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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    3 吸血鬼を吊るせ(完結)

    吸血鬼を吊るせ 1-9

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     朝食を終え、わたしは香さんが持ってきた当時の月刊てぃあらと戸乱新報の山と格闘するはめになった。月刊てぃあらは地元のPR誌で非常に薄い。戸乱新報も地元のことしか書いていない、小さくて薄い新聞だった。しかし、遥流子は月刊てぃあらに五年も連載しているのだ。量は膨大にならざるを得ない。いいだしたのがわたしとはいえ、正直全部に目を通すのは無理だ。西方光太郎と会うまでの間に、読める限りを読んでおこう。
     バックナンバーを新しい方からひとつずつ、過去へ遡って読んでいくことにした。それが一番合理的な方法だ。
     まずは書きかけの草稿から読む。遥流子の神経質そうな字が並んでいた。

    『戸乱つれづれものぐさ(五十四)
     この島に生まれた人間なら、絶対トラウマのひとつとして抱えているに違いない伝説。と書けば、もうおわかりであろう。あれ、である。
     悪鬼ストリゴイ。この血を吸う妖怪の話を、いったい何回聞かされてそのたびに怖い思いをしたことか。筆者の小学校の同級生のなかには、毎晩寝る前にこの昔話を聞かされて布団から出るのが怖くなり、あげくのはてに寝小便をして親に怒られた悲惨な人間がいたものだ。
     そういうかたにはすばらしいニュースがある。先月終わった戸乱再開発工事において、ストリゴイを封じて惨劇に終止符をうった羽谷姫のミイラが発見され、目下建設中の「戸乱島歴史博物館」に展示されることとなったのだ。
     封じたご本人が博物館にいらっしゃるのだから、これ以上心強いことはない。もしも何か恐怖に襲われることに出くわしたら、迷わず博物館に足を運んで姫巫女様にお会いすることをお奨めする。そうすれば、あなたも霊験あらたかな姫巫女様のご加護によって救われるし、入場料分だけ博物館と島の財政も潤うというものだ。この世は万事めでたしめでたし。』

     能天気なのか神経質なのかよくわからない文章だ。草稿だからしかたもあるまい。そう思って目を上げようとしたとき、文章の続きに消しゴムで消されて消えかかった文字があることに気づいた。それはこう読めた。

    『なにしろ……』

     なにしろ、なんだというのだ。周囲の人間にこの書き込みを消す必然性がまったくない以上、これは遥流子の書き損じだろう。しかし、この文章の続きは、遥流子の頭の中だけだとしても、しっかりと存在していたことは確かだ。
     しばらく考えてみたがなにを告げようとしたのかはわからない。わたしは草稿を伏せ、雑誌に取りかかった。
     「戸乱つれづれものぐさ」に書かれていたのは日ごろの戸乱島の変わりばえしない生活の一断面だった。添えられている遥美奈のイラストもいい味を出している。まさか大型の車を乗り回しメカの整備までやっているとは思えない、暖かで柔らかい絵柄だ。妹のイラストに比べると、姉の文章は駘蕩とした生活を描くにはいささか棘があるように感じる。あくまでも、いささか、だが。
     一時間かけて月刊てぃあら二十冊を読んだ。そこでいったん気分を切り替えて、一時間ひたすら戸乱新報を読んだ。事実をそのまま伝えるという色が強い、こちらのほうが遥流子の文章のスタイルには合っているように思う。

    『……戸乱島は、本土のように高い山に面していないので、積雪量は比べてみるとかなり少ない。お隣である新潟の山間部などとは比べるだけ間違っている、という量しか降らないのだ。それを頭ではわかっていても、いざ屋根に登って雪を下ろしにかかると、なんの気休めにもならないのがつらい。つらさと労働量は近年になって過疎化が進行してきているのでますます増えるばかりである。行政の対応を強く求めたい……』

     その他その他、雪国についての雑学知識ばかりが増えてしまった。
     人の気配に振り向くと、呼びに来た遥美奈と目が合った。
    「桐野さん、おね……姉について、まだなにかお知りになりたいことが?」
    「西方氏に会うまでに読めるだけ読んでおこう、と思ったのですがね。流子さんの文章がある意味辛辣で、半分くらいしか読むことができませんでした」
    「それでは、お役には?」
    「いや、いろいろなことを知りましたよ。これだけ読めば明日からでもこの島で暮らせそうだ」
     わたしは読み終えた戸乱新報をまとめて立ち上がった。
    「美奈さん、西方氏とはどこで?」
    「十一時に、博物館と勝手に決めてしまいましたが……それでいいですか?」
    「もちろんです。ここからどのくらいかかりますか?」
    「狭い島ですから、それほどかかりません。車で行けばすぐです」
    「じゃ、お願いします。またあのプラドですか?」
    「ほかに車もありませんので」
     本当か?
     わたしの心を読んだかのように、遥美奈が続けた。
    「軽トラックで行きたかったらそちらでもいいですが」
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    ~ Comment ~

    >神田夏美さん

    この伏線が、うまく着地できていたらごかっさい(^^)

    本人はがんばったつもりであります(^^)

    『なにしろ……』がとてもつもない重要な伏線のような気がしてなりません(笑)どうもこういう思わせぶりな表現には弱くて……^^
    この伏線がどう回収されるのか、この……の後に何が続くのか、それとも読者に深読みさせるためだけのフェイクなのか、続きを読むのが楽しみです^^

    タイトルに吸血鬼とあるだけあって、悪鬼ストリゴイというのがキーワードになるのかなあ~、とか色々想像を巡らせております^^

    >せあらさん

    進歩がないともいいます(^^;)

    3年前からこの文章?!
    ねたま……じゃなくて、羨ましいです。。

    >ネミエルさん

    ネタバレになりますがこちらの書きかけのほうが重要な……うわあなにをいわせるんですか(^^)

    >せあらさん

    ありがとうございます。
    書き上げたのが3年くらい前なので、いろいろと至らないところはあると思いますが、どうかそこには目をおつぶりに……(^^;)

    スローペースでも全然OKです!
    内容に膨らみがあった方が、読んでいて面白いですからvそれに毎日更新されているので、安心して読めますしね^^

    このてぃあらはキーワードとなるのでしょーか?

    非常に気になります。
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