ささげもの

    待つ男

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    待つ男


    「いいニュースと悪いニュースがある」

     と、わたしはイヴォにいった。

    「いいニュースから教えろよ」

    「ポール・マッカートニーが新曲にあの詩の一部を使わせてくれといってきた」

    「それで、悪いニュースって?」

    「ジョン・レノンからのオファーはなかったんだ」

    「とっくに死んでるじゃないか、そいつ! ジョークにしてもつまらねえ」

     イヴォはわたしに辛辣な視線を向けた。

     しかし冗談ごとではなかった。この出口の見えない戦争が続いている中、ヨーロッパを中心に動画の再生回数はうなぎのぼりになっていた。この世界中で、美穂の顔は知らなくても、声を知らないものはいないのではないかと思われるほどだ。あちこちから、わたしたちのもとには詩を使わせろという要望が殺到していた。

     わたしとイヴォはホテルに身を潜めていた。何万ドルではきかない契約料がからんでくるとなると、身体にも危険が及びかねないところにわたしたちは住んでいたからだ。現金をかき集め、いくらかでもまともなセキュリティのあるホテルに移動していないと命が危なかった。

    「で、どうするよ?」

    「思うんだが」

     わたしはいった。

    「あいつが、こんなことになるのを望んでいたと思うか? 自分の詩が金になり、売り買いされるような未来をだ」

     イヴォは首を横に振った。

    「いいや。そんなことを考えるには、あいつはあまりにバカで正直すぎる」

     わたしは美穂を巻き込んだことを後悔していた。わたしが店長並みの待遇を受けていたあの店は、美穂をひと目見ようとする客で押すな押すなの盛況ぶりだそうだ。わたしもそうだが、美穂も芸能人というタイプではない。アパートにこもって出てこられない生活だそうである。

    「今の状況を考えると、わたしたちにはただひとつの選択肢しかないような気がするんだが」

     イヴォは最初は反対したが、最終的には折れた。



     そういうわけで、わたしは今、バスの停留所にいる。

     美穂には、三日前に、ホテルからメールで伝言を送っておいた。



    『美穂へ。

     わたしには、どう考えても、あの詩人が、今の状況を喜んでいるとは思えない。わたしたちが、あの詩を金儲けに利用しようと考えることをだ。

     詩人は、自分の詩によって、いくらかでも、この、戦争に向かってまっしぐらな世界が変えられればそれでいいと思っていたんだろう。

     美穂、きみには話していなかったが、わたしとイヴォは、相談の末、自分たちの著作管理権を譲渡することにしたんだ。

     今後、あの詩から上がる利益は、基金管理団体の厳格な運用のもと、反戦運動のために使われることになる。

     株屋をやっていた経験から、わたしは自分が巨額の資金を運用するような素質がないことがよくわかっているんだ。

     譲渡の際に、わたしとイヴォは代償としていささかの金銭を得た。

     イヴォは親戚のいるメキシコに帰り、とうぶんはその経営している農園で働きながら、そのうちボクシングジムを開くことにするそうだ。今ごろはダイアナを誘っていることだろう。

     そしてわたしだが、あの店長のいとこがサンフランシスコで店を開こうとしているとかで、優秀な経営パートナーを欲しがっているそうだ。

     きみも来ないか。

     きみの黄金色の肌は、このマンハッタンの灰色の空よりも、カリフォルニアの太陽のもとでこそ明るく美しく輝くはずだ。

     わたしにとって、このマンハッタンはゆりかごのようなものだった。

     きみにとっても、ゆりかごのようなものだったのではないか。

     ツィオルコフスキーというロシアの学者の台詞ではないが、人間はいつまでもゆりかごに揺られているわけにはいかないんだ。いつかは、そこを飛び出さなければならない。

     きみはいつまでも、マンハッタンの日本人でいたいのか。この、非人間的なマンハッタンの、孤独な日本人でいることに満足していたいのか。

     わたしは自分がきみに対して酷なことをいっていると承知している。

     三日後、グレイハウンドの最終バスでサンフランシスコに向かおうと思う。

     そこで、きみと思い切り話し合いたいんだ。

     今までのことと、これからのことを。

     バス停で待っている』



     夜も更けた。

     美穂はいまだ来る気配はない。

     最終バスもいまだ来る気配はない。

     わたしはただ待っている。



     ※ ※ ※ ※ ※



     足かけ二年もやってそろそろ収束させる方向へもっていってください、と八少女さんが無言の抗議をしているようなので、収束させてみました。ついでに不遜ながら、こういうことがいいたかったのではないかなー、と内心を慮ってみました(笑)

     これに結末をつけるかどうかのバトンは八少女さんにパスしました。

     健闘を祈ります。(って投げっぱかよ!(^^;))

     消費したラム酒200ml。コカコーラ3l。しらふでは書けなかった(爆)
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    ストレートを投げようとしたら魔球になってしまったでござるの巻(^^;)

    これからどこまで話がこじれるのか予想すらできないので、しばらく「わたし」はサンフランシスコにとどまることにさせます。

    ハッピーエンドに持って行くには安易すぎたかなあ……(^^;)

    NoTitle

    単体としていいと思いますけどね。
    ポールさんらしさの情愛というか、退廃というかそういうのが非常に伝わってきて、「あ、ポールさんの小説読んでいるな。。。(*´ω`)」というほっこり感がありました。
    読ませていただきありがとうございます。

