ぐらりと傾いて、そのままずるずると崩れるように倒れた。
「しまった……」
ぼくたちは皆、立ち上がった。
「わたしがここに来てから、人間の気配は感じていません」
「わしもじゃ。ということは、相手がわしらの能力を超えているか……もっとありそうなことは、遅効性の毒を盛られたかじゃな。武博がああなって、沈み込んでいるのも当然じゃと思っていたわしが馬鹿じゃった」
「……生きてますよね?」
ぼくはおろおろとしかできなかった。
「脈拍も心音もある。じゃが、筋肉がやられとるな。筋弛緩剤の系統のなにかじゃろう。これがこのまま進行すると、心筋まで止まってしまう恐れがある」
ふすまが急に開いた。涙で汚れていたが、怖いくらいに無表情な顔になった迫水さんが立っていた。
「ぼくがやる……ノゾミちゃんの代わりに、ぼくがおとりになる!」
おじいさんがなにかいおうとした。
携帯が鳴った。迫水さんの携帯の音だ。迫水さんは無言でテーブルから携帯を取った。
「メールが来てる。るりぷーからだ」
迫水さんはゆっくりと読んだ。
「『はーい! 十時間って、うそでしたー。明日の十二時、マクドに来てね! 待ってるよー』……だってさ。たぶん罠だけど」
ぼくたちはなにもいえなかった。
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~ Comment ~
Re: 椿さん
晶はあれで思いつめるところがありますからねえ……。
押さえているけど、家族を傷つけられたことで怒りが爆発してます。
はたしてどうなるか。乞御期待(^^)
押さえているけど、家族を傷つけられたことで怒りが爆発してます。
はたしてどうなるか。乞御期待(^^)
NoTitle
「マック」ではなく「マクド」と略すあたり、るりぷーさんは関西人に違いない。ちなみに「マ ク ド」のイントネーションは「→↑↓」です。
NoTitle
お父さんに続き、お母さんまで。
どんどん家族が倒れていく……。
晶ちゃん、思いつめないといいけれど。
沙矢香ちゃんの時も、追い詰められて突っ走っちゃったりしてたし。
今は、望くんも傍にいるよ!
望くん、まだまだ弱いとのお話でしたが。
おとりをノータイムで引き受けるのは、
すごく勇気があると思います!
一番危ない役目ですから。
望くん、カッコいいと思いますよ!
どんどん家族が倒れていく……。
晶ちゃん、思いつめないといいけれど。
沙矢香ちゃんの時も、追い詰められて突っ走っちゃったりしてたし。
今は、望くんも傍にいるよ!
望くん、まだまだ弱いとのお話でしたが。
おとりをノータイムで引き受けるのは、
すごく勇気があると思います!
一番危ない役目ですから。
望くん、カッコいいと思いますよ!
- #14818 椿
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- 2014.12/18 17:25
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Re: 矢端想さん
そこらへんは考えて書いてます(^^)