ウォーゲーム歴史秘話

    独ソ戦舞台裏では火の車(一句)

     ←100000ヒット御礼・その2・矢端想さん →「きっと、うまくいく」見た
    1941年6月。共産主義によるユートピアを目指して日夜奮闘するわたし、鉄の男スターリンのもとに恐ろしい知らせが届いた。相互不可侵条約を結んでいたドイツが、突如わが祖国ソヴィエト連邦に攻め込んできたのである。国境付近の守りを薄くしていたことが災いし、わずか二週間としないうちに戦線は突破され、前線の部隊(実際は、このゲームは「軍」を単位として行なうが、そう書くとミリタリーファン以外にはわかりづらいので以降は「部隊」と呼ぶことにしたい)は壊滅的損害を受けた。まずい。後方にはわずかな部隊しかいない。動員をかけるにしても、今は十分な数の兵士がいないのだ。部隊のひとつひとつにしても、上級指揮官がほとんどいないため、ドイツ軍の統制がとれている行動の前にはただ殴られているだけだった。反逆者の疑いをかけて将官をあんなにたくさん粛清するんじゃなかった、と思っても後の祭りである。唯一の救いは、こちらが送ったスパイたちの活動により、ドイツ軍の位置をわれわれは正確につかんでいるのに対し、向こうはこちらの動きをほとんど察知できないでいるらしい、ということである。しかしなんていう機動力だ。すでにミンスクは陥落し、ドイツ軍の先鋒である装甲部隊はスモレンスクをうかがうところまで来ている。このままモスクワに突進してきたら、わが国家は滅亡だ。わたしは手持ちの部隊のほぼ全部を、ヴィヤジマ付近に集結させた。たぶん突っ込んでくるだろう装甲部隊を、受け止めて包囲する作戦である。とはいえ、それだけではどうしようもない。我がロシアには兵士が必要なのだ、それも一兵でも多くの!

    1941年7月。装甲部隊は思ったとおりモスクワに向かって突進してきた。ふふふ、罠にはまりにくるとはしめしめである。後退してくれるなら後退してくれるだけで儲けものだし、戦うのならばT-34戦車の威力を思い知らせてやるだけだ。装甲部隊の指揮官は、正面から我が軍に対抗することに決めたらしい。我が軍の包囲機動に対し、反撃をしてきたのである。これにより、我が軍も少なからぬ損害を受け、包囲の一翼が崩れたが、まだこちらには十分な力が残っている。わたしはわが指揮官のティモシェンコに、総攻撃の命令をくだした。ティモシェンコは我が期待に応えた。スモレンスク付近の一大戦車戦は、ほぼ引き分けで終わったのである。ソ連軍によるはじめての軍事的な成果であった。オデッサとレニングラードには戦意に燃える市民たちと稼動している工場、それに活動している司令部が立てこもっていた。特にオデッサの場合、黒海をソ連海軍が押さえているため、洋上を補給路として使えるのである。とはいえ、ドイツ軍の機動力を考えると、陸づたいの脱出はとうてい無理である。わたしとしては、一刻でも長く生き残ってくれることを祈るばかりだ。レニングラード方面は、予想外というか、幸いにもまだドイツ軍が来ていない。時間の問題だろうが、やはり脱出させるべきだっただろうか。いや、レニングラードを渡すわけにはいかないだろう。

    1941年8月。動員はうまくいったものの、わがソ連軍の戦意はまったく向上せず、軍レベルでの戦闘態勢もまったく向上していなかった。圧倒的なドイツ軍の前に、士気がほとんど上がらないらしいのだ。なんとか戦線は構築したものの、「縦深陣」などできたものではない。広いが薄い戦線、それくらいしか張ることはできなかった。ドイツ軍の装甲部隊がとうとうレニングラードの封鎖を開始した。だがまだ、モスクワとの連絡線はつながっていた。ドイツ北方軍集団の規模からして、それほど大規模な作戦行動は取れまい。わが軍は敵の装甲部隊に大規模な攻勢をかけた。少しずつ出血を誘うのだ。モスクワ前面では中規模な突破がみられたが、まだ戦線はもちこたえている。少なくとも大崩壊、というレベルにはならないはずだ。わが戦線は次の増援でさらに厚いものとなるだろう。そうなったら総反撃開始だ! オデッサはまだ持ちこたえている。ドイツ南方軍集団の一個部隊をくぎづけにしているその価値は大きい。がんばれオデッサ! がんばれオデッサ!

