「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 ノゾミ 18-4
「もし、父と兄が、必至の手を打っていたとしたら、ぼくたちにはどんな形で王手をかけてくるとお考えですか」
「手は山ほど考えられる」
才蔵おじいさんは手を開くと、指を折って数え始めた。
「ひとつ、夢鬼による精神世界への波状攻撃。いわゆる正攻法じゃな。旅順要塞に正面から歩兵の飽和突撃を何度も何度もかけた乃木将軍みたいな真似じゃが、わしらは三人なのに対し、相手は何人、いや、何百人いるのかすらもわからんから、これはこれで敵としてはありじゃ。じゃが、こんな手は取ってこないじゃろうな」
「どうして?」
迫水さんの当然の疑問に、才蔵おじいさんは答えた。
「面白くない手だからじゃ。あの瑠璃ちゃんを送り込んできたやり方を考えると、相手はわしらに、『奇手』を見せて悦に入るという悪い趣味を持っておるらしい。まあ、それだからわしらは今もこうして、生命も取られず、なんとか顔を突き合わせてぐだぐだしゃべっていることができるわけじゃから、その点は運命に感謝するべきなんじゃろうが」
「ふたつ目は?」
ぼくは身を乗り出した。
「暗殺者を送り込んでくる方法」
才蔵おじいさんは中指を伸ばした。伸ばしてからかぶりを振った。
「これもないじゃろうな。暗殺者など送ったら、警察の手に引っ掛かりかねんし、だいいち、相手にしてみたら、同じ手を繰り返すようで芸がない、と考えるじゃろう」
才蔵おじいさんは伸ばした指をじっと見ていた。
「……いかんな。わしも、大日本帝国海軍のような思考にどっぷり浸かりかけとる。こちらの事情がこうで、このような防御態勢しか取れないから、敵はこちらの防御に沿うように動いてくるものと想定して現実の行動を決めてしまう。もしそう運ぶものなら、ミッドウェーでもガダルカナルでも連合艦隊は大勝利をおさめたじゃろうが、そうはいかなかったのが現実じゃ。じゃが、わしらにはあまりにも情報と、それにもまして戦力が少ない。相手が動いてほしい方向に動いてくれる、そういう条件でもなければ互角にすらも戦えんのじゃ」
才蔵おじいさんの口調には苦渋と自嘲が混じっていた。それを聞いたぼくは、重苦しい気持ちになって肩を落とした。
「おじいちゃん、三つめ」
迫水さんがびしっといった。ぼくだけでなく、才蔵おじいさんも理性を取り戻したようだった。
「そうじゃな。三番目は……」
ブザーが鳴った。二度、三度と。
「見てきます」
迫水さんは立ち上がった。木刀を持って。
「手は山ほど考えられる」
才蔵おじいさんは手を開くと、指を折って数え始めた。
「ひとつ、夢鬼による精神世界への波状攻撃。いわゆる正攻法じゃな。旅順要塞に正面から歩兵の飽和突撃を何度も何度もかけた乃木将軍みたいな真似じゃが、わしらは三人なのに対し、相手は何人、いや、何百人いるのかすらもわからんから、これはこれで敵としてはありじゃ。じゃが、こんな手は取ってこないじゃろうな」
「どうして?」
迫水さんの当然の疑問に、才蔵おじいさんは答えた。
「面白くない手だからじゃ。あの瑠璃ちゃんを送り込んできたやり方を考えると、相手はわしらに、『奇手』を見せて悦に入るという悪い趣味を持っておるらしい。まあ、それだからわしらは今もこうして、生命も取られず、なんとか顔を突き合わせてぐだぐだしゃべっていることができるわけじゃから、その点は運命に感謝するべきなんじゃろうが」
「ふたつ目は?」
ぼくは身を乗り出した。
「暗殺者を送り込んでくる方法」
才蔵おじいさんは中指を伸ばした。伸ばしてからかぶりを振った。
「これもないじゃろうな。暗殺者など送ったら、警察の手に引っ掛かりかねんし、だいいち、相手にしてみたら、同じ手を繰り返すようで芸がない、と考えるじゃろう」
才蔵おじいさんは伸ばした指をじっと見ていた。
「……いかんな。わしも、大日本帝国海軍のような思考にどっぷり浸かりかけとる。こちらの事情がこうで、このような防御態勢しか取れないから、敵はこちらの防御に沿うように動いてくるものと想定して現実の行動を決めてしまう。もしそう運ぶものなら、ミッドウェーでもガダルカナルでも連合艦隊は大勝利をおさめたじゃろうが、そうはいかなかったのが現実じゃ。じゃが、わしらにはあまりにも情報と、それにもまして戦力が少ない。相手が動いてほしい方向に動いてくれる、そういう条件でもなければ互角にすらも戦えんのじゃ」
才蔵おじいさんの口調には苦渋と自嘲が混じっていた。それを聞いたぼくは、重苦しい気持ちになって肩を落とした。
「おじいちゃん、三つめ」
迫水さんがびしっといった。ぼくだけでなく、才蔵おじいさんも理性を取り戻したようだった。
「そうじゃな。三番目は……」
ブザーが鳴った。二度、三度と。
「見てきます」
迫水さんは立ち上がった。木刀を持って。
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