「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢鬼人

    夢鬼人 サヤカ H

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    サヤカ



    「暗殺者は失敗したようだ」

     良寛さんはいつもの喫茶店でいつものごとき天真爛漫な顔をして、いつもと変わらぬ声で物騒なことをいった。

    「……よかった」

     疲れきった声で答え、あたしはコーラをひと口飲んだ。反射的に思いつく甘く冷たいものがコーラだっただけで、なんだってよかったのだ。含まれるカフェインと糖分が、今のあたしには最高のごちそうだった。

    「まあ、ぼくも、そのほうが事態が面白くなるので喜ばしいことだとは思っているんだけれどね」

     そのいいかたに、あたしはイラッとした。しかも、良寛さんの目の前にあるのは、ミルクセーキなのだ。どれだけ余裕をかましているんだ、である。

    「もともと、このことは、鹿澄夢刀流をそのまま時形流に包摂するべきだっていう、ぼくのおじを中心とする派閥が主張したことから始まっているんだ。鹿澄夢刀流の陽を、時形流の陰に合わせれば、相互補完により、『夢鬼』は悪夢を撒き散らさなくても生きていける、ってね。ぼくと父とは笑ったよ。生きていけるだろうけれど、こんな楽しいことをどうして放棄しなくちゃいけないのか、さっぱりわからなかったからね」

     あたしは悟った。この人には、なにか大事なものが欠けているのだと。それをどう埋めていけばいいのか、あたしにはわからない。それがどうしようもなく悔しくてしかたがなかった。

    「時形弘太郎は父が継いだけど、先代……祖父が、あそこまで出来が悪いとは思わなかった。『鍵』となる娘……きみの親友を見つけたまではいいものの、無様な醜態をするとは、情けないかぎりだ」

     あたしはできるだけ冷淡な声を出して挑発してみた。

    「そう、それで、隠居したおじいさんはどうなったの?」

     良寛さんはくすくす笑った。

    「隠居してから床についてしまったよ。今は夢膿の中に埋もれて、出口のない闇を這いずりまわっているはずだ」

     台所のゴキブリの始末について話しているかのような口調に、あたしはぞっとした。

    「あなた……あなたたち、実の家族を狂わせてしまったの?」

     良寛さんはうなずいた。

    「あまりうまい夢ではなかったよ」

     ……狂ってる。ほんとに狂っている。少なくとも、あたしが知っている、『人間』とはまったく別の生き物がここにいる……。

     あたしはそれを実感せざるを得なかった。

    「コーラが薄くなるよ」

     良寛さんは口調をまったく変えなかった。あたしはストローに口をつけた。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    来年以降の原稿は完全に真っ白だったりします(^^;)

    なんかもう擦り切れてしまった気がして。行き詰まっているというか。

    ネタはないかとやけくそで本を読んでます(^^;)

    かくして時形家に関する謎はまた持ち越されるのであった(笑)

    ……ほんとに完結するのかこの小説(^^;)

    NoTitle

    どんどん本性が見えて来ておりますね。
    望くんはあんなにいい子なのに。
    時形家にますます興味がわきます。

    来年も展開を楽しみにしております。
    今年はいろいろお世話になりまして、ありがとうございました!

    Re: 矢端想さん

    この第二巻では敵のもくろみを明らかにしようと思いまして。

    第三巻では最終決戦が行われます。

    舞台を京都に移すかこちらであくまで戦うかはまだ決めてませんけど。

    NoTitle

    ラスボスが正体を現し始めた・・・のかな?
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