    1941年9月。動員はうまくいってない。戦争へ向けた意識の向上もない。祖国がこんな危険にさらされているのに、なにを考えているのだ。とはいえ、現在のわれわれの部隊数からして、攻勢をかけてもいいはずだ。わが軍はドイツ軍へ向け、圧力をかけることにした。だがそこで、わたしは重大なる誤算に気づいた。部隊の編成は戦線の後方でやらねばならないため、いきなり敵軍の目の前に部隊を配置することはできなかったのだ。わたしは「ルールブック」を握る手が汗ばんできそうだった。オデッサとレニングラードはまだ持ちこたえているが……。唯一の希望らしきものがあるとしたら、ドイツ軍がうかつにも開けていた戦線の隙間から、彼らにまだ気づかれていない一個部隊を敵の後ろに回りこませ、鉄道網を切断できる可能性なのだが……ちょっとでもドイツ軍が自軍の側面を警戒し、軍を機動させたらそれだけでアウトである。モスクワには絶望的な空気が立ち込めた。

    1941年10月。雨が降り、ロシアの大地はいちめんの泥沼と化した。ドイツ軍の戦車が思うように動かない、いってみれば大チャンスなのだが、それでもソ連人民の戦闘意欲は上がらず、動員もはかばかしくいかなかった。そんな中、先月不用意かつ中途半端に敵と接敵したわが軍は、ドイツ軍から猛烈な反撃を受けた。南方と、中央のソ連軍はほぼ全滅、生き残ったのは三分の一にも満たない有様である。ソ連軍部隊のひとつひとつは敵に向かいながら倒れるかのような英雄的な最後を遂げたのだが、わたしの純粋な気持ちとしては、「反撃などどうでもいい! 生き残れ! ひとりでも多く生き残れ!」ただそれだけだった。わたしは自分で思うよりも人情家なのかもしれない。損害がひどかったのは特に南方で、ドニエプロペトロフスクが陥落し、守るものもいないハリコフはドイツ軍の侵入を待つばかりであった。そんな中、思いもしないことに、ドイツ軍はハリコフ方面の軍を後方に下げた。これ幸いと、ソ連軍はハリコフに入城し、というか逃げ込み、ほっと一息ついた。さらには、先月から「誰にも知られない存在」になっていたソ連軍部隊が、なんということかドイツ軍の後方に回り込むことに成功、ドイツ軍司令部の補給線を断ち切った。これがどういうことになるか、ドイツ軍上層部も、モスクワも、よくわかっていなかった、といえる。南方はそれでいいとしても、問題は中央のソ連軍に大穴が開いてしまったことだ。そこから装甲部隊の指揮官が冒険的な機動をして回り込めば、モスクワは陥落してしまうのだ。わたしはかき集められるだけのソ連軍部隊をかき集め、モスクワを中心に円形防御陣を張った。ツーラなどくれてやる、そんな覚悟である。そしてドイツ軍はやってきた。モスクワの運命もこれまでか、とわたしは思い、ソ連政府をクィブィシェフへ疎開させた。だがわたし、このイョシフ・スターリン自身はモスクワを離れる気は毛頭なかった。最後までモスクワに留まって、最後の最後まであきらめないでソ連軍を指揮するのだ。とはいえ、執務室の机の引き出しにある拳銃の存在が、頭にちらちらしていたのは事実である。さらに悪いことに、モスクワ前面で戦っていたソ連軍部隊が敵中に孤立、降伏してしまった。全戦線に渡って、兵力上の劣勢は、目を覆うような有様だった。

    1941年11月。雪だ。待望の雪が降った。これで相手の空軍は、思うように使えなくなるのだ。そのせいか、ソ連人民の戦争に対する士気も上昇。これにより、個々のソ連軍はほぼ、倍の力を持つようになったといえる。それだけではなかった。鉄道線路の遮断により、ドイツ南方軍集団の機能は、完全に停止し、部隊のほとんどがまともに動かない状況になっていたらしいのである。もし、南方のソ連軍が無事だったら、総攻撃のチャンスなのだが、援軍はすべてモスクワ方面にまわさなければならないほど切羽詰っていた。とにかく、モスクワに隣接しているドイツ軍をどうにかしなければならない。周到な準備の末、反撃が開始された。ドイツ軍にはいくらか損害を与えたようだが、この攻撃の過程で、モスクワのソ連軍部隊までもが壊滅してしまったのである。新造した「打撃軍」の部隊をスライドさせることでなんとか最悪の事態は回避したが、今考えても冷や汗が出る。ドイツ軍からも、切断された鉄道線を取り戻すための反撃が行なわれたが、飛行機は飛ばず補給もなくこちらの戦意は旺盛、というわけで、倍の敵に挟まれてはいたが、敵中にあるわが軍のあの英雄的な部隊は生き残っていた。戦争が終わって生き残っていたら、上は将官から下は二等兵に至るまで、あの部隊に属する全員にソ連邦英雄勲章を授与してやりたいものである。

    1941年12月。敵がモスクワ前面にまで来ているせいか、動員がひさしぶりにうまく行き、人民の戦意も上がった。こうなったら怖いものはなにもない。全面的に攻撃! と思ったら、相手は逃げた。モスクワにとって最大の危機は脱け出せたらしいが、おのれ生かして帰すものか、である。追撃! 追撃! 追撃あるのみ! とはいえ、相手に追いつく足はないのだが。南方軍集団を足止めしている部隊も、オデッサを保持している部隊も、レニングラードに立てこもっている部隊も、みんな元気だ。

