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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    3 吸血鬼を吊るせ(完結)

    吸血鬼を吊るせ 1-10

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    10

     軽トラックはさすがにパスし、わたしはプラドの助手席に座った。
     無言のまま遥美奈は車をしばらく走らせた。沈黙に耐えかねて、わたしは質問をした。
    「博物館は広いんですか?」
     ハンドルを握りながら、遥美奈はおかしそうに笑った。
    「こんな島ですよ。予算なんてありません。流行の、テーマパークみたいなのを期待してらっしゃいましたか?」
    「あんな金食い虫、こういう平和な島には必要ありません。テーマパークを造ろうなんて思想は、水際で撃退するべきでしょうね」
    「村長もそう思ったみたいです。そんなわけで、できたのが、あれです」
     もうついたのか。指さす先を見ると、公民館のような小さな建物が見えた。
    「あれが……ええと?」
    「『戸乱島歴史博物館』です」
    「へえ。飾り気のない建物ですね」
    「デコレーションする予算がなかったから、らしいですよ」
     失礼なことをいってしまっただろうか。
    「あの中に、羽谷姫様の?」
    「ええ。ミイラが」
    「失礼な話ですけど、見に来る人なんて、そういるんですか?」
    「いないこともないですよ」
     遥美奈はそう答えて、車を駐車場に入れた。
    「本土からの観光客もそれなりにいます。中学校の団体見学とか。単に怖いもの見たさのオカルトマニアなんかもちょくちょく来るようです。羽谷姫様には失礼極まりない話だと思いますけど」
     オカルトマニアの心境のほうがよくわかるような気がする。
    「地元の人はあまり行かないんでしょうね」
    「それが、そんなこともないんですよ」
     遥美奈は車のエンジンを切った。シートベルトを外すのを見て、わたしも留め金に手をかける。
    「一番多いのが実は地元だったりするんです。どうしてだと思います?」
     車から出ながら、考えた。
    「宗教的な理由でしょうかね」
    「ええ。ご利益に預かろうと、拝みに来るんです」
     遥美奈は、車のドアをばたんと大きな音を立てて閉じた。
     駐車場には遥美奈のプラドの他には職員用と思われる二台の車しか停まっていなかった。シーズンオフの平日ともあれば当然だ。たぶんこの博物館は貸切状態だろう。
     そう思いながら連れ立って自販機で三百円の切符を買い、受付のおばさんに見せた。おばさんはにこりともしないで券をもぎると、パンフレットを一部わたしに押し付けた。ありがたくいただく。
     博物館の内部は、外から見たよりはこころもち広い感じを受けた。しかし、この手の歴史博物館の常として、古びた農機具やら舟やら野良着やらが多大なスペースを占めており、実際に歩ける場所はそう多くない。
    「ミイラはどこに?」
    「あれは地下です。西方さんもそこでお待ちになっているはずです」
     せっかく展示されているのだから、貴重な歴史財産も見ることにした。どうせ見たってわかりはしないのだが。わたしは貧乏性だろうか。
     小船の上で投網を投げている漁師の写真がある。見入っていると、遥美奈に背中を突っつかれた。わかっている。わかってはいるが、これも何かの役に立つかもしれないではないか。
     順路をたどっていくとやがて下へ降りる階段に突き当たった。階段の前の案内板には『妖怪「捨取乞」と羽谷姫の間』と書いてある。
     捨てる、取る、乞う……ストリゴイ、と読ませるのか。読みにくい。
    「ここでいいんですか?」
     と聞いたものの、考えてみたらいいに決まっている。ので、遥美奈の返事を待たずに階下へ降りた。
     まず、目に飛び込んで来たのは激しい戦いを描いたかなり古い日本画だった。
     吹きすさぶ嵐。稲光が激しくひらめくなかに、血の紅と折り重なる死体の黒が。そして中央であいまみえる二つの白い顔。片方は巫女の装束に身を包み、もう片方は目を剥いて襲い掛かろうとしている。守るように突き出された両手。その後方では粗末な衣を身につけた男が、白木の杭を手におびえた表情を見せている。
     絵の下にある説明書きを読んだ。
    『捨取乞調伏図』
    「……すごい絵だ」
     呆然としながらも左手へ目を向けた。
     ミイラと目が合った。
     落ち窪んだ眼窩、未だにびしっと整った形を崩さない姿勢、身につけたぼろぼろの装束の下には乾ききった肉体。長い年月の末真っ黒になった肌が痛々しい。
     先の絵の迫力とは違った意味での重々しさがあった。
    「この人が……」
     やがて追いついてきた遥美奈が、わたしのその喘ぎに答えていった。
    「羽谷姫様です」
    「わたしの生涯最大の発見ですよ」
     柔らかいが、芯に揺るぎのなさを感じさせる男の声に振り返った。
     遥美奈の後ろに立っていたのは、わたしと同じような体格をした、茫洋とした雰囲気を漂わせる男だった。一見なにも考えていないように見受けられるが、その双眸に宿るのは間違いなく知性の光だ。
    「あなたが……」
    「はじめまして。西方光太郎です」
     西方光太郎は手を差し出してきた。わたしも握る。
    「桐野俊明です」
     手を離して、ぐるりを見渡した。
    「すごいものですね」
    「気に入っていただけましたか」
    「気に入るもなにも……」
     もう一度見渡す。
    「この部屋の展示だけで、充分に見に来る甲斐があるというものですよ、西方さん」
    「嬉しいお言葉です。桐野さんのような感想をいって帰られるお客さまもけっこういるのですよ」
    「ミイラの展示はやりすぎのような気がしてましたが、この絵と一体になった迫力は驚くべきものがありますね」
    「ああ、この『捨取乞調伏図』ですね」
     西方光太郎は絵のほうに目を向けた。
    「すばらしいでしょう。江戸初期の画家、多羅尾永哲の作品です。まるで見てきたようだ」
    「江戸のものなのですか」
    「そうです。寛永の世にこの地を訪れた永哲が、夢の中で神意を受けて描いたという話が遺っています。芸術家というものは一度インスピレーションに打たれると、過去や未来が見えるものなのでしょうかね」
    「夢の世界は広大無辺です。過去や未来とつながっていてもおかしくないでしょう。過去夢だとか予知夢だとかいう話も多数語られていますし。夢から未来を占うのは、古代世界の神秘職の重要な仕事でした」
     西方光太郎は、はっとしたような視線をわたしに送った。
    「桐野さん、そういえば、あなたは夢の世界の専門家でしたね。ナイトメア・ハンター」
    「専門家と呼べるほど知識はないですがね。今日は流子さんの夢の世界を理解するうえで参考になりそうなお話をうかがいに来たんでした。ここでお話しするのもいいですが、羽谷姫様の参拝客の邪魔になってもいけません、どこか静かなところはないですか? できれば椅子があるような」
     二、三秒考えるような顔をした後、西方光太郎はわたしたちにいった。
    「わたしたち学芸員が詰めている部屋があります。といってもわたし一人のためにあるようなものですが。そこが空いてます。行きましょう」
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    ~ Comment ~

