「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 ノゾミ 14-2
とりあえず最悪の事態は避けられたようだ。ぼくは額に浮かんだぬるぬるする嫌な汗をぬぐった。
足がふらつくのをなんとかおさえて立ち上がり、迫水さんのほうへと一歩踏み出した。
「……来るな!」
迫水さんの鋭い声に、ぼくはびくっと立ち止まった。
「来ちゃだめだ、ノゾミちゃん!」
女の子がさっと右手を振った。なにか、よく見えないけれど、つぶてのようなものが宙を飛んだ。迫水さんが手にした文鎮を突き出し……いや、放り投げた。
空中での文鎮の動きが、当たり前の放物線から大幅にずれた。ぼくは目をこすった。文鎮には、いつの間にか、先端におもりのあるごくごく細い紐がからみついていたのだ。紐は女の子の右手につながっていた。
女の子は手元に文鎮を引き寄せると、そのまま、からんと音を立てて投げ捨てた。戦いは終わったどころじゃない、より熾烈な第二ラウンドに入ったのだ!
才蔵おじいさんがテープで固めた十円玉を投げた。しゃりっという音とともに、十円玉はわずかに方向を変え、女の子をかすめて飛んだ。今度はぼくにも見えた。女の子は左手から同じような紐のついた小さな分銅を投げ、十円玉の軌道をそらしたのだ。
ここへ来てようやく事態の異常性に頭が追いついたらしい客が騒ぎ出した。
「近づくな! 毒だ! 毒だ!」
高木さんが叫んだ。
普通なら信憑性のかけらもない話だ。だが、高木さんの声には有無をいわせぬ説得力があった。
「な、なんなんです、あの紐……」
ぼくはやっとのことで喉の奥から声らしきものを引っ張り出した。
才蔵おじいさんも高木さんもぼくには目を向けなかった。
「……分銅をつけた極細のワイヤーだ。それにやすりをかけてけば立たせてある」
高木さんが乾いた声でいった。
「塗られているのは、瑠璃の性格からして、夾竹桃のような、心臓を直接停める心臓毒だろう。ストロファンツス・ヒスピードゥスあたりか……」
「瑠璃?」
ぼくは尋ね返した。
「下がっておれ、少年! そんな詮索は後回しじゃ!」
ぼくはロボットみたいにその命令に従った。トイレを済ませてきてよかった。
生き延びてから、ネットで調べたところ、ストロファンツス・ヒスピードゥスというのは、アフリカのザンジバル地方に多いキョウチクトウ科の植物で、種にストロファンチンという毒物が高濃度で詰まっているんだそうだ。そんな毒で心臓が止まって死ぬのはごめんこうむりたい。
足がふらつくのをなんとかおさえて立ち上がり、迫水さんのほうへと一歩踏み出した。
「……来るな!」
迫水さんの鋭い声に、ぼくはびくっと立ち止まった。
「来ちゃだめだ、ノゾミちゃん!」
女の子がさっと右手を振った。なにか、よく見えないけれど、つぶてのようなものが宙を飛んだ。迫水さんが手にした文鎮を突き出し……いや、放り投げた。
空中での文鎮の動きが、当たり前の放物線から大幅にずれた。ぼくは目をこすった。文鎮には、いつの間にか、先端におもりのあるごくごく細い紐がからみついていたのだ。紐は女の子の右手につながっていた。
女の子は手元に文鎮を引き寄せると、そのまま、からんと音を立てて投げ捨てた。戦いは終わったどころじゃない、より熾烈な第二ラウンドに入ったのだ!
才蔵おじいさんがテープで固めた十円玉を投げた。しゃりっという音とともに、十円玉はわずかに方向を変え、女の子をかすめて飛んだ。今度はぼくにも見えた。女の子は左手から同じような紐のついた小さな分銅を投げ、十円玉の軌道をそらしたのだ。
ここへ来てようやく事態の異常性に頭が追いついたらしい客が騒ぎ出した。
「近づくな! 毒だ! 毒だ!」
高木さんが叫んだ。
普通なら信憑性のかけらもない話だ。だが、高木さんの声には有無をいわせぬ説得力があった。
「な、なんなんです、あの紐……」
ぼくはやっとのことで喉の奥から声らしきものを引っ張り出した。
才蔵おじいさんも高木さんもぼくには目を向けなかった。
「……分銅をつけた極細のワイヤーだ。それにやすりをかけてけば立たせてある」
高木さんが乾いた声でいった。
「塗られているのは、瑠璃の性格からして、夾竹桃のような、心臓を直接停める心臓毒だろう。ストロファンツス・ヒスピードゥスあたりか……」
「瑠璃?」
ぼくは尋ね返した。
「下がっておれ、少年! そんな詮索は後回しじゃ!」
ぼくはロボットみたいにその命令に従った。トイレを済ませてきてよかった。
生き延びてから、ネットで調べたところ、ストロファンツス・ヒスピードゥスというのは、アフリカのザンジバル地方に多いキョウチクトウ科の植物で、種にストロファンチンという毒物が高濃度で詰まっているんだそうだ。そんな毒で心臓が止まって死ぬのはごめんこうむりたい。
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