「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
3 吸血鬼を吊るせ(完結)
吸血鬼を吊るせ 1-7-2
7(承前)
そうだ、忘れていた。遥流子にはたくさんの自筆のエッセイがあったはずだ。
「戸乱新報と月刊てぃあらのバックナンバーはありますか? できることなら、ぜひ見たい」
「流子様のお部屋に、火事以来のものはたしか全部そろっていたと思いますが」
「後で読ませてください。お願いします。使っていたパソコンは?」
「流子様はパソコンなんか使ってらっしゃりませんよ。もっぱら原稿用紙です」
「そういえばボタンがたくさんある機械は洗濯機すら大嫌いとうかがっていますが、そうですか。便利なんですけどね、パソコンって」
「あたしもそういったんですけどね。人間は手で書いたほうが暖かい文章が書ける、ですって。流子様らしいですわ」
「じゃ、どうやって出版社に原稿を送っていたんです?」
「美奈様のイラストといっしょにファックスで。最近では、美奈様がスキャンして電子メールで送っておられることも多かったですね」
「もとの草稿は?」
「清書したものだったら、火事以来のものは全部あるはずですが。身の回りはきれいにしておきたい、というかたですから、下書きの段階のものはご自分で全部処分なされました。下書き段階で残っているのは、半年前に書きかけた最後の原稿だけです」
「見ていいですかね」
「喜一郎様や美奈様におうかがいしなくてはなりませんが、あたしはいいと思います。それが流子様のためになるのなら」
「ありがとうございます」
後で遥喜一郎氏に話を通しておかなくては。
「流子さんは博物館のパンフレットなんかにも書いていたんですか?」
「いってませんでしたっけ。もちろん、婚約者の勤め先ですから、ボランティアとして原稿を書いていたとうかがっております。とはいえお役所のことですから、その文章は西方先生が書いたことになっていたらしいですけど」
「その文章は読めますか?」
「博物館に行けば、どっさり置いてありますわ」
さもありなん。
「西方氏は、どんなかたです?」
「こんな不幸に見舞われるのがなにかの間違いではないかと思えるくらい善良なかたです」
「ずいぶんと買ってますね」
「だってそうですもの」
「人相体格はどうです」
「学者とか公務員とかNHKのアナウンサーなんかに生まれついたような人ですよ。体格は桐野先生と同じくらいです。現に、その服も本来は西方先生のために用意したものですから」
そうだったのか。わたしは改めて自分の衣服を見回した。
「いいんですか? わたしなんかが着て」
「タンスの肥やしにするよりはましです。それに、桐野先生もお似合いですよ」
「それじゃ遠慮なく」
着てからいうのもなんだったが。
「今日、喜一郎さんにお願いして西方氏にお会いすることになっているのですが、そのう、とっつきやすい人ですか?」
「何度もいうように、いい人ですよ。桐野先生は、ご自分の診療所でもっとつきあいの悪い人を診ていらっしゃるのではないですか?」
一本取られた。
「診療所、などというかっこいいものではありませんがね。おっと、すみません、話し込んでしまって。朝食も食べさせていただけるんですか?」
「桐野先生、悲観的にお考えすぎです。きちんと先生のぶんも用意してあります。準備ができたら、お呼びいたしますので……」
野村香は部屋を出、扉を閉めた。
わたしは一人残されたが……。
一人で何をしろというのだ。
そうだ、忘れていた。遥流子にはたくさんの自筆のエッセイがあったはずだ。
「戸乱新報と月刊てぃあらのバックナンバーはありますか? できることなら、ぜひ見たい」
「流子様のお部屋に、火事以来のものはたしか全部そろっていたと思いますが」
「後で読ませてください。お願いします。使っていたパソコンは?」
「流子様はパソコンなんか使ってらっしゃりませんよ。もっぱら原稿用紙です」
「そういえばボタンがたくさんある機械は洗濯機すら大嫌いとうかがっていますが、そうですか。便利なんですけどね、パソコンって」
「あたしもそういったんですけどね。人間は手で書いたほうが暖かい文章が書ける、ですって。流子様らしいですわ」
「じゃ、どうやって出版社に原稿を送っていたんです?」
「美奈様のイラストといっしょにファックスで。最近では、美奈様がスキャンして電子メールで送っておられることも多かったですね」
「もとの草稿は?」
「清書したものだったら、火事以来のものは全部あるはずですが。身の回りはきれいにしておきたい、というかたですから、下書きの段階のものはご自分で全部処分なされました。下書き段階で残っているのは、半年前に書きかけた最後の原稿だけです」
「見ていいですかね」
「喜一郎様や美奈様におうかがいしなくてはなりませんが、あたしはいいと思います。それが流子様のためになるのなら」
