「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 ノゾミ 18-3
「あやつらの親であるあの爺ですら、わずかな期間であれほどの狂信的な手下をそろえたのじゃぞ。やつらの地元である京都に、どれだけのつてがあるかを考えてみい」
ぼくは考えた。
「時形流にはそれなりの歴史があります。弟子も多いです。社会的信頼もあります。政界、財界……」
「政界、財界、町内会、じゃな。すまん、くだらんこといった。ということはつまり、警察の打つ手は相手のほうにまるわかり、という可能性があることを示す。可能性、どころの話じゃすまんじゃろうな。高い蓋然性、というところかのう」
才蔵おじいさんは他人事みたいな口ぶりで話してはいるが、その目は真剣だった。
「機敏に動けば、警察の包囲網を突破して、どこかへ姿をくらますこともできるじゃろう。もしかしたら、この友原市までやってくるかもしれんな。かつて放棄したところとはいえ、土地について詳しい情報も持っているじゃろうからな」
「そんな……」
自分でもわかる情けない声をあげたぼくに、才蔵おじいさんはさらに追い打ちをかけるようなことをいった。
「さらに悪い事態も考えられる。相手が将棋でいえば『必至』の手をすでに打っていた、そんな可能性も否定はできまい」
「必至……」
「なんじゃ。最近の高校生は将棋もろくにささんのか。嘆かわしい。必至というのは、直接の王手ではないが、それを打たれた時点で勝負が決まってしまうような手のことをいうのじゃ。軍事的には、クラウゼヴィッツと同じころに活躍した軍事思想家のジョミニが指摘したといわれる、『ディシジョン・ポイント』というあれじゃな。原典でなくて英語の孫引きじゃから、ジョミニが正確になんといったのかはわしは知らんが」
ぼくは叫んだ。
「そんなトリビアどうでもいいです! 必至くらい知ってます!」
片膝を上げて才蔵おじいさんに向かいなおろうとしたちょうどそのとき、迫水さんがぼくのそばに寄ってきた。
「ごめん、西連寺くん。おじいちゃんがこういうくだらない知識をべらべらしゃべるときは、頭脳がフル回転している証拠みたいなものだから」
ぼくはよほど疑わしそうな顔をしていたらしい。
「ふん」
才蔵おじいさんは鼻で息をした。
「少年、お主も吉本隆明という思想家の本を読んだらどうだ。あれも、論理の流れがあっちいったりこっちいったりするくせがあり、呆れたミシェル・フーコーに誌上対談を断られたそうじゃが、いっていることはきちんと筋が通っておる」
ぼくは考えた。
「時形流にはそれなりの歴史があります。弟子も多いです。社会的信頼もあります。政界、財界……」
「政界、財界、町内会、じゃな。すまん、くだらんこといった。ということはつまり、警察の打つ手は相手のほうにまるわかり、という可能性があることを示す。可能性、どころの話じゃすまんじゃろうな。高い蓋然性、というところかのう」
才蔵おじいさんは他人事みたいな口ぶりで話してはいるが、その目は真剣だった。
「機敏に動けば、警察の包囲網を突破して、どこかへ姿をくらますこともできるじゃろう。もしかしたら、この友原市までやってくるかもしれんな。かつて放棄したところとはいえ、土地について詳しい情報も持っているじゃろうからな」
「そんな……」
自分でもわかる情けない声をあげたぼくに、才蔵おじいさんはさらに追い打ちをかけるようなことをいった。
「さらに悪い事態も考えられる。相手が将棋でいえば『必至』の手をすでに打っていた、そんな可能性も否定はできまい」
「必至……」
「なんじゃ。最近の高校生は将棋もろくにささんのか。嘆かわしい。必至というのは、直接の王手ではないが、それを打たれた時点で勝負が決まってしまうような手のことをいうのじゃ。軍事的には、クラウゼヴィッツと同じころに活躍した軍事思想家のジョミニが指摘したといわれる、『ディシジョン・ポイント』というあれじゃな。原典でなくて英語の孫引きじゃから、ジョミニが正確になんといったのかはわしは知らんが」
ぼくは叫んだ。
「そんなトリビアどうでもいいです! 必至くらい知ってます!」
片膝を上げて才蔵おじいさんに向かいなおろうとしたちょうどそのとき、迫水さんがぼくのそばに寄ってきた。
「ごめん、西連寺くん。おじいちゃんがこういうくだらない知識をべらべらしゃべるときは、頭脳がフル回転している証拠みたいなものだから」
ぼくはよほど疑わしそうな顔をしていたらしい。
「ふん」
才蔵おじいさんは鼻で息をした。
「少年、お主も吉本隆明という思想家の本を読んだらどうだ。あれも、論理の流れがあっちいったりこっちいったりするくせがあり、呆れたミシェル・フーコーに誌上対談を断られたそうじゃが、いっていることはきちんと筋が通っておる」
- 関連記事
-
- 夢鬼人 ノゾミ 18-4
- 夢鬼人 ノゾミ 18-3
- 夢鬼人 ノゾミ 18-2
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Comment ~
NoTitle
既に手を打たれている……。ありそうでコワイ。
流れによっては良寛さんと望ちゃんの対決に?
いや、戦うのは晶ちゃんですね、きっと。
おじいちゃんカッコいい。
流れによっては良寛さんと望ちゃんの対決に?
いや、戦うのは晶ちゃんですね、きっと。
おじいちゃんカッコいい。
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: 椿さん