    Re: ダメ子さん

    八少女さん怒ってるかな(^^;)


    個人的なことをいえば、美穂があんな生活をしているのはマンハッタンに集まるカネに幻惑されているのであり、どこかまともなところに引っ越せば精神も落ち着くんではないかと思うんですが。

    別にデンバーだろうとシアトルだろうとフロリダだろうとインディアナポリスだろうといいと思うんですがねえ。

    「日本」だと「わたし」が英語しか話せませんからコミュニケーションがなあ。「わたし」は律儀なやつだから(だから株屋で大失敗した)、猛勉強して3カ月でぺらぺらになる、という説もありますけど。

    Re: かえるママ21さん

    「わたし」のパートがこういう結末を迎えることについては最初から計画してました。(なにしろ「結末が見えないとなにも書けない男」なもんで……)

    あとは八少女さんがどんな手を打ってくるかですね。

    楽しみです。

    NoTitle

    まさかの超展開!?
    これは夕さ…じゃなくて美穂さんは大きな決断を迫られますね
    きっと眠れぬ日々を…

    NoTitle

    面白いですね。
    そうか。小説と言うのは登場人物を自分の意のままに動かすことが出るんですね、(あたりまえか)でもそれが面白いですね。
    そして、こうしてブロガーさんとのやりとりで、展開も変わっていくのも興味深いです。

    Re: カテンベさん

    美穂は一度とんでもない男に引っかかってますから、メールに「愛」も「恋」も書けないような不器用な男の一世一代のプロポーズを受けるかどうか。

    どうなるか興味しんしんです。

    「立つ鳥後は野となれ山となれ」(笑)

    Re: 八少女 夕さん

    我ながらタイガージェットシンの凶器攻撃ですな。五秒以内だから反則にはならないんです(^^ゞ

    いちおう、美穂がどう決断してもそれなりのエンディングになるよう配慮して書いたつもりです。

    ここで終わらせるのを避けてひたすら出口の見えない長期戦に突入する、という選択もありますが、そうするとほんとに終わりどころが(^_^;)

    受けるにしろ蹴るにしろ、美穂の決断を期待しています。

    Re: 山西 サキさん

    危険球で退場処分を食らってもしかたないことをしてしまいました。(^_^;)

    わたしも興味があるんです。

    こんなとき、ひとりの女性はどんな判断を下すのか。

    気になります。

    きれいな展開やね〜

    強い気持ちを持って生きてくんやろなー、て思うから、カリフォルニアにはついていかないんやろなぁ〜、て思うけど
    見送りにはくるんやろねぇ
    どんなセリフを告げるんだろ?て期待してしまうわ

    まったく!

    こんばんは。

    やっぱりドSでしたね、ポールさん(笑)
    どうしてくれよう。
    一応、構想練ったんで、来週の頭かな……。

    だいたい美穂は「詩は読みたくない」って言ったでしょう!
    (そこはポイントじゃないけれど)

    NoTitle

    うわ~!!!今夜は驚くことばかりです。
    とうとうポールさんがやってしまいました。
    どうするんだろう?ここで終わっても素敵は素敵だし、夕さんが受けて展開されてもどうとでも展開する。なんとも究極のぶちかましだなぁ。
    でも、ポールさん、カリフォルニアですか・・・。
    夕さんどうするんだろ?
    美穂頑張れ!!!ぶちかますのも有りだぞ!!!
    楽しみと言えば楽しみなような。

    Re: 大海彩洋さん

    「わたし」が主役の小説であれば、ここで終わらせるところです。後は読者の想像に任せる、というやつですね。

    しかしそんなことを許したら登場人物に「ポール」などとつけた仕返しに……いやなんでもありません(笑)

    今は八少女さんのレシーブを待つだけです。

    退却は別に恥ではないとも思っているのですが……(笑)

    Re: limeさん

    去年の段階では、一年かけてじわじわ盛り上げていってここに持ってくるつもりだったんですが、いろいろと事情が(^_^;)

    いちおう、「わたし」を語り手とする話は、これでエンドマークでもいいのですが、八少女さんの「美穂」の決断をどうするかまではわたしの一存ではできない。そして、ここで「美穂」が留まるか進むかを決断しないと、話は終わらないでしょう。

    というところまではわたしの計算どおりではあるのですが、はてさて八少女さんはいかなる返球をしてくるか。ここで長期戦の構えを見せると、ほんとに長期戦になってしまうからなあ……。

    おぉ

    いきなり大きく展開しましたね。マンハッタンから出ていくのか、それとも……
    私も、ここで終わってもいいなぁと思いました。でもバトンを投げられたということは、この先の答えが出てしまうのかぁ。見たいような見たくないような、ですね。
    マンハッタンの日本人じゃなくなるのか……夕さんちのカテゴリ名はどうなるのだろう。

    わあ

    とてもドラマチックに急展開しましたね。
    美穂の立場も、今まで通りではいられなくなっちゃったのですね。
    こんな風に舞台が変動するのも、リレー小説の面白いところ。
    でもこれ、あるいみアメリカンドリームと言ってもいいかもしれない。

    ここで終わっても、すごくいい感じなんだけど、美穂の心境も気になります。
    夕さん、どうするかな??
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