偉大な男のものがたり(長編児童文学・完結)

    偉大な男のものがたり 2日目 3

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    「まあ、祖先がどんな種族だったとしてもわしらにとってはどうでもいいことじゃがね。重要なのは、論理を共有しているということじゃよ」

     天井からふわりと、髪の毛よりもまだ細い、きらめくような糸が数本、目の前に垂れ下ってきた。

     保が後ずさりすると、糸はからかうように右左に振れた。

    「おっと、きみはきみ以外の種族の肉体にはまだ慣れていないんじゃったな。失敬失敬」

    「副長どの、実習生をそうおからかいにならないでも」

    「ウェブ二等航海士、こういう遊びはできるうちにやっておかねばならん。ほっほっほ」

     糸……シルク副長はふわっと舞い上がり、天井近くを漂いだした。

    「この船から降りることはできるの? ぼく、地球へ帰りたいよ」

     パッチは自分の首筋をとんとんと叩いた。

    「やれやれ、そんなに自分の乗っていた船が恋しいのか。未教育のままで長いこと船で暮らすというのは、種族的な『引きこもり』を作っちまうらしいな」

     そういうと、パッチは手を伸ばし、保の肩にかけた。

    「この船から降りるのはいつでも自由だ。だがそのかわり、この船のものは返してもらわなくちゃならん」

    「この船のものって?」

    「きみのアストラル・ボディをつなぎとめる、焦点核だ」

    「焦点核?」

     ニードルが身体を左右に揺らした。あきれているらしい。

    「皆、持っているだろう。塵ほどの大きさをした、小さな白い粘土状の粒だ。ほら、タモツ実習生、きみの右の……手、でいいのか? その触手の」

     パッチが訂正した。

    「指!」

     保は自分の右手を見た。

    「そう、その太い触手、じゃなかった、ええと、『親指』か。その先端にある」

     あった。

     保はまじまじと自分の親指を見つめた。

     親指の爪の中心に、たしかに塵ほどの大きさだが、白い粒が埋まっていた。

    「これ……外すとどうなるの?」

    「きみは仮想の肉体として焦点を合わせることができなくなる。その結果、きみは再び精神のみの存在となって、じわじわと気体のように希薄になっていき、最後には、どうやっても焦点を合わせられなくなるほど……さっきも同じこといったような気がするが」

     保はあわてて右手を引っ込めた。

     ウェブが繊毛を震わせた。

    「大丈夫よ、ちょっとやそっとじゃ離れないから。でも、とても貴重なものだから、替えはないわよ」


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