偉大な男のものがたり(長編児童文学・完結)

    偉大な男のものがたり 3日目 1

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     3日目



     保は船内の廊下を掃除していた。この廊下というものが一筋縄ではいかないもので、ゴムのように柔らかいと思ったらその一瞬後には鋼のように固くなるのだ。どんな技術が使われているのか想像も……。

     保はスポンジのような柔らかい紫色のかたまりを握り、雑巾がけの要領で床を拭いた。考えたところでしかたがないといえばしかたがないのだ。この拭いている行為さえ、洗剤で床を磨いているのか栄養剤を床に塗っているのか。

     それとも意味などまったくない、一種の「働きごっこ」であるのか……。

     スポンジを押し当てる手に力がこもった。

     もとの正常な世界へ帰りたい!

     保はごしごしと床を磨いた。涙が二、三滴、床に落ちた。

    「おう、やってるな」

     野太い声が背中の方から降ってきた。はっと顔をそちらに向けると、そこにいたのは船長だった。

     小山のような巨漢。牡牛かと見まごうほどの太い首に、無数の細かい、点で突いたような目があった。複眼、というらしいことは、小学校の図書室で読んだ昆虫図鑑で知っていたが、パッチらの話によると、あれは目の機能だけではなくてにおいや音や味などを感知する器官でもあるということだった。

     がっちりした上半身。しかし腕はなかった。足にあたる下半身はどろどろした粘土状になっていて、そこをアメーバのようにうねらせて移動しているらしい。

    「船には慣れたか?」

    「は、はい、船長」

     保はそう答えた。実際のところ、この船に乗せられてまだ三日目である。慣れたわけではなかったが、この船長の声……なのだろうか? それには保に有無をいわせないだけの威厳があった。

    「ちょっと貸してみろ」

     アメーバ状の下半身から偽足のようなものが伸びてきて、保の手から紫色のスポンジを奪った。

    「ここはこうやって、丁寧に気持ちを込めて磨くんだ」

     偽足が丁寧に床面を動いていく。

    「わかったな」

    「はい」

    「いい返事だ。そうやって磨いていれば、じきに悲しい気分なんて飛んでいく。どうやら、お前はあのパッチの種族とほんとにそっくりらしい。悲しくなると、目から液体が出るなんてな」

     保は手の甲で目じりをぬぐった。この船長の前だと、そうするのが正しいように思えたからだ。

     船内のものは、皆、船長に敬意を払っていた。保もまた同じ気持ちだった。


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