    1942年1月。ようやく南方に至るまでの戦線が再構築できた。人民の戦意も絶好調。とりあえず敵に隣接するだけ隣接し、殴れるだけ殴るのみである。ドニエプロペトロフスクは再奪取に成功。他の前線も前進。ドイツ軍を押し戻した。レニングラードもオデッサも、敵中で越冬したわが英雄たちもみなタフに耐えていた。ドイツ軍の突進はかく阻まれ、わがロシアにとり、史上もっともきつく厳しい年は終わった。軍事的には、わが軍の勝利だといえるだろう。だが、これで戦争が終わったわけではない。これからさらに、地獄のような戦争が何年も続くことになるのだ……。

     使用したゲーム:山崎雅弘「FALL BARBAROSSA バルバロッサの場合」シックス・アングルズ第15号「独ソ戦コレクション‐1」付録

     ドイツ軍プレイヤー:str_takeshiさん

     ソ連軍プレイヤー:ポール・ブリッツ


     ※ ※ ※ ※ ※

    ゲーム解説

     ホビージャパンのオリジナルボードゲームコンテストでみごと入賞してみせた、その筋では著名なゲームデザイナーである山崎雅弘氏のデビュー作。独ソ戦最初の半年、バルバロッサ作戦開始から赤軍冬季反攻までだが、いちおう第二次世界大戦の東部戦線全域を、シングルブラインドシステムで行なうという、前代未聞のゲームである。ブラインドサーチシステムを簡単に説明すると、2つのまったく同じゲーム盤の間についたてを立て、互いに敵の事情がわからない中で、手探り状態で戦うというシステムである。普通は審判役の第三者をつけるのだが、シングルブラインドでは、「相手の事情がわからないのは一方だけ」にすることにより、審判を不要にし、かつシミュレーション性を上げる役割もさせるという、当時としては画期的なアイデアだった。要するに、ソ連軍にとっては「相手の動きはまるわかり」なのに対し、ドイツ軍は「相手がどこにどれだけいるのかまったく見当もつかない」状態で戦わなければならないのである。それだけ情報量に差があっても、ドイツ軍の戦闘力はおそろしく強力で事態の急変に対する弾力性があり機動力があり、ついでにソ連軍の攻撃によってはびくともしないくらい防御力が高く、ソ連軍は事態に対応しきれない。このゲームで賞を受賞したときの、若き山崎氏のドヤ顔が目に浮かぶようである。

     ソ連軍ファンのわたしは、今回はソ連軍を受け持ったが、数多のバルバロッサ作戦ものでも、このゲームのソ連軍は群を抜いて楽しい。逃げる以外にもやることがあるし、ある意味ドイツ軍よりも優れているところがあるのだから当然である。

     ドイツ軍はドイツ軍で、いわば真っ暗闇の中でどこから敵が襲ってくるのかわからない状態でゲームをするのだから、いくら強い軍隊を持っていても、その恐怖はいかばかりか。胃が痛くなってくるんじゃないかなあ。それに、ドイツ軍は補給の面で実にシビアな状態にあるので、手を縛られたボクサーみたいな戦い方をしなくてはならない。なにしろ、補給部隊が装甲部隊の突進についていくことができないのだ。

     20年前以上のゲームになるが、ブラインド系のゲームとしてはプレイ可能だしプレイしていて面白いゲームである。だが、ミニゲームだとはいえ、ルールの説明確認休憩込みで、勝敗がつくまでの8ターンに8時間もかかってしまっては、普通の人なら二の足を踏むだろう。手続きも、普通のゲームに比べれば煩雑である。いまだったら、コンピュータを使うところだが、20数年前は、満足なインターネット環境というものが整っていなかったのだ。当時のプログラム技術でこのゲームのルールを再現することができたとしても、パソコン通信でやりとりをしようとしたら、NTTにいくら払わなくてはならないだろうか、と考えると空恐ろしくなる。

     たしかに昔のゲームだが、「当時の最高司令官が味わっていた感覚」を追体験したい人には、このゲームはおすすめである。そういう意味で、このゲームはシミュレーションというよりもロールプレイングゲームなのかもしれない。

     ……楽しいよ。

     このゲームを終えて例会を後にするとき、「ポールさんって普通のシミュレーションゲームもするんですね」といわれて内心ちょっとくやしかったのはナイショだ!(笑)

     それに、このゲームは断じて「普通のシミュレーションゲーム」ではない!(笑)

     ……ほんと、楽しいよ。見ている人がいちばん楽しい、という意見もあったけど(爆)



    付記・ドイツ軍側から見た戦況の様子 
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    Re: 椿さん

    シミュレーションゲームは知性で勝つのではありません。

    体力と根性とサイコロ運で勝つんです(笑)

    休憩があったとはいえ、8時間もよく耐えたよわたしの身体(^^;)

    NoTitle

    ゲームリプレイ毎回楽しいです。
    世の中、いろんなゲームがありますね。プレイしてみたい。
    頭悪いからすぐに負けそうだけど(^_^;)
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