「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 サヤカ J
サヤカ
友原市に帰ってくるのはひさしぶりだ。しかし、市も有名になったものだった。もっと有名になっているのは、いまあたしがその場にいる鹿澄神社であり、迫水家だった。
マスコミが十重二十重に囲む中を潜り抜け、あの石段を放送機材を担いで登ったであろうヒマラヤ登山のシェルパのような撮影スタッフに呆れつつ、あたしは玄関のブザーを押した。
「…………!」
戸口の向こうから聞こえてきた足音へあたしが何かいう前に、引き戸ががらがらがらっと引き開けられた。
「……沙矢香!」
木刀を片手に握ったアキラは、あたしの顔を見ると、空いているほうの手であたしの腕をぐっとつかんだ。そのまま、家の中に引きずり込まれたあたしの後ろで、引き戸ががらがらぴしゃんと閉じられた。
アキラは木刀をからんと取り落とすと、あたしの身体をぎゅっと抱きしめ、肩に顔をうずめ、大声で泣き出した。
あたしは、何かその光景が、どこか遠くで起きているかのように思えていた。
「アキラ、だまって行っちゃってごめんなさい。……その木刀はどうしたの?」
アキラはあたしから身体を離すと、顔を袖でぬぐった。
「いや、新聞記者がうるさかったので、これを見せると……ね」
何が起こったのかは想像にとどめることにした。
それにしても、やっぱり、京都なんかに行ったのは失敗だったとつくづく思う。良寛さんのいうとおり、あたしみたいな小娘が手練手管の数々を知っている大人にかなうわけがなかったのだ。
いつもの喫茶店に行って、良寛さんがいなくなっているのを知ったときはショックだった。テレビやネットや新聞でニュースは知っていたが、普通にしゃべっていた人が突如消え去るというのは、精神によろしくない。
どこをどう歩いたかの記憶なんてないまま、あたしは帰りの新幹線に飛び乗り、衝動的に友原市へと帰ってきた。
……だが、この寂寥感はなんだろう。
考えてみれば当たり前だ。
アキラの心は、もはやあたしのものではないことを、あたしはよく知っていたからだ。
奥から、才蔵おじいさんが姿を見せた。
「沙矢香ちゃんか! ……いや、よく、無事で帰ってきた。ひと足早い修学旅行の感想を聞かせてもらえんかのう。いや、わしは本気じゃぞ」
おじいさんの声を、あたしはぼんやりと聞いていた。奥からもう一人の人間が顔を出したからだ。
西連寺望……。
友原市に帰ってくるのはひさしぶりだ。しかし、市も有名になったものだった。もっと有名になっているのは、いまあたしがその場にいる鹿澄神社であり、迫水家だった。
マスコミが十重二十重に囲む中を潜り抜け、あの石段を放送機材を担いで登ったであろうヒマラヤ登山のシェルパのような撮影スタッフに呆れつつ、あたしは玄関のブザーを押した。
「…………!」
戸口の向こうから聞こえてきた足音へあたしが何かいう前に、引き戸ががらがらがらっと引き開けられた。
「……沙矢香!」
木刀を片手に握ったアキラは、あたしの顔を見ると、空いているほうの手であたしの腕をぐっとつかんだ。そのまま、家の中に引きずり込まれたあたしの後ろで、引き戸ががらがらぴしゃんと閉じられた。
アキラは木刀をからんと取り落とすと、あたしの身体をぎゅっと抱きしめ、肩に顔をうずめ、大声で泣き出した。
あたしは、何かその光景が、どこか遠くで起きているかのように思えていた。
「アキラ、だまって行っちゃってごめんなさい。……その木刀はどうしたの?」
アキラはあたしから身体を離すと、顔を袖でぬぐった。
「いや、新聞記者がうるさかったので、これを見せると……ね」
何が起こったのかは想像にとどめることにした。
それにしても、やっぱり、京都なんかに行ったのは失敗だったとつくづく思う。良寛さんのいうとおり、あたしみたいな小娘が手練手管の数々を知っている大人にかなうわけがなかったのだ。
いつもの喫茶店に行って、良寛さんがいなくなっているのを知ったときはショックだった。テレビやネットや新聞でニュースは知っていたが、普通にしゃべっていた人が突如消え去るというのは、精神によろしくない。
どこをどう歩いたかの記憶なんてないまま、あたしは帰りの新幹線に飛び乗り、衝動的に友原市へと帰ってきた。
……だが、この寂寥感はなんだろう。
考えてみれば当たり前だ。
アキラの心は、もはやあたしのものではないことを、あたしはよく知っていたからだ。
奥から、才蔵おじいさんが姿を見せた。
「沙矢香ちゃんか! ……いや、よく、無事で帰ってきた。ひと足早い修学旅行の感想を聞かせてもらえんかのう。いや、わしは本気じゃぞ」
おじいさんの声を、あたしはぼんやりと聞いていた。奥からもう一人の人間が顔を出したからだ。
西連寺望……。
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NoTitle
沙矢香ちゃん帰ってきた!
良寛さんいなくなっちゃったのですね……。エピローグも近そうですね。
まだ、望ちゃんには複雑な気持ちのようですが。
一番の女友達の座は、彼氏にも劣らない、もしかしたらそれ以上かもしれない大切なものだから安心してね、と言ってあげたいです。
良寛さんいなくなっちゃったのですね……。エピローグも近そうですね。
まだ、望ちゃんには複雑な気持ちのようですが。
一番の女友達の座は、彼氏にも劣らない、もしかしたらそれ以上かもしれない大切なものだから安心してね、と言ってあげたいです。
- #15603 椿
- URL
- 2015.04/26 12:53
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Re: 椿さん
「荒野のウィッチ・ドクター」も書かなくては……。
逐電しようかなわたし(^^;)