「紅探偵事務所事件ファイル」
    夕闇のメッセンジャー

    夕闇のメッセンジャー 6

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     仕事は手早くやるにこしたことはなかった。

     失意の長倉友則を部屋から追い出した後で、暴力団員の携帯から受信記録を読み出し、固定電話を優先させて(携帯からかかってきた番号は調べても効果が薄いだろう)自分の携帯に転送、それらを分析のため東京の紅恵美のもとに送った。さらにメールを読む。他愛のないものやら事務的なものやらがあったが、中からめぼしいものを選び出してこれまでの経過を説明するメールとともにこれまた東京に送った。紅恵美の懇切丁寧な指導により化石人間のようなわたしも人並みには携帯を操作することができるようになっている。全ての操作が終わるまではわずかな時間しかかからなかった。いい時代になったものだ。

     さて、ここからは化石人間のノウハウが問われる。

     わたしは暴力団員に活を入れた。その眼が焦点を結ぶ頃合を見計らって、取り上げた例のトカレフを突きつける。突きつけただけではなく、スライドを音を立てて引いてみせた。

     そのときの顔は見ものだった。懸命にもがくが身体の自由は奪ってある。口からはまともな言葉が出てこない。

    「……わ……うわ! て、てめ……」

    「眼の前にあるものをよく見て黙って聞け。初めにいっておくがわたしは銃の扱い方をまったく知らないというわけじゃない。この銃に実弾が入っていることも知っているし、トカレフに安全装置なんてないことは持ち主のお前がいちばんよく知っているだろう。今のこの銃は引き金を引けば弾丸が飛び出す状態だ。お前が信じようと信じまいと勝手だが、妙な動きをしたり声を上げたりしたら、わたしはびっくりして指に力が入ってしまうかもしれん。わかるか? わかったらうなずけ」

     もがいても無駄だとわかったのか、暴力団員はうなずいた。

    「よし、それではこれからお前にいくつか質問をする。お前はそれに対して素直に正直に答えろ。ちなみにわたしはイライラすると人差し指に力が入ってしまう悪癖がある。そのことを忘れるな」

     暴力団員は何度も何度もうなずいた。

    「では、第一問だ。お前の名前は?」

    「き、木村、太郎」

     わたしは自称木村の顔面に銃口を押し当てた。はずみで撃ってしまうことになるかもしれないと考えると得策ではないが、アピールにはなるはずだ。

    「岡村孝和ですっ!」

     それを聞いて銃口を離した。岡村という名前はさっき見た携帯のメールにあったからだ。

    「平巣にお前たちの仲間がぞろぞろ集まっているようだが、親分の甲斐繁信がいるんだな? どこにいる?」

    「会長はいません!」

    「嘘を聞くと人差し指が震えるんだよな」

    「本当です! 会長は自宅で指揮を執られているので、平巣みたいなところにはいないんです! 嘘じゃありません!」

    「それじゃ平巣にいるのは誰だ」

    「会長のお嬢さんです! コーポ平巣台の302号室にいます! 信じてくださいっ!」

    「女を売るような奴が信用できるか。それじゃ、甲斐繁信について聞こう。やつの今日の予定は?」

     わたしは甲斐繁信の情報をねちねちと聞き出した。

     それにもいいかげん飽きてきたころ、マナーモードに設定しておいたわたしの携帯がポケットの中で振動した。取り出して通話ボタンを押す。

    『竜崎? あたしよ』

    「あ、カシラですかい」

     電話口の向うにいる紅恵美の声は、組員の岡村くんには聞こえるはずもなかった。わたしが「カシラ」といった瞬間に、この組員の背筋は硬直した。

    『(紅恵美は爆笑した)何バカなことやってんのよ。まあいいわ。あなたが送ってくれたリストの固定電話番号を甲紋会のコンピュータと付き合わせたところ、平巣に関係ある電話番号は一つだけ。かけられた先の住所はコーポ平巣台302号室。電話番号は……』

    「へい、へい、わかりやした。ぬかりはありやせん」

     ちらりと岡村孝和を見る。顔面は蒼白だった。少し気の毒だ。

    『それと、調べていたら例のソフトのもともとの発注先が、どうも甲紋会にかかわりがある企業だったらしいの。売り出された時点ですぐに降りているから、金が流れたのは別の会社になったけどね。これでだいたいの事情はわかったけど、あまり楽しくはない話ね。竜崎もわかったでしょ? それじゃ』

    「えっ! ちょっとそりゃあ……いえ、わかりやした」

     こちらの声には耳もくれずに紅恵美がさっさと電話を切ったので、わたしも携帯を畳んだ。

    「余計な殺生はするなとさ。お前はけっこう運がいいぞ」

     脂汗を流していた岡村孝和の口に枕カバーで猿轡をした。部屋の反対側の隅に取り上げておいた携帯を、電源を切って置く。部屋の真ん中に書き物机を据えた。

    「障害物競走だ、商品はお前の自由。時間無制限。せいぜい頑張れ」

     そういい残して、外へ出た。それにしても紅恵美は何をわかったというのだろう。あいつは天才なのかもしれないが、こちらは凡俗なのだ。考えたがこれというまとまった思考にはならなかった。聞くのも癪だ。

     まあいい。甲斐雪子に会ってみれば全てははっきりするはずだ。


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    ~ Comment ~

    Re: limeさん

    竜崎くんは有能でかっこいいハードボイルド探偵小説の主役も張れる男ですが、残念ながら国家権力には嫌気がさすような性格で、とらばーゆ(死後)したら天才少女のお守をすることになったという……。

    まあ本人は国家の手先として生きるよりは今の生活のほうを楽しんでいるみたいではありますけど(笑)

    大沢在昌先生の「アルバイト探偵」シリーズもわたし好きであります。面白いですよ。

    それと投票ありがとうございました!

    NoTitle

    竜崎さんが思いがけずパワフルで有能なので、安心して楽しんでいられます。読むの遅れがちですが、追っかけて行きますね。
    そして、早くももう6月。
    うっかりでした。
    まだ読んでいないけど、先に投票してまいりました。あとでゆっくりと^^

    Re: 椿さん

    この話では、あとはずっと竜崎くんのターンです。紅恵美所長はバックアップに徹しています。

    紅恵美はそこらへんの判断はできる人間ですので。好奇心旺盛なうえなにを考えているかわからない娘ではありますが。

    NoTitle

    竜崎さん活躍パートに萌え萌えです。
    突然のヤクザ口調に吹きました。竜崎さん、チョイスがベタすぎ(笑)
    恵美さんにはもう、真相が見えたようですね。

    Re: LandMさん

    実弾入りの拳銃を、怖い探偵にぐりぐり押し当てられた状態で、一回でも偽名が名乗れたこの組員、見かけよりもたいしたタマではないかと思います(^_^)

    まあそれでも拳銃ぐりぐりには勝てませんが(^_^;)

    NoTitle

    そこはジョン・スミス(アメリカで山田太郎と同じ意味)!!と名乗れば!!・・・誤魔化せないか。

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