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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    3 吸血鬼を吊るせ(完結)

    吸血鬼を吊るせ 1-16-2

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    16(承前)

     わたしは、まだしっかりしている左肩で、アメフトよろしく、遥流子に体当たりを試みた。
     距離と筋力と敏捷性が足りなかった。六十八キロのわたしの身体は、遥流子にきれいにかわされ、わたしはたたらを踏んですっ転んだ。
     遥流子がどたっ、どたっ、どたっ、と宮部看護師のほうに走るのが見えた。
     なぜそんな身体で走れるんだ!
     医学の常識というものが音を立てて崩れていくのがわかった。ナイトメア・ハンターという職業柄、常識が崩れていくのには慣れているが、今日みたいに現実の世界で発破解体されてしまうのは初めてだ。
     起き上がった西方光太郎が畏怖に満ちた声でいった。
    「ストリゴイ!」
     そんなことはどうでもいい。わたしは左手をついて身を起こし、遥流子をなんとか止めようとした。彼女が宮部看護師をどうする気なのかは考えたくもなかった。
     だが、考える以前に、目の前で事態は進展していた。
     逃げる相手に追いついた遥流子は、その背に馬乗りになった。動かないはずの口を大きく開け、喉に……。
     噛み付いた!
     悲鳴が上がった。誰の悲鳴なのかは判然としない。宮部看護師のものか、野村香と遥美奈のものか、はたまた西方光太郎か、もしかしたらわたしのものかもしれなかった。誰もが、なにかを叫んでいたような気がする。
     頸動脈を食いちぎったのか、血が派手にしぶいた。真っ赤な血が、壁を、カーテンを、じゅうたんを染める。
     遥流子は恍惚とした表情のようなものを浮かべながら、喉元に吸い付いていた。パジャマも肌も真紅の化粧をしている。血を吸うのにも飽きたのか、その背がぐっと伸び上がったかと思うと、バンと窓に体当たりした。
     窓は音を立てて壊れ、戸外の様子が明らかとなった。
     猛吹雪だった。ガウンの下には寝巻きしか着ていないわたしたちは、その冷気に立ちすくんだ。
     遥流子が外を背にしてこちらを向き、にいっと笑った。
     どうしようもない。わたしも西方光太郎も、遠巻きにして眺めているよりなかった。
     背後で足音がした。
     振り返った。
     遥喜一郎だった。老人がなにをしているんだ。早く逃げてくれないと……。
     その手にあるものがなんだかわかったとき、初めて彼が逃げたわけではないことを知った。
    「やめろ!」
     わたしは怒鳴った。
     遥喜一郎はやめなかった。
     昨日、遥喜一郎はわたしに喋った。
    『……ベレッタをごらんにいれましょう。愛用の品ですからな……』
     今、眼前にわたしはそのライフルを見ていた。
     遥喜一郎は引き金を引いた。
     長年狩猟で腕を磨いていたのはだてではなかった。
     大口径狩猟用ライフルの破壊力も半端ではなかった。
     足りなかったのは、わたしの力だけだった。
     遥流子の頭が、ザクロかなにかのようにはぜた。
    「お姉ちゃん! お爺様!」
     遥美奈が叫んだ。
     遥喜一郎が、厳しい顔つきでライフルにもう一発の弾丸をこめた。
     そのまま、銃を立てるように持ち換える。
    「やめてください!」
     なにをしようとしているのか悟り、わたしと西方光太郎は異口同音に叫びながら老人に飛びかかった。
     遅かった。
     遥喜一郎の小指が引き金を引いた。銃口は自分自身の喉もとに向けられていた。
     血と脳漿が飛び散った。
    「お爺様!」
     遥流子のほうを見るのが辛く、わたしは目を背けた。
     わずか一日とたたぬうちに、この家には四体もの死体が転がることになってしまった。
     西方光太郎はぶつぶつとつぶやいていた。
    「ストリゴイだ……ストリゴイは本当にいたんだ……封じてくれていた羽谷姫は掘り出すべきではなかったんだ……流子は本物の吸血鬼に……」
    「しっかりしろ、西方さん! よく考えてみろ、吸血鬼が銃で死ぬか? 流子さんは本物の怪物じゃない、何者かにコントロールされていたに違いないんだ! おそらく、夢魔……」
    「いいかげんにして!」
     遥美奈が立ち上がり、憎悪に満ちた目をわたしに向け、怒鳴った。
    「なにがナイトメア・ハンターよ! このペテン師! 疫病神! お前なんか、お前なんか、来なければよかったのよ! 帰って! さっさと帰って! 今すぐにこの家から出て行って、二度と戻って来ないで!」
     そこまでいって緊張の糸がぷつんと途切れたらしく、また座り込むと泣き始めた。
    「お姉ちゃん……お爺様……」
     あまりにももっともすぎて何の反論もできなかった。
     サイレンが聞こえてきた。
     警察が来たのだ。
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    ~ Comment ~

    >佐槻勇斗さん

    だって桐野くんは大学のときに射撃部で、「ナイトメア・ハンターの掟」第二章「カメラは血を浴びて」でもあの大男の坂元くんを背負って延々と歩きとおせた、もろに体育会系の人ですもん。68キロしかないのがかえって不思議なくらいで。
    性格からして、射撃部には「間違えて入った」のかも知れませんが……(^^;)

    久しぶりにリアルに流血シーンの出てくるお話を読み、ちょっとだけ指先が冷たくなりました(^ω^;)

    そういえば、桐野先生はわりと小柄なのだろうと想像しておりましたが意外にも68㌔もあったのですね!

    >せあらさん

    それについては明日からの第二部をご期待ください(^^)
    がんばって書いたつもりですので!

    わわっ急展開Σ(・艸・。)
    羽谷姫、ストリゴイ、吸血鬼っていうキーワードと夢魔。
    死人はたくさん出ているけど、飽きさせない展開なので先が気になります!
    桐野先生はこの後、どういう行動に出るんでしょうね?
    ワク(((o(*゚∀゚*)o)))ワク

    >ネミエルさん

    でもまあ遥美奈ちゃんの気持ちもわかってあげてください。
    肉親ふたりと肉親同様の人がふたり死んだらそりゃ平静じゃいられませんので。

    それに第二部もあるしな。

    先生…

    やっちまいましたなw

    大体女子っていうのは自分の都合が悪くなるとすぐにそうやって言って自分は悪くない見たいにいう

    昔からいやなんです、そういうの
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