「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
3 吸血鬼を吊るせ(完結)
吸血鬼を吊るせ 1-5-1
5
「……のさん、桐野さん!」
身体が揺さぶられる。何があったんだ……? わたしは……。
頭を振って、しゃんとさせた。そうだ、わたしは桐野。ナイトメア・ハンターだ。
「美奈さん?」
遥美奈はおろおろとして見えた。窓に目をやると、辺りはすでに暗くなっている。そうとうな時間がかかったらしい。
「桐野さん……よかった。姉の額に手をお当てになったと思ったとたん、倒れ込まれて……姉の夢に入っておられたんですか?」
「ええ。どれくらい時間が経ちました?」
「ええと、さっき時計が六時を打つのが聞こえましたから、三時間とちょっとです」
「三時間か。そんなにかかっていたとは思わなかった」
額を拭う。それを見た遥美奈がはっとしたように叫んだ。
「桐野さん、すごい汗!」
「ひどい目に遭いましたからね。夢魔らしきものを見つけましたが、どうすることもできませんでした。わたしの力不足です」
「すると、姉は?」
「ただの精神の病ではなさそうです。詳しい話は、喜一郎さんも交えて、そのおりに。そういえば、喜一郎さんは?」
「二階でお経を読んでいるはずです」
生きて帰れたのはそのせいかもしれない。
「血を感じました」
わたしはぽつりといった。
「血を?」
「ええ。だから、流子さんについてより詳しい話をおうかがいしたいのです」
「わかりました。祖父を呼んできます」
「お願いします」
遥美奈は扉を開け、部屋を出て行った。わたしは窓のカーテンを開け、外を見た。日はとっくの昔に沈んでいた。一月だから当然だ。
横たわる遥流子に目を落とした。
安らかに眠っているようにしか見えないが、その見ている夢は荒涼としたものだった。いったい、あれはなんだったのだ? こちらの知らないなにが、彼女に起こったのだ?
わからなかった。
再び額に手をやった。まだ汗で湿っている。誰も見ていないことをいいことに、ワイシャツの中に手を入れた。身体も汗でべとべとだった。シャツが汗を吸って冷たい。タオルと風呂が欲しいところだ。
そのような連想が湧くと同時に、人間的な欲求がこみ上げてきた。
腹が減った。身体が痛い。どうせならトイレもどこかですませたい。
しかし、それ以前に、疲れた。精神的な疲労がはなはだしい。悪夢の中でさんざん動き回ったうえ、しゃれこうべにさんざん頭突きを食らったのだから当然だ。
このことをどう説明すれば遥家の人々にわかってもらえるのだろう。
悩んでいるうちに扉が開いた。
「お目覚めになられたと聞きました」
入りざまに遥喜一郎がいった。頭を下げて答える。
「なんとかですがね。夢から追い出されて来ました」
「失敗したのですな」
遥流子を見ればわかるだろう。
「面目ありません」
目を伏せた。遥喜一郎は首を横に振った。
「そうですか……でも、夢の中には入れたのでしょう?」
「はい」
「流子がどんな夢を見ていたのかお話し願えませんか」
「もとよりそのつもりです。それとお話もうかがいたい」
「流子についてですか」
「ええ。どうしてあんな夢を見ていたのか、理解だけでもしておきたいので」
「あんな夢?」
「順を追ってお話ししましょう。わたしが彼女の夢に入ったとき、一番最初に見たのは、いえ、感じたのは、血でした」
「血?」
わたしは見てきたものをひとつひとつ語った。生命ある紡錘形の血の貯蔵庫のことも、荒涼とした荒れ野のことも、浮かぶしゃれこうべのことも。自分が踏んだドジのこともつまびらかに語った。格好はよくないが、隠してみても始まらない。
「何か流子さんの生活に直接関わっているようなものはありませんか?」
「何も……」
遥喜一郎氏はそう答えた。まあ、そりゃそうだろう。こんな奇天烈なイメージとぴったり来るものを即座に思い出せるほうがどうかしている。
「質問を変えましょう。流子さんは、過去に何か大量の血が流れるような経験をしたことがありますか?」
「血とは?」
「大怪我とか、そういったものです」
「盲腸の手術くらいしか思いつきません」
だったらあの血は何だ。
三人とも同時に思い当たったらしい。
「桐野さん、まさかあの化け物が……だって、あれはただの言い伝えですよ!」
「ただの言い伝えだけでもないでしょう。現にミイラは発掘されているんだし」
「それはそうですが」
「確かに、今の段階では流子さんとあの伝説を結びつけるのには危険があります。それはわかっています。しかし、有力な手がかりであることは間違いない」
遥流子の意見が聞けないのが残念だ。
「次に行きます。喜一郎さん、流子さんは中国を舞台にした漫画だとか小説だとか映画だとかをよくごらんになられていましたか?」
「……のさん、桐野さん!」
身体が揺さぶられる。何があったんだ……? わたしは……。
頭を振って、しゃんとさせた。そうだ、わたしは桐野。ナイトメア・ハンターだ。
「美奈さん?」
遥美奈はおろおろとして見えた。窓に目をやると、辺りはすでに暗くなっている。そうとうな時間がかかったらしい。
「桐野さん……よかった。姉の額に手をお当てになったと思ったとたん、倒れ込まれて……姉の夢に入っておられたんですか?」
「ええ。どれくらい時間が経ちました?」
「ええと、さっき時計が六時を打つのが聞こえましたから、三時間とちょっとです」
「三時間か。そんなにかかっていたとは思わなかった」
額を拭う。それを見た遥美奈がはっとしたように叫んだ。
「桐野さん、すごい汗!」
「ひどい目に遭いましたからね。夢魔らしきものを見つけましたが、どうすることもできませんでした。わたしの力不足です」
「すると、姉は?」
「ただの精神の病ではなさそうです。詳しい話は、喜一郎さんも交えて、そのおりに。そういえば、喜一郎さんは?」
「二階でお経を読んでいるはずです」
生きて帰れたのはそのせいかもしれない。
「血を感じました」
わたしはぽつりといった。
「血を?」
「ええ。だから、流子さんについてより詳しい話をおうかがいしたいのです」
「わかりました。祖父を呼んできます」
「お願いします」
遥美奈は扉を開け、部屋を出て行った。わたしは窓のカーテンを開け、外を見た。日はとっくの昔に沈んでいた。一月だから当然だ。
横たわる遥流子に目を落とした。
安らかに眠っているようにしか見えないが、その見ている夢は荒涼としたものだった。いったい、あれはなんだったのだ? こちらの知らないなにが、彼女に起こったのだ?
