「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 アキラ 13-4
あの真面目な生徒会長が、学校をこんな時間に抜け出して、いったいなにを!
いや……そもそも、あれはほんものの先輩なのか?
沙矢香がいっていた。
『暗殺者は、変装の達人で……』
ぼくの目の前で、先輩はマクドナルドに入っていく。
手にしていた文鎮が、文鎮それ自体の重さより重く感じた。
ノゾミちゃんがぼくより先に車から降りた。ぼくも続く。
相手に、こちらが気づいているということを気づかせてはならない。
ぼくはごくりとつばを飲み込み、後部座席のドアを開けた。
歩道に降りる。
ノゾミちゃんが、先にマクドナルドに入った。生徒会長が、いや、生徒会長そっくりに変装した相手が、こちらに背を向け、レジに「マックシェイク。ストロベリーね」などといっているのが聞こえた。
アルバイトの店員が、ぼくに向かってなにかをいった。「いらっしゃいませ」だろうが「ご注文はなんになさいますか?」だろうが、ぼくの耳にはどうでもいいことだった。
一瞬がのろのろと過ぎていく。
先輩はDVDのスロー画像のような動きでこちらを振り向いた。
いくらかの戸惑いも見せながら、にっこりと笑い、口を開いた。
「まあ、さ……」
そのときだった。
ノゾミちゃんがぼくに体当たりした。
不意を打たれ、ぼくはよろけた。よろけたぼくの足は、自分でも気がつかないうちに時形流の足の運びで動いていた。
それがよかったのだ。
突き出された小さなこぶしが、ぼくの膝元すれすれを通り過ぎた。
ぼくは、そのとき初めて、相手がどんなやつなのかを理解した。思えば、ぼくはこれまで何度となく、この相手に背後を取られていたのではなかったのか。鹿澄夢刀流で鍛えられたはずのぼくが、いつもいつも簡単に一足一刀の間合いを越えられていたではないか。気を取り直したぼくのまわりで、緩慢に流れる時間は、いつもの速度を取り戻していた。
「……迫水さん、あなた停学中でしょう? それがどうしてこんなところに? 迫水さん? どうしちゃったの、迫水さん!」
ぼくは正体を現した刺客と、息をつめ、向かい合っていた。
間違いない。
この少女……いつもぼくと生徒会長との門前でのやり取りを見ていた、どこにでもいそうな、ありふれたワンピースを着ている小学生くらいの女の子が、ぼくを狙い、父さんと母さんをあんな目に遭わせた、おそるべき暗殺者なのだ!
いや……そもそも、あれはほんものの先輩なのか?
沙矢香がいっていた。
『暗殺者は、変装の達人で……』
ぼくの目の前で、先輩はマクドナルドに入っていく。
手にしていた文鎮が、文鎮それ自体の重さより重く感じた。
ノゾミちゃんがぼくより先に車から降りた。ぼくも続く。
相手に、こちらが気づいているということを気づかせてはならない。
ぼくはごくりとつばを飲み込み、後部座席のドアを開けた。
歩道に降りる。
ノゾミちゃんが、先にマクドナルドに入った。生徒会長が、いや、生徒会長そっくりに変装した相手が、こちらに背を向け、レジに「マックシェイク。ストロベリーね」などといっているのが聞こえた。
アルバイトの店員が、ぼくに向かってなにかをいった。「いらっしゃいませ」だろうが「ご注文はなんになさいますか?」だろうが、ぼくの耳にはどうでもいいことだった。
一瞬がのろのろと過ぎていく。
先輩はDVDのスロー画像のような動きでこちらを振り向いた。
いくらかの戸惑いも見せながら、にっこりと笑い、口を開いた。
「まあ、さ……」
そのときだった。
ノゾミちゃんがぼくに体当たりした。
不意を打たれ、ぼくはよろけた。よろけたぼくの足は、自分でも気がつかないうちに時形流の足の運びで動いていた。
それがよかったのだ。
突き出された小さなこぶしが、ぼくの膝元すれすれを通り過ぎた。
ぼくは、そのとき初めて、相手がどんなやつなのかを理解した。思えば、ぼくはこれまで何度となく、この相手に背後を取られていたのではなかったのか。鹿澄夢刀流で鍛えられたはずのぼくが、いつもいつも簡単に一足一刀の間合いを越えられていたではないか。気を取り直したぼくのまわりで、緩慢に流れる時間は、いつもの速度を取り戻していた。
「……迫水さん、あなた停学中でしょう? それがどうしてこんなところに? 迫水さん? どうしちゃったの、迫水さん!」
ぼくは正体を現した刺客と、息をつめ、向かい合っていた。
間違いない。
この少女……いつもぼくと生徒会長との門前でのやり取りを見ていた、どこにでもいそうな、ありふれたワンピースを着ている小学生くらいの女の子が、ぼくを狙い、父さんと母さんをあんな目に遭わせた、おそるべき暗殺者なのだ!
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NoTitle
こう来たか!
思わず、前に戻って読み直してしまいました。
いたよ、子供!
そんな小さい子だったとは!
うわあ、やられました。
思わず、前に戻って読み直してしまいました。
いたよ、子供!
そんな小さい子だったとは!
うわあ、やられました。
- #14854 椿
- URL
- 2014.12/23 12:45
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Re: 椿さん
でももうちょっと印象付けるように描いたほうがよかったかな。
これじゃアメリカ人のいう「パールハーバー」ってやつですね(^^;)