偉大な男のものがたり(長編児童文学・完結)
偉大な男のものがたり 1日目 4
はっと目をつぶり……そして、すでに熱さを感じていないことに気がついた。
恐る恐る目を開ける。
明るい。さっきの太陽の光ではない。もっと弱い、ぼんやりとした灯りだ。
「よお」
誰かの声がした。
そちらに目を向けると、緑の眼帯をかけ、片目だけをのぞかせた青年がにやにやと笑っていた。
「ぼ……ぼくは」
保はしゃべり、その声が、自分のものとはかなり違うことに気がついた。
「無理してしゃべらなくてもいい。何年さまよっていたのかわからんが、今はこうして船の中にいるわけだからな」
青年は意味のわからないことを尋ねてきた。保はいいよどんだ。
「船? さまよって、って……ぼくはついさっき、急にこの宇宙に放り出されて」
「じゃ、お前はツイてるってことだ。宇宙空間に蹴り出されたアストラル・ボディがスクープに引っかかって拾われるってことは、本当に珍しいことなんだからな」
「アストラル・ボディ?」
保は右手を持ち上げた。自分の身体が、どうかなってしまったのだろうか?
「ああああ!」
保は絶叫した。自分が持ち上げた「右手」は、真っ白の……ぶよぶよとしたアメーバ状の肉のかたまりだったのである。
「そのまま、そのまま」
青年は保のその触手のような手をベッドに戻すと、苦笑いした。
「お前の身体がもとはどんなものだったかは知らないが、八時間も過ぎれば、お前のもとの種族の身体の形になる。それまでは、ここで寝ているのがいちばんいい」
「は、はい」
青年は奇妙な形をした容器を手に取り、口につけて、飲んだ。
「さて、名前があったら、聞いておきたいが。名乗りたくなかったら、ノーボディ、でもいいぞ」
「保です。ええと……」
保は愕然とした。自分の姓がまったく思い出せない!
「タモツか。奇妙な名だな。おれは『グリーン・パッチ』だ。パッチでいい」
「……この船は、いったい? あなたは、船長さんですか?」
パッチは爆笑した。
「船長ね! この『アドヴェンチャラー号』には、おれなんかよりも、もっと偉い船長がいるよ! おれはしがない三等航海士だ」
アドヴェンチャラー号……保は背筋が冷えていくのを感じた。これは、ついさっきまで自分が読んでいた小説に出てきた船の名だ。
……自分は、あの小説に書かれた世界の中に放り込まれてしまったのだ!
恐る恐る目を開ける。
明るい。さっきの太陽の光ではない。もっと弱い、ぼんやりとした灯りだ。
「よお」
誰かの声がした。
そちらに目を向けると、緑の眼帯をかけ、片目だけをのぞかせた青年がにやにやと笑っていた。
「ぼ……ぼくは」
保はしゃべり、その声が、自分のものとはかなり違うことに気がついた。
「無理してしゃべらなくてもいい。何年さまよっていたのかわからんが、今はこうして船の中にいるわけだからな」
青年は意味のわからないことを尋ねてきた。保はいいよどんだ。
「船? さまよって、って……ぼくはついさっき、急にこの宇宙に放り出されて」
「じゃ、お前はツイてるってことだ。宇宙空間に蹴り出されたアストラル・ボディがスクープに引っかかって拾われるってことは、本当に珍しいことなんだからな」
「アストラル・ボディ?」
保は右手を持ち上げた。自分の身体が、どうかなってしまったのだろうか?
「ああああ!」
保は絶叫した。自分が持ち上げた「右手」は、真っ白の……ぶよぶよとしたアメーバ状の肉のかたまりだったのである。
「そのまま、そのまま」
青年は保のその触手のような手をベッドに戻すと、苦笑いした。
「お前の身体がもとはどんなものだったかは知らないが、八時間も過ぎれば、お前のもとの種族の身体の形になる。それまでは、ここで寝ているのがいちばんいい」
「は、はい」
青年は奇妙な形をした容器を手に取り、口につけて、飲んだ。
「さて、名前があったら、聞いておきたいが。名乗りたくなかったら、ノーボディ、でもいいぞ」
「保です。ええと……」
保は愕然とした。自分の姓がまったく思い出せない!
「タモツか。奇妙な名だな。おれは『グリーン・パッチ』だ。パッチでいい」
「……この船は、いったい? あなたは、船長さんですか?」
パッチは爆笑した。
「船長ね! この『アドヴェンチャラー号』には、おれなんかよりも、もっと偉い船長がいるよ! おれはしがない三等航海士だ」
アドヴェンチャラー号……保は背筋が冷えていくのを感じた。これは、ついさっきまで自分が読んでいた小説に出てきた船の名だ。
……自分は、あの小説に書かれた世界の中に放り込まれてしまったのだ!
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