わからなかった。
再び額に手をやった。まだ汗で湿っている。誰も見ていないことをいいことに、ワイシャツの中に手を入れた。身体も汗でべとべとだった。シャツが汗を吸って冷たい。タオルと風呂が欲しいところだ。
そのような連想が湧くと同時に、人間的な欲求がこみ上げてきた。
腹が減った。身体が痛い。どうせならトイレもどこかですませたい。
しかし、それ以前に、疲れた。精神的な疲労がはなはだしい。悪夢の中でさんざん動き回ったうえ、しゃれこうべにさんざん頭突きを食らったのだから当然だ。
このことをどう説明すれば遥家の人々にわかってもらえるのだろう。
悩んでいるうちに扉が開いた。
「お目覚めになられたと聞きました」
入りざまに遥喜一郎がいった。頭を下げて答える。
「なんとかですがね。夢から追い出されて来ました」
「失敗したのですな」
遥流子を見ればわかるだろう。
「面目ありません」
目を伏せた。遥喜一郎は首を横に振った。
「そうですか……でも、夢の中には入れたのでしょう?」
「はい」
「流子がどんな夢を見ていたのかお話し願えませんか」
「もとよりそのつもりです。それとお話もうかがいたい」
「流子についてですか」
「ええ。どうしてあんな夢を見ていたのか、理解だけでもしておきたいので」
「あんな夢?」
「順を追ってお話ししましょう。わたしが彼女の夢に入ったとき、一番最初に見たのは、いえ、感じたのは、血でした」
「血?」
わたしは見てきたものをひとつひとつ語った。生命ある紡錘形の血の貯蔵庫のことも、荒涼とした荒れ野のことも、浮かぶしゃれこうべのことも。自分が踏んだドジのこともつまびらかに語った。格好はよくないが、隠してみても始まらない。
「何か流子さんの生活に直接関わっているようなものはありませんか?」
「何も……」
遥喜一郎氏はそう答えた。まあ、そりゃそうだろう。こんな奇天烈なイメージとぴったり来るものを即座に思い出せるほうがどうかしている。
「質問を変えましょう。流子さんは、過去に何か大量の血が流れるような経験をしたことがありますか?」
「血とは?」
「大怪我とか、そういったものです」
「盲腸の手術くらいしか思いつきません」
だったらあの血は何だ。
三人とも同時に思い当たったらしい。
「桐野さん、まさかあの化け物が……だって、あれはただの言い伝えですよ!」
「ただの言い伝えだけでもないでしょう。現にミイラは発掘されているんだし」
「それはそうですが」
「確かに、今の段階では流子さんとあの伝説を結びつけるのには危険があります。それはわかっています。しかし、有力な手がかりであることは間違いない」
遥流子の意見が聞けないのが残念だ。
「次に行きます。喜一郎さん、流子さんは中国を舞台にした漫画だとか小説だとか映画だとかをよくごらんになられていましたか?」
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~ Comment ~
新年あけましておめでとうございます、去年は色々とお世話になりました<(_ _)>今年もよろしくお願いいたします!
前回の本は血を吸いましたが、今回も、タイトルに吸血鬼と入っているだけあって、何だか血がキーワードになっていそうですね。何にせよ今回も一筋縄ではいかなさそうで(まあ一筋縄でいってしまってはお話にならないのでしょうが;)桐野さん、ファイトです^^
前回の本は血を吸いましたが、今回も、タイトルに吸血鬼と入っているだけあって、何だか血がキーワードになっていそうですね。何にせよ今回も一筋縄ではいかなさそうで(まあ一筋縄でいってしまってはお話にならないのでしょうが;)桐野さん、ファイトです^^
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新年あけましておめでとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします!
もう、恐怖のイメージから「血」しか思いつかないというイメージの貧困がバレてしまってたいへん(^^;)
今回も陰惨な事件ですが、どうか呆れずに最後までおつきあいください~♪