「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 ノゾミ 20-3
応仁の乱! 戦国時代!
「……あっちでもこっちでも戦が続くんだ。それに乗じて土民たちも暴れる。ぼくたちに伝わる口伝によれば、あのころはまさに、ぼくたち『夢鬼』にとっての黄金時代だった。あの時代を、『日本にとっての青春時代』と表現した歴史小説家がいたそうだね。まったくその通り。青春時代っていうのは、みんながみんな、馬鹿な夢を見て、無法の限りを尽くして、そして夢の中で死んでいくものさ。口伝では、あちこちに出向いて片端からうまい夢を食らったことが、ありありと表現されている。それは美濃の油売りの夢であったり、山城国の土民たちの絶望の夢だったり、極楽浄土を夢見る信仰篤い信徒の夢だったり……まさに『夢鬼』のために作られた世界だったそうだよ」
聞いていられなくなり、ぼくは師匠のほうをちらりと見た。
師匠……才造おじいさんは、さっきから目をつぶり、静かに話を聞いているようだった。眉ひとつ動かす様子はない。この冷静さは見習わなくちゃならない。そもそも兄がやったことだから、ぼくにも責任の一端くらいあるのかもしれないというのに、取り乱してどうするんだ。
ぼくは自分の頬を一発ひっぱたくと、国枝さんをしっかりと見据えた。ひっぱたいた音が神経に触ったらしく、迫水さんがものすごい形相でぼくを見た。
「きみたち、『夢逐人』の邪魔がなかったら、明智光秀を使って織田信長を殺した後、さらに百年単位で戦国時代は続いたはずだ。それがつぶれたのはまことにもって残念だよ。もし歴史がそのまま続いていたら、今ごろは……まあ、いまさら文句をいうことでもないな。口伝では、そこでお互い、ぼろぼろになるまで殴りあって、どちらの勢力もほとんど根絶やしのような状態になってしまったということだから。ぼくたちは『踊り』という形で細々と、『夢鬼』であることのミームを伝え、きみたちはきみたちで、剣術という形で『夢逐人』としてのミームを伝えてきたというわけだ。お互い、仇敵がこんな近くにいながら、気がつかないで生きてきたんだから、なんというか、愚かというか、間抜けというか、メロドラマ的な、ギャグすれすれのすれ違い劇というか。こうした齟齬が存在するということは、この世を作った存在が、ぼく好みのブラック・ユーモア精神を持っていることの印みたいなものだから、ぼくは一概に悪いことだとは思わないけれど」
ふーっ、という音が聞こえた。才造おじいさんが息を吐いたのだ。
「こんなことをいえるのも、ぼくたちが『夢鬼』のしたことでも、古来いまだかつてない、史上最大のことをやろう、と考えているからだよ。すでに、その準備段階は終わっているし、後は実行するだけだ。もうだれも止められない」
「……あっちでもこっちでも戦が続くんだ。それに乗じて土民たちも暴れる。ぼくたちに伝わる口伝によれば、あのころはまさに、ぼくたち『夢鬼』にとっての黄金時代だった。あの時代を、『日本にとっての青春時代』と表現した歴史小説家がいたそうだね。まったくその通り。青春時代っていうのは、みんながみんな、馬鹿な夢を見て、無法の限りを尽くして、そして夢の中で死んでいくものさ。口伝では、あちこちに出向いて片端からうまい夢を食らったことが、ありありと表現されている。それは美濃の油売りの夢であったり、山城国の土民たちの絶望の夢だったり、極楽浄土を夢見る信仰篤い信徒の夢だったり……まさに『夢鬼』のために作られた世界だったそうだよ」
聞いていられなくなり、ぼくは師匠のほうをちらりと見た。
師匠……才造おじいさんは、さっきから目をつぶり、静かに話を聞いているようだった。眉ひとつ動かす様子はない。この冷静さは見習わなくちゃならない。そもそも兄がやったことだから、ぼくにも責任の一端くらいあるのかもしれないというのに、取り乱してどうするんだ。
ぼくは自分の頬を一発ひっぱたくと、国枝さんをしっかりと見据えた。ひっぱたいた音が神経に触ったらしく、迫水さんがものすごい形相でぼくを見た。
「きみたち、『夢逐人』の邪魔がなかったら、明智光秀を使って織田信長を殺した後、さらに百年単位で戦国時代は続いたはずだ。それがつぶれたのはまことにもって残念だよ。もし歴史がそのまま続いていたら、今ごろは……まあ、いまさら文句をいうことでもないな。口伝では、そこでお互い、ぼろぼろになるまで殴りあって、どちらの勢力もほとんど根絶やしのような状態になってしまったということだから。ぼくたちは『踊り』という形で細々と、『夢鬼』であることのミームを伝え、きみたちはきみたちで、剣術という形で『夢逐人』としてのミームを伝えてきたというわけだ。お互い、仇敵がこんな近くにいながら、気がつかないで生きてきたんだから、なんというか、愚かというか、間抜けというか、メロドラマ的な、ギャグすれすれのすれ違い劇というか。こうした齟齬が存在するということは、この世を作った存在が、ぼく好みのブラック・ユーモア精神を持っていることの印みたいなものだから、ぼくは一概に悪いことだとは思わないけれど」
ふーっ、という音が聞こえた。才造おじいさんが息を吐いたのだ。
「こんなことをいえるのも、ぼくたちが『夢鬼』のしたことでも、古来いまだかつてない、史上最大のことをやろう、と考えているからだよ。すでに、その準備段階は終わっているし、後は実行するだけだ。もうだれも止められない」
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