「ありがとうございます」
後で遥喜一郎氏に話を通しておかなくては。
「流子さんは博物館のパンフレットなんかにも書いていたんですか?」
「いってませんでしたっけ。もちろん、婚約者の勤め先ですから、ボランティアとして原稿を書いていたとうかがっております。とはいえお役所のことですから、その文章は西方先生が書いたことになっていたらしいですけど」
「その文章は読めますか?」
「博物館に行けば、どっさり置いてありますわ」
さもありなん。
「西方氏は、どんなかたです?」
「こんな不幸に見舞われるのがなにかの間違いではないかと思えるくらい善良なかたです」
「ずいぶんと買ってますね」
「だってそうですもの」
「人相体格はどうです」
「学者とか公務員とかNHKのアナウンサーなんかに生まれついたような人ですよ。体格は桐野先生と同じくらいです。現に、その服も本来は西方先生のために用意したものですから」
そうだったのか。わたしは改めて自分の衣服を見回した。
「いいんですか? わたしなんかが着て」
「タンスの肥やしにするよりはましです。それに、桐野先生もお似合いですよ」
「それじゃ遠慮なく」
着てからいうのもなんだったが。
「今日、喜一郎さんにお願いして西方氏にお会いすることになっているのですが、そのう、とっつきやすい人ですか?」
「何度もいうように、いい人ですよ。桐野先生は、ご自分の診療所でもっとつきあいの悪い人を診ていらっしゃるのではないですか?」
一本取られた。
「診療所、などというかっこいいものではありませんがね。おっと、すみません、話し込んでしまって。朝食も食べさせていただけるんですか?」
「桐野先生、悲観的にお考えすぎです。きちんと先生のぶんも用意してあります。準備ができたら、お呼びいたしますので……」
野村香は部屋を出、扉を閉めた。
わたしは一人残されたが……。
一人で何をしろというのだ。
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~ Comment ~
NoTitle
遅くなってすいませんっ
3に入らせていただいてます・・!!
>人間は手で書いたほうが暖かい文章が書ける
なんとなく確かにーって思いました★
何でもやっぱり直接やった方が気持ちこもってそうです
断片的に紙にはよく書きますが・・(おかげで、どこの部分か不明な文章が転がってます;)最終的にはパソコン・・。
3に入らせていただいてます・・!!
>人間は手で書いたほうが暖かい文章が書ける
なんとなく確かにーって思いました★
何でもやっぱり直接やった方が気持ちこもってそうです
断片的に紙にはよく書きますが・・(おかげで、どこの部分か不明な文章が転がってます;)最終的にはパソコン・・。
>佐槻勇斗さん
ガーン。ももひきは死語だったのか……。
そのうち「レギンス」などと呼ばねばならなくなる日がくるのかのう。茶がうまいのう。ずずー(じじい)
北国では防寒をしっかりしないとマジで風邪をひくのではないでしょうか。風邪ならまだマシで、凍傷などということも……。(昔、関東以南から北海道に移民した女性には、冬でももと住んでいたところと同じような冬着でがまんして、凍傷にかかる人が少なくなかったそうで……)
寒いのは嫌いですなあ。暑いのも嫌いですけど。
ガーン。ももひきは死語だったのか……。
そのうち「レギンス」などと呼ばねばならなくなる日がくるのかのう。茶がうまいのう。ずずー(じじい)
北国では防寒をしっかりしないとマジで風邪をひくのではないでしょうか。風邪ならまだマシで、凍傷などということも……。(昔、関東以南から北海道に移民した女性には、冬でももと住んでいたところと同じような冬着でがまんして、凍傷にかかる人が少なくなかったそうで……)
寒いのは嫌いですなあ。暑いのも嫌いですけど。
こんばんは♪
(1-7-1で)久しぶりに聞きました、もも引き笑
そして、なんだったろうと思い出せず、yahoo!辞書で調べてしまいました爆
ズボン下でしたね(∀)
雪国男性の必須アイテム、なのか…??ww
女性はババシャツを高確率で着ているという噂ですが(どうでもいい
(1-7-1で)久しぶりに聞きました、もも引き笑
そして、なんだったろうと思い出せず、yahoo!辞書で調べてしまいました爆
ズボン下でしたね(∀)
雪国男性の必須アイテム、なのか…??ww
女性はババシャツを高確率で着ているという噂ですが(どうでもいい
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Re: れもんさん
手で書いたほうがいい文章が書けることはわかっているのですが……。
やっぱりわたしもワープロに転んでしまいますねえ。
弱いですねえ(^^;)