「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 アキラ 21-2
……そうだった。ぼくは錯覚していた。この数日間で、一生分の時間が過ぎたような感じを覚えていたのだ。
「しかも、家の周りにはマスコミどもと警察官がうようよしておる。そんな中に、狂信的な幼女に白昼堂々毒物を振り回させるような、今や日本でもワーストクラスのテロ集団と目されている集団の構成員が接触しに来たら……どんなことになるのか想像したくもない。たぶん向こうの、なんというか、和解派も同じじゃろう。この家に入ることを誰もが認めるのは沙矢香ちゃんくらいじゃ」
「しかしそれでも、父や兄たちが事態を把握し切れていない、というのは」
ノゾミちゃんが額を押さえた。
「足利義教」
「え?」
「今回の騒動で、あやつらが持ち出してきた足利義教。室町幕府でも指折りのとんでもない人物じゃが、それがあやつらにとってどんな存在なのか、あやつらは具体的にそれを語っておらん。もし、事態を完全にコントロールしておるのじゃったら、わしらにそれを自慢してもよさそうなものじゃ。あやつらとかかわりがあったというが、いったいどういうかかわりなのか、さっぱりわからん。まずそれが第一」
「……第二は?」
祖父はぼくに目を向けた。
「第二は、なぜ、時形流の屋敷がわしらの近く……それも歩いて通える圏内じゃぞ……にあったというのに、なぜどちらも仇敵がそこにいるのに気がつかないまま、今までぼんやりと暮らせてこれたのかじゃ。そこの不自然さに、やつらはおろか、晶、少年、沙矢香ちゃん、皆がそろって不自然感を抱いておらず、しかも相手も不自然じゃと感じておらんと思われることじゃ。わしらの目を欺いていたのなら、やつらはそれを誇示してもよさそうなものじゃし、わしらに欺かれていた、とやつらが考えておるなら、わしらを当てこすってもよさそうなものじゃ。じゃが、あやつらはその点をまったく気にしておらんようじゃった。つまり、あやつらが何を考えているとしても、当然抱いていいはずの疑問を疑問と感じていないことだけはわかるじゃろう。それが、わしがあやつらがわしら以上に盲目で、そして自分たちが盲目であることに気づいていないのではないかと考える第二の根拠じゃ。そして第三」
「まだあるんですか?」
「まだあるもなにも、これについて誰もなにもまともに考えた様子がない、というのは信じられんことじゃな。時形流と、われら鹿澄夢刀流との間には、その動きに相通じたものがある。ということは、互いにもとはひとつのなにかであり、それが分かれたと考えるのが自然じゃろう。じゃが、そのひとつのなにかとはなんじゃ? そんな重要なことをどうして誰も気にせんのか、わしにはわからん」
「しかも、家の周りにはマスコミどもと警察官がうようよしておる。そんな中に、狂信的な幼女に白昼堂々毒物を振り回させるような、今や日本でもワーストクラスのテロ集団と目されている集団の構成員が接触しに来たら……どんなことになるのか想像したくもない。たぶん向こうの、なんというか、和解派も同じじゃろう。この家に入ることを誰もが認めるのは沙矢香ちゃんくらいじゃ」
「しかしそれでも、父や兄たちが事態を把握し切れていない、というのは」
ノゾミちゃんが額を押さえた。
「足利義教」
「え?」
「今回の騒動で、あやつらが持ち出してきた足利義教。室町幕府でも指折りのとんでもない人物じゃが、それがあやつらにとってどんな存在なのか、あやつらは具体的にそれを語っておらん。もし、事態を完全にコントロールしておるのじゃったら、わしらにそれを自慢してもよさそうなものじゃ。あやつらとかかわりがあったというが、いったいどういうかかわりなのか、さっぱりわからん。まずそれが第一」
「……第二は?」
祖父はぼくに目を向けた。
「第二は、なぜ、時形流の屋敷がわしらの近く……それも歩いて通える圏内じゃぞ……にあったというのに、なぜどちらも仇敵がそこにいるのに気がつかないまま、今までぼんやりと暮らせてこれたのかじゃ。そこの不自然さに、やつらはおろか、晶、少年、沙矢香ちゃん、皆がそろって不自然感を抱いておらず、しかも相手も不自然じゃと感じておらんと思われることじゃ。わしらの目を欺いていたのなら、やつらはそれを誇示してもよさそうなものじゃし、わしらに欺かれていた、とやつらが考えておるなら、わしらを当てこすってもよさそうなものじゃ。じゃが、あやつらはその点をまったく気にしておらんようじゃった。つまり、あやつらが何を考えているとしても、当然抱いていいはずの疑問を疑問と感じていないことだけはわかるじゃろう。それが、わしがあやつらがわしら以上に盲目で、そして自分たちが盲目であることに気づいていないのではないかと考える第二の根拠じゃ。そして第三」
「まだあるんですか?」
「まだあるもなにも、これについて誰もなにもまともに考えた様子がない、というのは信じられんことじゃな。時形流と、われら鹿澄夢刀流との間には、その動きに相通じたものがある。ということは、互いにもとはひとつのなにかであり、それが分かれたと考えるのが自然じゃろう。じゃが、そのひとつのなにかとはなんじゃ? そんな重要なことをどうして誰も気にせんのか、わしにはわからん」
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