    Re: しのぶもじずりさん

    それはおっかなかったでしょうねえ。

    モンティパイソンのコントの「デジャ・ヴュ」よりも怖いなあ。

    わたしは年に二、三度、「小説で新人賞を獲った」夢を見るのですが、いまだに「予知夢」になってくれません(笑)。

    がんばるぞー。

    思い出しました

    あたし、予知夢見たことがありました。

    目の前にいる現実の人たちが、10日くらい前に見た夢と全く同じ言動をしたのは、そりゃあもう、怖かったです。

    夢を見た日、起きがけに夢の話を他人にした為、はっきりと覚えていたのです。

    桐野さんと知り合いだったら。相談していたのに。

    >佐槻勇斗さん

    わたしも可能な限り全部見ます。

    ……たとえ入館料300円でも(^^)

    ミイラと目が合う……

    ひえぇぇえぇえぇ!!!!Σ(ロ´|||)
    怖いですね~恐ろしいですね~テンション上がりますね~←

    朝から想像力が働いてしまいましたv

    博物館に行ったら目的のモノだけではなくとりあえず全部見ますよね。
    金、払ってるんですもん(`^´)

    ……佐槻も貧乏性でしょうか;;

    >ネミエルさん

    もともとは即身仏になった坊主という設定で書いていました。それじゃ色気がないだろうというので巫女さんに変えました。
    色気もなにもあったもんじゃない小説ですけど(^^;)

    ミイラ・・・ですか・・・

    いや、ミイラといえばエジプトのアレしか思い浮かばなくてw

    すいませんww
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